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第61話 魔王討伐2

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「うわああああああああああああああ!?」 

「きゃああああああああああああああ!!」 

会場に悲鳴が響き渡る。この場にいる官吏や貴族たち、全ての人々の悲鳴だ。


「大丈夫ですか! レオン様!」

エリスが俺を心配したて、来てくれた。好都合だ。

「殺さないと、殺さなければ。殺せば殺すころ殺したい、殺せころころころころころ……」

俺の感情は激しい憎しみに支配されていた。

エリスが憎い。アリシアとベアトリスが死んだのはコイツのせいだ。

「アルべルティーナ殿! 急いでリザレクションを! レオン殿は魔眼に屈しておられる!」

「承知した!」

魔眼だと? 一体何を?

そうだ。そんなことより、駄目だ、駄目だ。殺すしかない、殺す、エリスを殺そう……

「レ、レオン様?」

「ダメだ! レオン! リザレクション!」

『は!?』

俺は我に返り手が震えた。

俺の手にした刀はエリスの首の皮一枚のところで止まっていた。

俺がエリスを?

この手にかけようと?

信じられなかったが、実際、俺はあと一歩でエリスの首を刎ねるところだった。

「す、すまない。エリス」

「大丈夫です。わかってます。死の淵では例え虚数魔法使いのレオン様でも、抗えないのです」

「......エリス。すまない」

俺は首を垂れた。だが!?

レザレクション?

俺は思い出した。アルべルティーナとベアトリスが決闘した時のことを。

妹は攻撃をあえて受けながら、リザレクションの回復魔法を唱えながら突進した。

あの方法なら、魔王の至近距離に近づくことができる。

俺の最大の威力を持つ魔法はエグゾーダスじゃない。

近距離でしか使えないが、黒い刃の魔法『ダムド』だ。

それに、アリシアの使った『武技、捨狂煉路敷しゃっきょうれんじし』。

どちらも俺は習得している。

アリシアとベアトリスの残した戦う術。ここで使わないでおけようか?

俺はみなに言った。

「イェスタ、一時的に、あの触手を減らしてくれ! 俺はレザレクションを唱えながら、ヤツに突っ込む」

「承知した!」

「大丈夫か? 主、死ぬ気ではあるまいな?」

「心配するなよ。アルべルティーナ。俺はまだ、死にたくない! 二人の仇を取るまではな!」

「......主」

アルべルティーナは俺の気持ちを察してくれたようだ。

「......レオン様」

「安心しろ。エリス。勝機があるからやるんだ。必ず勝ってみせる」

「はい! エリスはレオン様を信じています」

俺はエリスの頭に手をやり、撫でる。

心地よさそうな笑顔を見せるエリス。

それが、子供の頃のベアトリスを思い出させる。

アリシアにそっくりなエリスはいやがうえにも、二人を思い出せる存在だ。

まるで、女神様が仕組んだ芝居ではないかと......さえ、最近は思うことがある。

だが、今は、俺の私怨を晴らすだけの問題じゃない。

この国、いや、人類の未来がかかっている。

「イェスタ、頼む!」

「承知した! すぐに隙を作る」

「イエスタ殿、主の回復は任せてくれ!」

「不要! 我が剣は不死身の剣、身体強化の魔法を頼みたい!」

「了解! 呪文唱える間合いがないのだな」

「その通り!」

「エリスにも身体強化の魔法をかけてください。エリスもレオン様の為に!」

「わかった。気をつけよ」

4人の役割が決まった。イェスタとエリスが突破口を作る。アルべルティーナは支援に徹し、俺が突っ込む。

そして、遂にその時が来た。

アルべルティーナの身体強化魔法を受けたイェスタは。

「おおおおおおおおおお!!!!!!!」

吠えると、先程までの数倍の速度で、戦場を駆け回り、触手の数を半分に減らした。

更にエリスもたくさんの触手を切り刻む。イェスタと違い、不死身ではないエリスが心配だが、今はエリスの戦力は貴重だ。実際、イェスタだけではこれほどの突破口を作れなかっただろう。

「今です! レオン殿!!」

「ありがとう! イェスタ! エリス!! 行く!!」

「レオン様! ご武運を!」

「主、死ぬな! エリスのために戻って来い! 相打ちなぞ私は認めぬぞ!」

わかっている。相打ちのつもりなんてさらさらない。

魔王を滅ぼし、エリスにプロポーズする。

そう、心に決めた。

俺はイェスタ達が作ってくれた突破口に一人突撃した。

「武技、捨狂煉路敷!!しゃっきょうれんじし!!

俺は自分にバフを盛り、突進した。

たちまち、数が減ったとはいえ、無数の触手が俺を襲う。

「ツッ!! リザレクション!!!!」

無数の触手を切り刻み、ときおり、触手が俺を貫くが、斬り飛ばし、リザレクションで回復する。

それを何十回も繰り返し、魔王のすぐそばまで突き進む。だが。

『ガキン』

「な、何!?」

唐突に俺の愛刀、『一期一会』が折れた。

だが、それでもかまわない。何故なら、既に魔王はもう目の前なのだ。

多数の触手がこの機を逃すまいと、俺に向かって突き進んで来る。

『加速III!』

俺はスキル加速IIIを使った。加速は一度使った後、しばらく使用できないクーリングタイムが存在する。

だから、ギリギリまで温存した。

俺の走る速度は一気に数百倍に跳ね上がった。襲い掛かる触手は宙を斬る。

そして、目の前に魔王の魔眼が見えた。

魔王の城で戦った魔族は魔物と同様、魔核を持っていた。

魔王も当然持っている。そして、その所在は赤く光る魔眼ではないか?

俺の想像があたっていれば、ピンポイントで核を狙える。

刹那。

「我が敵を滅ぼせ、黒い刃『ダムド』!」

「グ、グアアアアア!!!!」

魔王が悲鳴と思われる、耳障りな音を上げる。

俺は構わず。

「『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』、『ダムド』」

魔力の続く限り、何度も『ダムド』の魔法を唱えた。そして、もう魔力が...という瞬間。

『ピキピキピキピキピキピキ』

硬い物にひびが入る音がした。もう一歩か?

「何故じゃ。何故女神はワシを作った。ワシらは人を食ったりはせぬ。ただ、存在し、成長するだけで、人の土地を衰弱させ、魔物を増やす。人を愛する女神は何故ワシを作ったのじゃ? ワシとて、人と殺し合いなぞしとうない......なのに、何故?」

「魔王よ。人にも悪人はいる、だが善人もいる。何故、全知全能の神々が世界にお前や、悪人を作ったのか、俺にもわからん。だがな、一つ言えることがある」

「なんなのだ?」

「お前は、俺の幼馴染と妹の仇なんだ! だから、滅ぼす! 正直に言おう! 俺は聖人君主なんかじゃねぇ! 命をかけてお前と戦うなんて、まっぴらだ。だがな......お前はアリシアとベアトリスを殺した。だから、俺はお前を滅ぼす! ただ、それだけだ!!」

「そ、そんな...たかが、二人の為に」

俺は最後の力を振り絞って、最後の『ダムド』を唱えた。

「人にとっては、それが十分な理由なんだよ。喰らえ、『ダムド』!」

『ぴきーん』

ガラスが割れたかのような涼やかな音が聞こえた。

そして、魔王の核は突然、亀裂が大きく広がり、そして、霧散した。

『パーン』

魔王の核は霧のように広がり、どんどん消えて行った。同時に瘴気もどんどん消えて行った。

俺は、勝ったのか?


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