薬師なモブのはずですが、呪われ王子が離してくれません

東川 善通

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ただのモブなはすですが、離宮に住まわされてます

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 ちゅんちゅん。
 可愛らしい小鳥の声に目が覚める。目を明けた先に映るのは金糸の髪。

「また、か」

 いい加減に潜り込むのはやめて欲しいと言っているのに、この人は全く聞いてくれない。
 起き上がり、ぺちんと可愛らしい音を立てて頭を叩いてみるけど、むず痒そうにして私を抱きしめてきて終わった。

「起きてください、殿下」
「……」
「嘘寝だとわかってるんですよ」

 殿下と呼び掛けても、ぺちぺちと頭を叩いてもきゅっと目を瞑って起きようとしない。むしろ、私への拘束がきつくなってる気もしなくもない。

「イグナシオ殿下」
「……」

 名前を呼んでもダメ。全くこの人はどうして子供じみたことをするのだろう。私は溜息を吐いて、呼び掛ける。

「ナチョ、いい加減にして」
「……ふふっ、おはよう、リタ」

 愛称と崩した口調を吐き出せば、閉じていた目が楽しげな挨拶と共に開かれた。紅玉のような美しい紅い目に私が映る。

「おはよう。全くもう成人してるんだから、潜り込まないで。第一にナチョが勘違いされるでしょ」
「こっちとしてはそれでいいんだけど?」
「よくない! ナチョは王子様なんだよ。私みたいなモブ――村娘に構ってたらダメ」

 メッと怒ってみるけど、イグナシオ殿下――ナチョには効果がないようで、にこにこしている。

「そもそも、リタをここに連れてきた時点でリタは僕のものってなってるし、僕がリタの所に潜り込もうが何しようがとやかく言われることはないよ」
「あー、もう、じゃあ、私が村に戻る!」

 これで解決だと胸を張った瞬間、世界が反転した。目の前には変わらず、ナチョの姿。ただその背景は天井。

「ダメだよ、リタ。僕から離れないで」

 泣きそうな顔をして、上からギュッと私をお願いとばかりに抱き締めてくる。
 私がその顔と態度に弱いの知っててやってるでしょ!!!怒りたいけど、怒れない。この虚しさよ。

「リタ」
「……あー、もう、ほんと尊い」
「ほんと、リタは僕の顔好きだね」
「うゆさい」

 優しく蕩けるような声で名前を呼ばないでほしい。素直な気持ちを言えば、くすくすと笑いながら、ナチョは私から体を起こし揶揄う。小さい頃にそう言ってしまっているから、しょうがないとはいえ、少しの抵抗とばかりに言葉を吐く。尊すぎるのと恥ずかしいのとでまともに四文字すら発音できなかったけど。

「僕の顔ならいくらでも見せてあげるよ。だから、帰るなんて言わないで。帰る時は僕も一緒にね」

 そう言ってちゅっちゅっと私の顔にキスの雨。

「こ、ここ恋人じゃないんだから――」

 やめてと口にする前に甘い美貌が微笑む。

「じゃあ、恋人になろう。むしろ、両想いだしもう恋人だよね」

 にっこり甘い声で言われて私は第二の人生を終えた完。




 生きてます。生きてるよ。あまりの尊さに脳がシャットダウンしてしまったようで、今、再起動がかかったよ。
 まぁ、流石にもう目の前にはナチョはいないわけだけど。

『ずっとリタを眺めてたかったけど、お役目やって来るね。離宮内なら好きなことしてていいから』

 起き上がって、サイドテーブルを見れば、そこにそんな書き置きがあった。うん、眺めてなくていいです。自分でも整った顔はしてると思うけど、そこはほら、モブだから、それまでだよ。ナチョの周りにいる人に比べたら路端の石だよ。

「まぁ、それはいいとして、今日は何しようかな」

 対象ということで王宮に招集されたけど、ナチョに拐われ、彼専用の離宮に閉じ込められている私。うん、暇すぎる。用意されてた書庫もここ数日籠っていたせいで大体読んでしまったし、外にはメイドさん方が目を光らせていて出ることができない。

「薬でも作り置きしておこうかな」

 何時なんどき、必要になるかはわからない。あるに越したことはないはず。
 何故か作られていた作業場に移動し、持ち込んだバッグから薬草やハーブを取り出す。薬師であるわけですし、仕事をしようじゃありませんか。
 薬草とか採りに行けないのが辛いけど。まぁ、いざとなればお師匠の庭に繋げばいいんだけどね。
 早く王太子の選考終わればいいな。そしたら、多分ナチョもセットだと思うけど村に帰れるだろうし。
 ただ、モブだモブだと思っていた私はこの先に巻き起こることなんて当然のことながら気にすることはなかった。
 そもそも、そうなっていくのもこうなったのも、始まりはナチョとの出会いからなのだと思う。
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