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一章
心の葛藤は出口の見つからない迷宮のように思えてくる
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事の発端は自分なのだろう。それは、うん、理解しているとも。
ナチョが村に来て一ヶ月。すっかり村には慣れた様子のナチョ。出掛けがてらにあれは? これは? というナチョの質問に答え続けた一ヶ月。王子様だし、引きこもってたということもあって、ナチョにとって村とは言っても知らない世界。貴族世界もぶっちゃけ知らない世界だと言っていたけど。
始めこそは緊張とかで表情が固く、村の子供たちともぎこちなかったけど、今では笑顔で言葉を交わせるまでになっていた。
ちなみに王子様ということは早々にバレた。バレたというか、ビトがぶっちゃけやがったと言うべきか。わざわざ、迷子にしたというのに……。それでちょっとばかし余所余所しい雰囲気になってしまって、私はナチョについて離れた。
「リタは一緒にいたらよかったのに。あの子達、友達なんだろう」
「いいよ。へいき。わたしがナチョといっしょにいたいの」
「そっか」
そう返事をしてたけど、小さくありがとうという言葉が聞こえた。ただでさえ、ずっと一人にさせられてたんだから、ここでもかって落ち込ませたくないし、悲しませたくない。
けど、まぁ、そう言うのは本当に最初だけだった。私とナチョがあれこれ話したり、やったりしているとまずは警戒心が薄く好奇心が強い私よりも年下の子達がナチョに懐いた。そして、私と同年の子、少し上の子、ナチョと同年の子と広がっていった。ただ、ビトだけは頑なでナチョが目につく度、噛みつきに来た。全くなんなのだろう。
「リタ、どこか行くの?」
「ちょっと、はたけに」
「僕も一緒に行く」
現在、凄くナチョに懐かれた私はどこに行こうとしてもナチョがついてくるようになった。おかげで村ではニコイチだよ。私がいれば、当然ナチョがいて、ナチョがいれば、当然私がいるという認識。おかげでどちらかを探せばどちらもいるという状態になってるから、両親からしたらすごく助かるらしい。なんてことだ。
まぁ、ナチョといるのは嫌いじゃない。むしろ、顔好きだし、眼福といったところ。でも、ね、ほら、ね。私ってば、キャラを作ってるから、さ。正直疲れてくるんだよね。それは決してナチョが悪いと言うわけじゃない。
辛いなら打ち明けたらと考えなくもない。だって最初はナチョに素だったわけだし。でも、覚えてなさそうだったし、あの後は両親の前だということもあって子供を演じてたわけだし。まぁ、気になったのなら、聞いてくるかなって思ったのもある。結局、なあなあにしてしまったのは自分自身ということ。自覚あるし、わかってもいる。
畑で草むしりをしながら、私はそんなことを繰り返し考える。けど、どうすればいいのかなんて答えが出ない。
「リタ?」
「なんでもないよ」
ただ、彼を不安にさせたくないという自分勝手な考えだ。やっぱり嫌かな、と不安そうな顔をみるとそんなことないよと言ってしまう。突き放すのも必要なんだろうけどね。ぶっちゃけ、王子様なんだから、草むしりの手伝いなんてしなくていいんだよとも言いたい。言いたいけど、以前別のことでそんなことを言ったらしょんぼりとした顔をして、心がキュッとなった。そんな顔をさせたかったわけじゃない。思わずだった。でも、わかってるんだ。心の奥底ではナチョと私は住む世界が違うということを。
「よいしょっと」
「リタ」
立ち上がった私の手をナチョが握る。なにと首を傾げてみれば、ナチョはもにょもにょと口を動かし、言葉を探しているようだった。そして、言いたいことが決まったのか、目がキリッとする。可愛い。
「僕では力にならないかもしれないけど、話は聞けるから」
「うん」
「何か、悩んでるんだったら、相談してほしい」
「うん」
しまったなぁ。あんまりにも我慢のしすぎでぼんやりすることが多くなっていたせいもあって、心配をかけてしまったみたい。でもね、流石に素なんかを話すわけにはいかないな。正直、嫌われなくないし。中身が年上の人に布団に潜り込まれてたとか嫌でしょ。そういうことだよ。まぁ、私の羞恥心も凄いけどね。
「リタ、僕が言ったことわかってる?」
リタのことだからわかってるとは思うけどと呟くナチョ。うん、わかってるよ。わかった上でどう答えたものかと悩んでいるんだよ。正直に話すのは無理。けれど、何にもないよというのはきっとナチョの心を傷つけてしまいそうで。
「うん。わかってるよ」
「やっぱり、僕は頼りないから」
「そんなことないよ。だって、ナチョ、わたしがこわいゆめみたとき、いっしょにねてくれるもん」
ナチョがいてくれるから楽しい夢も見られると大袈裟に伝える。そうするとナチョは頬を緩ませて嬉しそうな顔をする。
「だからね、だいじょうぶだよ」
「でも、ぼんやりしてたから」
「えっと、ね、ナチョ、ないしょにしてくれる」
「勿論」
「おなかがなっちゃったの」
「え?」
きょとん。予想外のことを言われて、ナチョは固まった。そんなナチョも可愛い。
「だからね、きょうのごはんなにかなってかんがえてたの」
食い意地がはってるという勿れ。いや、もう、言ってて自分でそう思ってるからさ。わかってるからね。
「ふはっ、あはははは、そっか」
ナチョ、大笑い。ねえ、そこまで大笑いすることかな。いや、まぁ、可愛いからいいんだけどさ。涙まで出すほど大笑いしなくてもいいじゃん。
「むぅ、かあさんのごはんおいしいんだよ」
「うん、知ってる。イネスさんの作ってくれるご飯あったかくておいしいよね」
想像したら、僕もお腹空いてきたとナチョは笑う。うん、食欲があることはいいことです、そういうことにしておこう。それから、二人で家に帰って、手を洗って、母の手伝いをしてとご飯を美味しいねと言って食べた。
きっといつかはナチョにも、家族にも話した方がいいんだろうけど、今はこれでいいんだと思う。ちょっと、私が我慢するだけでいい。
ナチョが村に来て一ヶ月。すっかり村には慣れた様子のナチョ。出掛けがてらにあれは? これは? というナチョの質問に答え続けた一ヶ月。王子様だし、引きこもってたということもあって、ナチョにとって村とは言っても知らない世界。貴族世界もぶっちゃけ知らない世界だと言っていたけど。
始めこそは緊張とかで表情が固く、村の子供たちともぎこちなかったけど、今では笑顔で言葉を交わせるまでになっていた。
ちなみに王子様ということは早々にバレた。バレたというか、ビトがぶっちゃけやがったと言うべきか。わざわざ、迷子にしたというのに……。それでちょっとばかし余所余所しい雰囲気になってしまって、私はナチョについて離れた。
「リタは一緒にいたらよかったのに。あの子達、友達なんだろう」
「いいよ。へいき。わたしがナチョといっしょにいたいの」
「そっか」
そう返事をしてたけど、小さくありがとうという言葉が聞こえた。ただでさえ、ずっと一人にさせられてたんだから、ここでもかって落ち込ませたくないし、悲しませたくない。
けど、まぁ、そう言うのは本当に最初だけだった。私とナチョがあれこれ話したり、やったりしているとまずは警戒心が薄く好奇心が強い私よりも年下の子達がナチョに懐いた。そして、私と同年の子、少し上の子、ナチョと同年の子と広がっていった。ただ、ビトだけは頑なでナチョが目につく度、噛みつきに来た。全くなんなのだろう。
「リタ、どこか行くの?」
「ちょっと、はたけに」
「僕も一緒に行く」
現在、凄くナチョに懐かれた私はどこに行こうとしてもナチョがついてくるようになった。おかげで村ではニコイチだよ。私がいれば、当然ナチョがいて、ナチョがいれば、当然私がいるという認識。おかげでどちらかを探せばどちらもいるという状態になってるから、両親からしたらすごく助かるらしい。なんてことだ。
まぁ、ナチョといるのは嫌いじゃない。むしろ、顔好きだし、眼福といったところ。でも、ね、ほら、ね。私ってば、キャラを作ってるから、さ。正直疲れてくるんだよね。それは決してナチョが悪いと言うわけじゃない。
辛いなら打ち明けたらと考えなくもない。だって最初はナチョに素だったわけだし。でも、覚えてなさそうだったし、あの後は両親の前だということもあって子供を演じてたわけだし。まぁ、気になったのなら、聞いてくるかなって思ったのもある。結局、なあなあにしてしまったのは自分自身ということ。自覚あるし、わかってもいる。
畑で草むしりをしながら、私はそんなことを繰り返し考える。けど、どうすればいいのかなんて答えが出ない。
「リタ?」
「なんでもないよ」
ただ、彼を不安にさせたくないという自分勝手な考えだ。やっぱり嫌かな、と不安そうな顔をみるとそんなことないよと言ってしまう。突き放すのも必要なんだろうけどね。ぶっちゃけ、王子様なんだから、草むしりの手伝いなんてしなくていいんだよとも言いたい。言いたいけど、以前別のことでそんなことを言ったらしょんぼりとした顔をして、心がキュッとなった。そんな顔をさせたかったわけじゃない。思わずだった。でも、わかってるんだ。心の奥底ではナチョと私は住む世界が違うということを。
「よいしょっと」
「リタ」
立ち上がった私の手をナチョが握る。なにと首を傾げてみれば、ナチョはもにょもにょと口を動かし、言葉を探しているようだった。そして、言いたいことが決まったのか、目がキリッとする。可愛い。
「僕では力にならないかもしれないけど、話は聞けるから」
「うん」
「何か、悩んでるんだったら、相談してほしい」
「うん」
しまったなぁ。あんまりにも我慢のしすぎでぼんやりすることが多くなっていたせいもあって、心配をかけてしまったみたい。でもね、流石に素なんかを話すわけにはいかないな。正直、嫌われなくないし。中身が年上の人に布団に潜り込まれてたとか嫌でしょ。そういうことだよ。まぁ、私の羞恥心も凄いけどね。
「リタ、僕が言ったことわかってる?」
リタのことだからわかってるとは思うけどと呟くナチョ。うん、わかってるよ。わかった上でどう答えたものかと悩んでいるんだよ。正直に話すのは無理。けれど、何にもないよというのはきっとナチョの心を傷つけてしまいそうで。
「うん。わかってるよ」
「やっぱり、僕は頼りないから」
「そんなことないよ。だって、ナチョ、わたしがこわいゆめみたとき、いっしょにねてくれるもん」
ナチョがいてくれるから楽しい夢も見られると大袈裟に伝える。そうするとナチョは頬を緩ませて嬉しそうな顔をする。
「だからね、だいじょうぶだよ」
「でも、ぼんやりしてたから」
「えっと、ね、ナチョ、ないしょにしてくれる」
「勿論」
「おなかがなっちゃったの」
「え?」
きょとん。予想外のことを言われて、ナチョは固まった。そんなナチョも可愛い。
「だからね、きょうのごはんなにかなってかんがえてたの」
食い意地がはってるという勿れ。いや、もう、言ってて自分でそう思ってるからさ。わかってるからね。
「ふはっ、あはははは、そっか」
ナチョ、大笑い。ねえ、そこまで大笑いすることかな。いや、まぁ、可愛いからいいんだけどさ。涙まで出すほど大笑いしなくてもいいじゃん。
「むぅ、かあさんのごはんおいしいんだよ」
「うん、知ってる。イネスさんの作ってくれるご飯あったかくておいしいよね」
想像したら、僕もお腹空いてきたとナチョは笑う。うん、食欲があることはいいことです、そういうことにしておこう。それから、二人で家に帰って、手を洗って、母の手伝いをしてとご飯を美味しいねと言って食べた。
きっといつかはナチョにも、家族にも話した方がいいんだろうけど、今はこれでいいんだと思う。ちょっと、私が我慢するだけでいい。
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