薬師なモブのはずですが、呪われ王子が離してくれません

東川 善通

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一章

村の風習というのは変わってるのが一般的、一般的?

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 神父様ことウリセスさんにバレてから、私はよりアクティブになってしまったかもしれない。ダメね、枷はしっかりしておかないと。
 まぁ、それはともかく神父様ではなく、なぜウリセスさんと呼ぶようになったかというと簡単である。神父様が嫌がったから。笑顔の重圧が師弟揃ってそっくりだったとも。

「ウリセスさん、ここにおいとくねー」
「えぇ、ありがとうございます。ちなみに」

 私の耳元で傷薬やポーションなどはと尋ねられる。勿論、用意してます。私のお手製になるけど。効果はウリセスさんやナチョで実証済み。効果が少々高すぎるので父には内緒だよ。勿論、販売もしておりませんとも。今はまだ。
 本日は新年を迎え、数日後のこと。年を越すという概念がやはりここにもあるらしい。節目になるから、ちょうどいいのかもしれないけど。ちなみに“風節ブロタンテ”とも呼ばれる。簡単にいえば、春だ。私の世界じゃ三月四月頃をイメージするのだけど、こちらでは年明けから芽吹きの季節として“風節ブロタンテ”と呼ばれ、数ヶ月後には夏の“火節モセダー”になる。秋は“土節フェリティリダ”で冬にあたるのが“水節アオーロ”。ナチョと出会ったのは火節モセダーの終わり、土節フェリティリダに変わる頃だったかな。水節アオーロの時は大変だったよ。色々と。六歳になるまでに体験はしてたけど、実際に動いて見るのとではやっぱり違うよね。雪めっちゃ楽しかった!! 雪ダイブの夢が叶ったぜ。ナチョには呆れられたけど。いや、最終的にはナチョもダイブしてたけどね。
 まぁ、それはともかく本日、私はウリセスさんのお手伝いをしている。ナチョは見学。いや、私のお手伝いをしてくれてる。聖水を運んだりとか運んだりとか運んだり。流石に六歳でおっきなバケツは運べんよ。風魔法を使えばいけるけど、皆に怪しまれるだろうからやれなかった。

「リタ、聞こう聞こうと思ってたんだけど、今日は何かあるの?」

 村の小さな広場に集まったのはナチョよりも二歳ほど年上の少年少女たち。そこにウリセスさんと少し大人たち。ナチョが不思議に思うのも仕方がない。

「この村の風習ですよ」

 皆の前で私が説明するのもおかしいだろうと思ったのだろう、ウリセスさんが答えてくれる。グッジョブ。別のところでこっそり説明することはできるんだけど、向こうで話すねというのはおかしいからね。

「この村では十二歳になると耳飾りをつける風習があるんです」
「耳飾りをつけるなら、ここに集まる必要なくない? 聖水やウリセスがいる理由も」
「耳飾りをつける、と言っても耳朶に穴を開けて、飾るのです」

 この世界というよりこの国では一般的に耳飾りというのはイヤリングのことを指す。体に穴を開けるというのは少々ばかり忌避されているためあまりピアスの方は知られていない。けれど、冒険者や異国の人は普通にピアスをつけていたりする。ともあれ、この村の風習はどこか異国的なものがあるようで、十二歳になると成人となった証として耳に穴を開けるのだ。

「今年十二になる彼らにとって、これは一種の大人になる儀式なのです。この村以外にも十二歳になると特殊な儀式を行うことはよくあります」

 大人になる儀式、それはつまりは働きに出るという年齢であることを指す。王都や街などでは十六の成人まで過ごしてもいいだろう。けれど、この村や小さな集落ではそうは言っていられない。少しでも働き手が欲しいのだ。だから、十二歳になる頃に成人の儀式を行う。勿論、十六になったらなったでお祝いはする。

「……知らなかった」

 ボソリと零される声。そりゃそうだろう。こんな村に来なければ、ナチョは今後も知ることもなかっただろう。

「正直、私も赴任するまでは知りませんでした。あなたがそんな顔をする必要はありません。まだ十分知っていく時間はあります」

 知らなかったのならば、知ればいい。幸いなことにまだまだ成人前だからね。いっぱい詰め込めるとも。成人してからでも勿論間に合うけど。ウリセスさんの言葉にナチョはコクリと頷く。そして、改めて見学していいかと尋ねた。勿論答えはイエス。
 まぁ、イエスの裏側には成人予定の子たちに小さな子が見てるぞ、無様な姿を晒すなよという脅しがあったりする。教えないけど。
 やり方などは丁寧に説明する。勿論、体に穴を開けるということであるから、怖がる子もいる。そんな子は大人として認めることができないと言われると真一文字に口を引き絞って恐怖を堪えていた。

「イネスさんやラモンさんは両方につけてるよね」
「あぁ、あれは結婚したからだよ。結婚するともう片方に穴を開けて耳飾りをつけるの」

 ふと思い出したかのようにこそりと尋ねてきたナチョ。私はそれにその疑問は至極当然だと答える。
 基本的には穴は片方のみで、男なら左に、女なら右に開ける。それは恐らく私の世界の影響もあるだろう。勇敢、貞淑だったかなそんな意味合いだった気がする。それをそのまま儀式に落とし込んだんだろうと思う。勿論、男だから右に女だから左に開けてはいけないということはない。ちゃんと開ける方を指示すればそうしてくれる。ちなみに結婚したら片方にも穴を開けるが、離婚した人や離別した人は片方を外すこともある。穴はそのままとなってしまうが、それでも今私はフリーですよとアピールになるのだとか。

「その、リタも開けるの?」
「ん? まぁ、開けるだろうね」

 別に開けたくないってこともないし、普通に成人の儀式だし、開けるかな。痛いのは嫌だけど。私が成人する頃には痛みを抑える薬でも開発しておこう。そうしよう。

「……なに?」

 ナチョが私の耳朶をモミモミする。こしょばいんだが。真剣な顔だから、やめてとも言いづらい。いや、言ってもいいんだろうけど、何、なんなのさ。

「僕も開ける」
「はい?」
「僕も開けるよ。そしたら、リタとお揃いだよね」
「いや、まぁ、え?」

 儀式がといっても開けて消毒して仮留めをつけての流れ作業なのだけども、それが進む中、この人なんか言ったよ。王子様が体傷つけるとか言ったよ?? しかも、私とお揃いにするがために。

「ウリセスにも話しておこう」
「……ナチョはお城に帰るじゃん」
「そうだけど、今のところ便りも一つもないし、いいんじゃないかな」
「怒られるんじゃない?」
「いいよ、怒られたって。それに僕がそうしたいからそうするんだよ」

 リタだってそうでしょうと言われれば、まぁそうですけどとしか言えない。あー、でも、ナチョにピアス似合うかも。いや、似合うね。赤い宝石あたりで作ると目の色とあって、合いそう。

「でね、つける耳飾りってなんでもいいのかな」
「あー、そこはいいみたいだよ。穴を開けられるのが成人の儀式だから」

 その後はお好きにどうぞという感じ。だから、基本的にピアスの穴を開けた人は小さな色石のついただけのシンプルなスタッドピアスをつける人が多い。父と母は互いの目の色の石がついたそれだ。フープだったり、チェーンだったり、フックはあんまり見かけないかも。女性であればたまーにいるかな。やっぱり、仕事があるからどこかに引っ掛けてもいけないから意識的にそうなっちゃうんだろうな。

「……ナチョなら、フックとかチェーンとか似合いそうだね」
「なに、それ」
「ピアスの種類だよ。今度、行商がきた時覗いてみる?」

 この時期の行商だったら、ピアスも持ってきてるから成人したての子が集まるんだよな。来年成人予定の子もあたりをつけに覗きにきてたりするし。大人でも気分を変えたいといかで購入を考える人もいる。頼んでおけば、それまでに用意もしてくれたりもするんだよね。

「うん」
「じゃあ、帰ったら父さんたちに行商が来る日確認しよう」

 にしても、いいのかなぁ。連絡が来ないからと言って勝手に進めても。保護者の同意なくってやつだよ。でも、今は保護者はウリセスさんになるのかな。いや、うちの両親? わかんないなぁ。まぁ、ナチョがそうしたいというのだから、それでもいいか。ここ最近は呪いの影響もないみたいだし。

『あ、また蒸発しおった』

 なんか、コウガの声が聞こえたけど、どういう意味だろう。気にしたら負けか。

『第一関門すら突破できぬとは軟弱者どもめ』

 うん、第一関門って何よ。いやいや、気にしない気にしない。

「アデリタさん、お水をお願いします」
「はーい」

 よし、うん、お手伝いを再開しよう。
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