薬師なモブのはずですが、呪われ王子が離してくれません

東川 善通

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一章

発覚が遅すぎる事実◆

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 西の街スードレステが崩落したことは王に衝撃を与えた。

「イグナシオは、イグナシオは無事か」

 まず王が第一に問うたことはそれであった。民衆の無事ではなく、自分の息子の無事を確認。それには家臣たちは眉を顰める。けれど、諌めはしない。したところで無駄だと知っているからだ。

「現在、確認中でございます」
「そうか。それで、なぜ故にスードレステが落ちた」
「逃げてきた住民によりますと突然魔獣が現れたと」

 息子のことを確認中だという言葉に一刻も早く無事を確かめろとばかりに威圧するも本題へと移る。そして、魔獣の出現はなぜだ、どこから、この王都への侵攻は見られるのかなどと話が移っていく。逃げてきた住民の保護先はお前たちに任せると放り投げられ、王はひとまず王妃に伝えるために退席する。

「全く、呪われた王子よりも民衆の方が重要でしょうに」

 そう言ったのは家臣の中の誰だったか。誰も彼もそれに否定することはなかった。呪われた王子。彼のおかげで王家というお荷物が増えたと皆思っていた。無駄に割かれる公費。その使用用途は不在にもかかわらず、莫大で不明だ。一体何にしようしているのか。さらにここから王子の捜索に一体どれだけの費用をかけようというのか。経済部の大臣はやれやれと首を振る。




 王妃は怒った。やっと自分の役目を終えたというのにまた役目を果たせというのかと。王と王妃はそもそもが政略結婚だ。そこに愛は芽生えなかった。辛うじて王妃の中にあったのはイグナシオへの愛だった。けれど、それは彼が呪われたことによって失われた。触れない息子などいらない。それを示すように次に産んだ息子パトリシオを溺愛した。パトリシオが欲しいといえば、喜んで与えた。
 時期が来るまで隔離すると王宮からいなくなったのはホッとした。自分が呪われる可能性が低くなったからだ。けれど、その息子が遠地で死んだかもしれない? そんなことは王妃にとって許せるものではなかった。古くにあったという王位継承戦のためにイグナシオを産んだことにより終わっていたはずの役目を再開され、嫌々ながらに開いていたというのに。それをまた再開されるのか。そんなこと、許せるはずがないと。

「どんな方法でもいいわ、探しなさい」

 探して連れ帰りなさい。今度は何かあってからでは遅いから離宮に閉じ込めておきましょうと王妃は侍女達に命令する。不承不承とばかりに侍女達はそれを上司でもある宰相へと伝えに向かった。

「兄上、死んだのかな? それとも、どこかで生きてるのかな? 生きてたらいいなぁ」

 離宮に閉じ込められ、生まれてからずっと会ったことのない兄。そんな兄が滞在しているらしいスードレステが落ちたことは慌ただしい宮中の中で聞こえてきた。その話を聞こうと母の元を訪れれば、ちょうど侍女に命令を出しているところだった。バレないように盗み聞きをしながら、もし、生きてたら会えるかなと桜花色の髪を揺らし、本紫の瞳を細めて少年は楽しみだなぁと笑う。金髪で紅色の目をしているというのは聞いているけれど、詳しいことはわからない。けれど、そんな兄に会える可能性があるかもしれないことに対して少年は他の兄弟にも教えてあげようとその場を後にした。




 事実は次々に発覚していった。
 スードレステ崩落は厄災であるということ。そして、イグナシオはそもそもスードレステに行っていなかった。滞在するだろうという密書は見たと逃げてきたスードレステの領主の妻は語った。けれど、その密書があっただけで、本人はいつになっても訪れることがなかったと。行方を探す中で判明したのはどこか別のところに連れて行かれたのであろうということ。さらに連れていった兵士達はすでに亡くなっていた。

「王への献上品である酒を飲み、その酒が毒酒であったようでその場で死亡が確認されております。少しばかりならばと思ったのかもしれませんが」

 横領した罪人ということで粛々と処理されていた。そのため、イグナシオの居場所は特定することはできなかった。

「……僭越ながら」

 騎士団長に騎士の派遣を要請すると彼はそっと手紙の束を宰相らの前に差し出した。

「これは?」
「ここ最近、届いておりました。イグナシオ・イバルラの手紙でございます」
「それはすでに陛下の元にあるはずだ。それに、随分と質の悪い紙を使っているようだが。しかも、この封蝋、王家が使うものとしてはいささか不恰好がすぎると思うが」

 処分されていたはずの手紙を保管していた騎士団長は宰相の質問にイグナシオが住んでいるところで入手できる紙がこれであるということ、封蝋は何も持たされていなかったイグナシオが自作したものであることと説明していく。

「なぜ、貴方がそれを知っている」
「イグナシオ殿下から、王家宛の手紙とは別に頂戴しましたので」

 偽物かと思い、一度は破棄しようと思ったらしい。けれど、中身ぐらいは確認しておこうと見て、現状を知ったという。

「なぜ、それを報告しない!!」
「イグナシオ殿下からのご命令でしたので。質問されるまで答える必要はないと」

 それにヒントとなるように各地に光適性を持つ騎士を派遣させて欲しいとお願いしたこともあると団長はいう。確かに、その要請を受けた覚えがあった。

「その要請と一体何が」
「殿下いわく澱みというものがあるそうです。学者などから報告がすでにあったかと思いますが、古くの文献には澱みが厄災になって降りかかると書かれております。その調査を行うつもりでした」

 イグナシオを名乗る者からのことを信じるとは愚かだと言われないように結果を出そうとしたのだと団長は答える。それに宰相は確かに王の元に手紙を届いている以上こちらを信じることはできなかっただろうと苦虫を潰した顔で呟く。

「それで、イグナシオ殿下はどちらに」
「東の国境付近の村に滞在しているそうで」
「今すぐに光適性を持つ騎士を主体にして迎えを出してくれ。私はひとまずは無事であろうことを陛下に報告しておく」
「承知しました」

 後日、早急に編成された部隊がイグナシオのいるユグドセクへと出立した。
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