どこまでも近くて遠い君

蓮華空

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摩矢episode3

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 どこもかしこも俺とは全く違う三隅は、その大きくてキラキラとした瞳を俺に向けた。

「た、確かに……摩矢くんの言う通りかもしれない。普通は同性にそんなこと……あんまりしないよね。だから、桜木くんにされたときは本当に嬉しかったし、幸せだった。だから、僕はこの気持ちを大事にして、いい思い出にしておいた方がいいって摩矢くんは思うんだね? 僕はその方が幸せなんだね?」

 ………………そんなに瞳を潤ませて、何故そこまで同意を求める? そう思えないのなら無理する必要もないのに、こいつは自分の幸福を自分で決められねーのか? 流石は依存度MAX君だ。

「つーか、お前の幸福なんか俺にはどうでもいい。お前が幸せだと思うならそれでいいだろ。
 そもそも凹むだけ無駄かもしれないしな。どうせあいつら直ぐに別れるんだから、安心しろ!」
「──え?!なんでそんなこと言えるの!!」

 それを聞いて三隅はかなり驚いた様子だった。

「俺は中学も桜木と一緒だったからな。それまでの流れからして、またそうなるんじゃねーかなって予想しただけ」
「……嘘? 桜木くんってそんな薄情なタイプに見えないし、なのに何で別れちゃうの?」

 三隅は不思議そうな顔をした。

 俺は仕方なく三隅に顔を近付け、声を潜めた。

「女の嫉妬って怖えーぞ。例えばお前が桜木と両想いになったとして、その嫉妬と怨念に耐えられると思うか? 奴等の心理戦はすげーぞ。気付けば真っ暗な穴の中にひとり突き落とされるんだぜ」

 三隅は身をすくめて首を横に振った。

「ぼ、僕……、男に産まれて良かったと思う。わ、わかったよ、摩矢くん。僕は今のままで充分幸せなんだね?」
「だからお前の幸せなんか俺には知ったこっちゃねーよ。お前が幸せだと感じるなら、それでいいだろ。──でも、やっぱり不幸せだって思うならこれをやるよ」

 そう言って俺はポケットに入っていた物を三隅に放った。

 三隅は飛んできた物を受け取ると目を白黒させていた。手のひらに乗っかったのは、一昨日、桜木から貰ってそのままポケットに入れっぱなしだったラズベリーキャンディだ。

「甘いものは精神の充足にいいからな。それでも舐めて落ち着いたら教室に戻ってこい」

「え? あ……うん」

 俺は立ち上がってその場を去ろうとした、が、念のため振り反って忠告をしておいた。

「あっ、とそれから──。今日、ここで俺と喋ったからって、以後、親しく話し掛けてくるなよ。次は相手しないからな」

 俺は睨みを効かせて牽制しておいた。基本、人と接するのは苦手なのだ。




◇ ◇ ◇

 俺は仕方なく階下に下りて表に出た。

 携帯には未だ桜木からの返事はない。業を煮やして、電話をしようかと思ったら、丁度桜木の方から電話がかかって来た。

「おい桜木!!てめぇ、一体、何をやっているんだ?」
『今?……今は警察に居るところ』
「──はっ!?警察????!!」

 あいつに一体、何が起こっているんだ?



◇ ◇ ◇


 朝から想い人が警察に居るという物騒な話を聞いて、『心配するな』と言われても『はいそうですか』とすんなり受け入れられる奴がいたら、どうすればいいのか教えてほしい。

 あれから『後で話す』と言う素っ気ない言葉を残し、電話を一方的に切られてしまった俺は益々落ち着かず、校門の前でうろうろしながら奴が来るのを待った。
 
 暫くすると桜木の母親が運転する赤いスポーツカーが見えてきて俺の前に停まった。

「なんだよ、秋ちゃん!心配するなって言ったのに、何でこんなところに居るんだよ!」

 桜木が慌てたように助手席から飛び出してきた。
 透かさず桜木の母親も運転席から身を乗り出し申し訳なさそうな顔をした。

「ごめんねー、秋人くん。心配させちゃったよねー。この馬鹿には今後こういうことがないよう散々説教しておいたからね」

 と詫びたが、詫びられても何があったのか知らないから何とも答えようがない。でも、母親の口振りからして、桜木が何かやらかしたのは確かだ。

「もういいじゃんかさー。何のお咎めもなかったんだし、母さんは早く仕事に行って来いよ」
「なんのお咎めもなしじゃないわよ!治療費請求された上に厳重注意されたでしょ!」
「そんなこと言ったって仕方ねえだろ、あれはどうしようもないことだったんだよ!」

 俺は意味が分からず桜木親子の問答を黙って聞いていた。

「いいからほら、母さんは仕事だろ? 迷惑かけて悪かったな」
「本っ当にいい迷惑!!何度も言うけど、あんたはもうちょっとよく考えてから行動しなさいっ!」

 流石、母親。桜木の欠点をよく分かってる。俺もそれに同感だ。考えるより先に動いてしまうのが桜木の良いところであり、悪いところだ。つまり、こいつの本性は野生動物と変わりないのだ。

 そして、桜木の母親は苛ついたようにタイヤの音をキュルキュル鳴らしながら去っていった。
 






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