どこまでも近くて遠い君

蓮華空

文字の大きさ
29 / 79
摩矢episode4

29

しおりを挟む
 流石、桜木だ。俺の本心が別にあるってことがちゃんと分かるんだ。だが、俺の本当の気持ちをお前に話す訳にはいかない。

 もしもそれを言ってしまったら、桜木はきっと困惑する。桜木に嫌な思いや迷惑をかけたくない。



 でも……。



『もうそれでいいんじゃないのか?』



 そんな言葉が俺の脳裏を掠めた。

 いっそのこと、さっさと気持ちを伝えて、綺麗さっぱり振られてしまった方が、桜木にとっても俺が親友だ、などという酷い幻想から目が覚めて良いのかもしれない……。

 俺は決心を固め、奴の胸ぐらを掴むと、自分の背丈まで勢いよく引き寄せた。が、直ぐ様、桜木も俺の手を掴んで抵抗する。

「──ちょっと!今度は何?ひょっとして暴力で片をつけるつもり?」

 普段、見ることのない、桜木の咎めるような鋭い眼差しが俺を射抜く。

 知らなかった──。桜木のこんな表情もすごく綺麗だ。

「ああ。お前からしたら、きっとこれも暴力だな……」

 間近で見る、色素の薄いトパーズのような瞳の煌めきが、俺の胸を高鳴らせた。

 一度だけでいい。

 こいつにもっと触れてみたい──!!

 俺は腕を思いっきり引き寄せ、迷うことなく桜木の唇に自分の唇を重ねた。

 ──瞬間、桜木の身が僅かに震える。

 真綿のような柔らかい唇の感触は、それだけで蕩けてしまいそうなほど全身が甘い感情で満たされた。

(──今、この瞬間に世界が崩壊すればいいのに……)

 もう俺の残りの人生なんて、このまま腐りきって朽ち果ててもいいような気がした。

 俺はそっと目を開けて唇を離した。

 桜木は硬直したまま動かない。

 完全に思考停止。ひょっとしたら余りの出来事に記憶すら飛んでるんじゃないかと思われた。 

「こういう事だから……。実はお前の事をずっと俺はそういう目で見ていた。だからもう……俺はお前と、会わない方がいいだろ?」

 余りの出来事に桜木はなんの反応も返せない。

 数秒後、やっとのこと眉間に皺を寄せ、自分の唇に手の甲を押し当てた。そして、俺の顔を疑わしげに見つめている。何を考えているのか……非常に複雑そうな顔……。

 その表情に、俺の胸はキリキリと傷んだ。

 思った通りの反応。だけど、実際目にするとやっぱり辛い。

 俺はふっと笑顔を溢し、桜木の頬に触れた。

「悪りぃな……。彼女が居るのにこんな真似して……でも、これが最初で最後だから勘弁してくれ。じゃあな、桜木。──もう寒いからお前もさっさと帰れ!」

 俺は桜木の胸を突き飛ばし、摩矢家の門から押し出した。そして、俺はとっとと家の塀を登り、屋根に乗り移ると、振り返って桜木にシッシッ!と猫や犬を追い払うかのように手で払った。

 その間も桜木はずっと手で口許を覆ったまま、無言でこちらをじっと見詰めている。心なしかその表情が恨みがましく見え、流石の俺も自分のしでかしたことを後悔した。

(そりゃそうだよな……。親友だと思っていた奴に、あんなことされたら、裏切られたような気持ちでいっぱいだよな……)

 桜木の心は今、混乱と憎悪でいっぱいなのかもしれない……。








しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

処理中です...