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摩矢episode4
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◇◇◇◇
桜木と別れ、学校を辞める決心をしたその日の夜。俺は受話器を取り、ベトナムに居る父に電話をした。
俺からの電話がくるとは思っていなかった父はかなり行天した様子だったが、俺が一言「学校を辞めたい」と言うと、こちらは想定内だったのか、さっきとは打って変わった落ち着いた様子に変わり、声を落とした。
『取り敢えず、今年いっぱいはしっかり学校へ行って欲しい。年末には家に帰るから、その時ゆっくり顔を合わせて話をしよう』
「今、話しても同じだろ?」
『いや……、その間にお前ももう少し考えるようにしてくれ』
そう言って、あっさり話題を先伸ばしにされ、一方的に通話を切られてしまった。
俺はスマホを置き、頭を抱えて深い溜め息をついた。
どうせ現実なんてこんなもんだ。所詮、親なんてものは、まともにこっちの話なんか聞いちゃくれない……。
親は安全だと思えるレールの上を黙って歩いてくれればそれが一番いいのだ。それが正しい道だと信じて疑わない。そのレールにそぐわない迷える子羊……、いやキメラとして産まれた者の気持ちなんてちっとも分かろうとしない。
どうして俺はいつも社会からはみ出しちまうのか?
幼い頃からずっと抱えていた疑問。
何故、俺はここに立っているのだろう?
こんな不安定な場所に立って、鬱屈しているくらいなら、集団に溶け込んでしまえればいいのに……。
そう思いながらも、体は自然と違う方向に向かってしまう。
──何故だ?
──何故?
何度も自分に問いかけながら、3日が過ぎようとしていたある日のこと。
俺の部屋の床を、下からガンガンと突き上げてくる音に、俺は目を覚ました。
時計を見るとまだ朝の6時。何事かと思って布団から出ると、下から朝子の叫び声がした。
「お兄ちゃん、助けて!!泰子がっ!泰子が!!」
「──?!」
こんな朝っぱらから泰子が何だと言うのだ?
俺は慌てて机の上に置いてあったトンファーを取り、階下に繋がる床扉を開いて、そのまま廊下に飛び降りた。
「どうした?!朝子!!何があった?!」
突き当たりにある朝子の部屋まで走り、ドアを開けようとした瞬間、右側にある雅子の部屋のドアが開いて、何者かが俺の体を羽交い締めにした。
直ぐ様、右手に持ったトンファーを回転させ、背後の何者かにぶち当ててやろうかと思ったが、鼻腔にふわりとしたアロマの香りがして慌てて手を止めた。
「さ、桜木──?!」
俺は後ろを振り返り、桜木の姿を確認した。そこにはスノボウェアを着た仏頂面の桜木が俺をがっちりホールドしている。
「お前……何してるんだよ?こんな朝っぱらから?」
桜木は硬い表情で俺を見下ろしている。
「何って迎えに来たんだよ」
「──はっ?!」
俺は意味が分からず、桜木の腕を振りほどこうと身を捩った。しかし、振りほどくどころか桜木に腰をがっちり掴まれ、そのまま担ぎ上げられてしまった。
「お、おいっ!こら!急に何をしやがるんだ!!離せ!!」
俺は空中で暴れた。しかし、桜木の腕はしっかりと俺を捕らえたまま離さない。
「秋ちゃんは俺との約束をちっとも守ってくれない!絶対、孤独になっちゃ駄目だって言ったのに、朝子ちゃん達に聞いたらずっと部屋に籠ったまま誰とも会ってないんだって?そんなの駄目だよ。だから、今日は俺と一緒に修学旅行に行くよ!じっくり話したいことがいっぱいあるしねっ!」
(──はあ?!修学旅行だぁ━━?!)
「ふざけるな!!俺はそんな所に絶対行かねぇぞ!!離せ──!!おろせ──!!」
俺はトンファーを捨て、ドア枠にしがみついた。すると透かさず雅子と泰子が「任せて!」と言って俺の手をほどきにかかった。
(畜生!──こいつらグルだったのか?!舐めた真似しやがってっ!!)
俺は必死で抵抗したが、二人がかりで指を一本一本ほどかれ、直ぐにドアから引き剥がされてしまった。そして、俺は桜木の肩に担がれたまま、一階まで一気に降ろされた。すると、今度は和室からお袋が慌ただしく現れ、「準備はOKよ!!」と言って大きなスポーツバックを抱えてきた。
朝子が玄関のドアを開け、外に出ると、目の前には桜木の母親が車で待っていた。
「それじゃあ、ユウちゃん。あとはよろしくお願いします!」
お袋はバックを車の後部座席に放り込んだ。続けて俺もそこに詰め込まれ、隣には桜木が素早く乗り込む。
「じゃあ、行ってきます!!なんとか説得してみますから、安心して下さい」
桜木はにこやかに手を振った。
その瞬間、俺は耐え難い怒りに襲われた。
桜木の襟首を掴んで捻り上げる。
「説得ってどういうことだ?!」
睨み付けるとそこには桜木の澄んだ瞳だけがあった。
「分かってるだろ。秋ちゃんにだって」
(……この野郎ゥ~!!)
「俺が高校を辞めるって話か?お袋たちに話したのか?!」
「俺じゃなくてベトナムに居るおじさんから電話で聞いたって言ってたよ。それでおばさんから何とかならないか?って言われたんだ。だから取り敢えず俺と一緒に修学旅行に行って、そこでじっくり話を聞くことにしたんだ。修学旅行なら少なくとも72時間はみっちり秋ちゃんに張り付いていられるからね。話をはぐらかしたり逃げられたりしない為にもいいと思ったんだよ」
「てめぇ~ふざけんなよ……」
(俺がどんな思いでお前と離れる決意をしたと思ってるんだ……)
桜木と別れ、学校を辞める決心をしたその日の夜。俺は受話器を取り、ベトナムに居る父に電話をした。
俺からの電話がくるとは思っていなかった父はかなり行天した様子だったが、俺が一言「学校を辞めたい」と言うと、こちらは想定内だったのか、さっきとは打って変わった落ち着いた様子に変わり、声を落とした。
『取り敢えず、今年いっぱいはしっかり学校へ行って欲しい。年末には家に帰るから、その時ゆっくり顔を合わせて話をしよう』
「今、話しても同じだろ?」
『いや……、その間にお前ももう少し考えるようにしてくれ』
そう言って、あっさり話題を先伸ばしにされ、一方的に通話を切られてしまった。
俺はスマホを置き、頭を抱えて深い溜め息をついた。
どうせ現実なんてこんなもんだ。所詮、親なんてものは、まともにこっちの話なんか聞いちゃくれない……。
親は安全だと思えるレールの上を黙って歩いてくれればそれが一番いいのだ。それが正しい道だと信じて疑わない。そのレールにそぐわない迷える子羊……、いやキメラとして産まれた者の気持ちなんてちっとも分かろうとしない。
どうして俺はいつも社会からはみ出しちまうのか?
幼い頃からずっと抱えていた疑問。
何故、俺はここに立っているのだろう?
こんな不安定な場所に立って、鬱屈しているくらいなら、集団に溶け込んでしまえればいいのに……。
そう思いながらも、体は自然と違う方向に向かってしまう。
──何故だ?
──何故?
何度も自分に問いかけながら、3日が過ぎようとしていたある日のこと。
俺の部屋の床を、下からガンガンと突き上げてくる音に、俺は目を覚ました。
時計を見るとまだ朝の6時。何事かと思って布団から出ると、下から朝子の叫び声がした。
「お兄ちゃん、助けて!!泰子がっ!泰子が!!」
「──?!」
こんな朝っぱらから泰子が何だと言うのだ?
俺は慌てて机の上に置いてあったトンファーを取り、階下に繋がる床扉を開いて、そのまま廊下に飛び降りた。
「どうした?!朝子!!何があった?!」
突き当たりにある朝子の部屋まで走り、ドアを開けようとした瞬間、右側にある雅子の部屋のドアが開いて、何者かが俺の体を羽交い締めにした。
直ぐ様、右手に持ったトンファーを回転させ、背後の何者かにぶち当ててやろうかと思ったが、鼻腔にふわりとしたアロマの香りがして慌てて手を止めた。
「さ、桜木──?!」
俺は後ろを振り返り、桜木の姿を確認した。そこにはスノボウェアを着た仏頂面の桜木が俺をがっちりホールドしている。
「お前……何してるんだよ?こんな朝っぱらから?」
桜木は硬い表情で俺を見下ろしている。
「何って迎えに来たんだよ」
「──はっ?!」
俺は意味が分からず、桜木の腕を振りほどこうと身を捩った。しかし、振りほどくどころか桜木に腰をがっちり掴まれ、そのまま担ぎ上げられてしまった。
「お、おいっ!こら!急に何をしやがるんだ!!離せ!!」
俺は空中で暴れた。しかし、桜木の腕はしっかりと俺を捕らえたまま離さない。
「秋ちゃんは俺との約束をちっとも守ってくれない!絶対、孤独になっちゃ駄目だって言ったのに、朝子ちゃん達に聞いたらずっと部屋に籠ったまま誰とも会ってないんだって?そんなの駄目だよ。だから、今日は俺と一緒に修学旅行に行くよ!じっくり話したいことがいっぱいあるしねっ!」
(──はあ?!修学旅行だぁ━━?!)
「ふざけるな!!俺はそんな所に絶対行かねぇぞ!!離せ──!!おろせ──!!」
俺はトンファーを捨て、ドア枠にしがみついた。すると透かさず雅子と泰子が「任せて!」と言って俺の手をほどきにかかった。
(畜生!──こいつらグルだったのか?!舐めた真似しやがってっ!!)
俺は必死で抵抗したが、二人がかりで指を一本一本ほどかれ、直ぐにドアから引き剥がされてしまった。そして、俺は桜木の肩に担がれたまま、一階まで一気に降ろされた。すると、今度は和室からお袋が慌ただしく現れ、「準備はOKよ!!」と言って大きなスポーツバックを抱えてきた。
朝子が玄関のドアを開け、外に出ると、目の前には桜木の母親が車で待っていた。
「それじゃあ、ユウちゃん。あとはよろしくお願いします!」
お袋はバックを車の後部座席に放り込んだ。続けて俺もそこに詰め込まれ、隣には桜木が素早く乗り込む。
「じゃあ、行ってきます!!なんとか説得してみますから、安心して下さい」
桜木はにこやかに手を振った。
その瞬間、俺は耐え難い怒りに襲われた。
桜木の襟首を掴んで捻り上げる。
「説得ってどういうことだ?!」
睨み付けるとそこには桜木の澄んだ瞳だけがあった。
「分かってるだろ。秋ちゃんにだって」
(……この野郎ゥ~!!)
「俺が高校を辞めるって話か?お袋たちに話したのか?!」
「俺じゃなくてベトナムに居るおじさんから電話で聞いたって言ってたよ。それでおばさんから何とかならないか?って言われたんだ。だから取り敢えず俺と一緒に修学旅行に行って、そこでじっくり話を聞くことにしたんだ。修学旅行なら少なくとも72時間はみっちり秋ちゃんに張り付いていられるからね。話をはぐらかしたり逃げられたりしない為にもいいと思ったんだよ」
「てめぇ~ふざけんなよ……」
(俺がどんな思いでお前と離れる決意をしたと思ってるんだ……)
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