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摩矢episode4
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愛という単語を聞いただけで寒気がしてしまう俺は、いよいよこのばばあ正気か?と疑い始めた。桜木には悪いが変なスピ系に感化されて頭おかしくなってないかと、一瞬、心配してしまったくらいだ。
つーか、俺が学校に行かないのと、愛がどう関係する……??
眉をひそめ、その繋がりを理解しようと頭の中でぐるぐると考えてみたが、内容がぶっ飛び過ぎてて、俺は疑問すら訴えることが出来なかった。
代わりに桜木が「母さん、それってどういう事?」と訊いてくれた。
「言った通りよ。そもそも秋人くんは世界を知りたいと言った。それも誰かの手によって作られ、与えられた世界ではなく、自らの力でサバイブしていく現実の世界をよ。それこそが人を愛する力なの」
意味が解らず、ぼやっとする俺達を見て、桜木の母親は優しく微笑んだ。
「だって、愛されたいと思う人や愛されていることに満足している人は、『世界を知りたい』なんて思わないんじゃないかしら?愛されたいと思う人はもっと自分を知って欲しいと思うだろうし、愛されることに満足してる人なら丸ごとその世界が全てだと思って『世界を守りたい』って言うと思うわ。自分の居場所を守りたいがためにね。それが愛される側の心理だと思うの。でも、よく考えてみて。世界も人もどんどん変化していくのよ。変化していくものを守るのって、何もしなかったら不可能に近いと思わない?
だから、世界を知りたいって動き出すこと自体が、この世界を愛するって事だと私は思うの。世界を知るってなかなか難しいことよ。常に謎を追いかけ、自分の中の先入観や思い込み、幻想を打破していかなきゃ、真実なんて見えて来ないわ。でも、それを敢えてやろうとするのが愛する側よ。だから、真の世界を知りたいと言った秋人くんは、それを追い求めることが出来るんだと私は思う。正直な事を言うと、私は起業する側として、秋人くんみたいな人間が欲しいと思っているの。愛される側で満足している人間ばかりだと、内部からその組織は腐っていっちゃうのよ。世の中バランスが大切よ。だから、私は秋人くんの選択に賛成する。むしろ応援していきたいくらいだわ!だから、秋人くん──これ、渡しとく」
桜木の母親は自分のハンドバッグから名刺を一枚取り出すと俺に渡した。
「いつでも話を聞くから遠慮なく連絡して、必要とあればそれなりの人間を紹介するから」
「──え?……あ、はあ……」
俺は名刺を受け取り、呆気に取られていた。
なんだこれ……?
まさかこんな展開になるとは思ってもみなかった。
「いい、秋人くん!
秋人くんは今の感覚をずっと大切にして。その感覚こそ、人を愛する力だという事を忘れないで──」
その言葉を聞いた瞬間、俺の中に蟠っていた重い鉛のようなものが次第に溶解していった。
思えば俺は今までずっと桜木に愛されたいと思っていた。けど、それを諦め、離れていくことが桜木の幸せに繋がると思ったとき、俺の中で何かが変わっていたのだ。
俺はこれまでずっと、愛なんてものは、執着を美しく言い換えただけの、人心を惑わす魔物ぐらいに思っていた。だが、今は愛という言葉の意味が大きく変わり始めている。勿論、言葉にしてしまえば、未だに愛は執着であるという認識ではある。しかし、その言葉のベクトルが以前は狭い一点にのみ集中していたのが、突然広がり始めたような気がした。
「有り難う御座います!帰ったら必ず連絡します!!」
俺は人生初というほど、何かを吹っ切れたような、腑に落ちたような感覚に思わず笑みを溢した。だが、ふと頬に当たる視線を感じ、隣を見ると、桜木が俺とは対照的な顔をしていた。
「何だ、桜木?妙にぶすったれた顔をして、お前らしくないぞ?」
桜木はますます仏頂面になった。
「だって……その顔だと、秋ちゃん……絶対に学校を辞める気でしょ?」
「まあ、そうだな」
俺があっさり答えると、桜木は肩を落として深い溜め息を付いた。その途端、桜木の母親が軽やかに笑い出す。
「あははは!そうよねー。夕緋にしたら、秋人くんが辞めてしまうのは辛いわよねー。この子ったら、保育園の時からずっと、秋ちゃん、秋ちゃんって、しょっちゅう目をきらきらさせて私に秋人くんの話をしてくるのよ。それくらい秋人くんの事が大好きなの。だから、秋人くんが離れてしまうようで、きっと嫌なのね」
「べ、別に俺は、そんな事が嫌な訳じゃない!」
と、桜木はむきになって反論したが、俺と目が合うと直ぐに声のトーンを落とした。
「……でも、まあ……。確かに……、秋ちゃんが学校から居なくなるのは寂しいから、嫌だといえば嫌だ……けど……」
と、下を向いてしまった。
(……なんだ?こいつ……、一体どうしたんだ?)
初めて見る桜木の姿に、俺の気持ちは漫ろになった。
「ふふふ。そんな訳だからさ、秋人くん。修学旅行は夕緋のためにも一緒に行って、最後にいい思い出を作ってやって。これは私からのお願い」
母親がそう言うと、桜木は不貞腐れた声で、「修学旅行は卒業旅行じゃない」と訂正した。
「馬鹿ね~。そんなこと言ってないで、しっかり楽しんで来なさい。学生時代の貴重な体験は大事に過ごさないと勿体無いわよ」
「そんな事、親に言われなくても分かってるよ」
桜木は不機嫌そうに答えた。
つーか、俺が学校に行かないのと、愛がどう関係する……??
眉をひそめ、その繋がりを理解しようと頭の中でぐるぐると考えてみたが、内容がぶっ飛び過ぎてて、俺は疑問すら訴えることが出来なかった。
代わりに桜木が「母さん、それってどういう事?」と訊いてくれた。
「言った通りよ。そもそも秋人くんは世界を知りたいと言った。それも誰かの手によって作られ、与えられた世界ではなく、自らの力でサバイブしていく現実の世界をよ。それこそが人を愛する力なの」
意味が解らず、ぼやっとする俺達を見て、桜木の母親は優しく微笑んだ。
「だって、愛されたいと思う人や愛されていることに満足している人は、『世界を知りたい』なんて思わないんじゃないかしら?愛されたいと思う人はもっと自分を知って欲しいと思うだろうし、愛されることに満足してる人なら丸ごとその世界が全てだと思って『世界を守りたい』って言うと思うわ。自分の居場所を守りたいがためにね。それが愛される側の心理だと思うの。でも、よく考えてみて。世界も人もどんどん変化していくのよ。変化していくものを守るのって、何もしなかったら不可能に近いと思わない?
だから、世界を知りたいって動き出すこと自体が、この世界を愛するって事だと私は思うの。世界を知るってなかなか難しいことよ。常に謎を追いかけ、自分の中の先入観や思い込み、幻想を打破していかなきゃ、真実なんて見えて来ないわ。でも、それを敢えてやろうとするのが愛する側よ。だから、真の世界を知りたいと言った秋人くんは、それを追い求めることが出来るんだと私は思う。正直な事を言うと、私は起業する側として、秋人くんみたいな人間が欲しいと思っているの。愛される側で満足している人間ばかりだと、内部からその組織は腐っていっちゃうのよ。世の中バランスが大切よ。だから、私は秋人くんの選択に賛成する。むしろ応援していきたいくらいだわ!だから、秋人くん──これ、渡しとく」
桜木の母親は自分のハンドバッグから名刺を一枚取り出すと俺に渡した。
「いつでも話を聞くから遠慮なく連絡して、必要とあればそれなりの人間を紹介するから」
「──え?……あ、はあ……」
俺は名刺を受け取り、呆気に取られていた。
なんだこれ……?
まさかこんな展開になるとは思ってもみなかった。
「いい、秋人くん!
秋人くんは今の感覚をずっと大切にして。その感覚こそ、人を愛する力だという事を忘れないで──」
その言葉を聞いた瞬間、俺の中に蟠っていた重い鉛のようなものが次第に溶解していった。
思えば俺は今までずっと桜木に愛されたいと思っていた。けど、それを諦め、離れていくことが桜木の幸せに繋がると思ったとき、俺の中で何かが変わっていたのだ。
俺はこれまでずっと、愛なんてものは、執着を美しく言い換えただけの、人心を惑わす魔物ぐらいに思っていた。だが、今は愛という言葉の意味が大きく変わり始めている。勿論、言葉にしてしまえば、未だに愛は執着であるという認識ではある。しかし、その言葉のベクトルが以前は狭い一点にのみ集中していたのが、突然広がり始めたような気がした。
「有り難う御座います!帰ったら必ず連絡します!!」
俺は人生初というほど、何かを吹っ切れたような、腑に落ちたような感覚に思わず笑みを溢した。だが、ふと頬に当たる視線を感じ、隣を見ると、桜木が俺とは対照的な顔をしていた。
「何だ、桜木?妙にぶすったれた顔をして、お前らしくないぞ?」
桜木はますます仏頂面になった。
「だって……その顔だと、秋ちゃん……絶対に学校を辞める気でしょ?」
「まあ、そうだな」
俺があっさり答えると、桜木は肩を落として深い溜め息を付いた。その途端、桜木の母親が軽やかに笑い出す。
「あははは!そうよねー。夕緋にしたら、秋人くんが辞めてしまうのは辛いわよねー。この子ったら、保育園の時からずっと、秋ちゃん、秋ちゃんって、しょっちゅう目をきらきらさせて私に秋人くんの話をしてくるのよ。それくらい秋人くんの事が大好きなの。だから、秋人くんが離れてしまうようで、きっと嫌なのね」
「べ、別に俺は、そんな事が嫌な訳じゃない!」
と、桜木はむきになって反論したが、俺と目が合うと直ぐに声のトーンを落とした。
「……でも、まあ……。確かに……、秋ちゃんが学校から居なくなるのは寂しいから、嫌だといえば嫌だ……けど……」
と、下を向いてしまった。
(……なんだ?こいつ……、一体どうしたんだ?)
初めて見る桜木の姿に、俺の気持ちは漫ろになった。
「ふふふ。そんな訳だからさ、秋人くん。修学旅行は夕緋のためにも一緒に行って、最後にいい思い出を作ってやって。これは私からのお願い」
母親がそう言うと、桜木は不貞腐れた声で、「修学旅行は卒業旅行じゃない」と訂正した。
「馬鹿ね~。そんなこと言ってないで、しっかり楽しんで来なさい。学生時代の貴重な体験は大事に過ごさないと勿体無いわよ」
「そんな事、親に言われなくても分かってるよ」
桜木は不機嫌そうに答えた。
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