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摩矢episode 6
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からかい過ぎたのか、桜木は俺からそっぽを向いて離れた。
「どうやってって……分からないけど、これからじっくり考える!!だって秋ちゃんはみーちゃんと付き合うんだし……」
「いや、それはやっぱ止めとく。三隅にはあんなことを言って申し訳ないけど、気持ちに反して付き合っても、あいつが幸せになるわけないしな……」
俺は言葉を濁した。今頃になって、あの時、三隅に対して偉そうに言ってしまったことが恥ずかしい。でも、三隅が言った『──僕と摩矢くんが釣り合うわけない!』の一言が余りにも俺と似ていて、心苦しくなったのだ。俺だって、ずっとその思考で生きてきたから……。少なくとも、三隅にもその思い込みだけは捨てて欲しかった。俺だって、大したことのない人間なんだから……。
「みーちゃん……納得してくれるのかな?」
「誠心誠意、俺自身の心情を明かして話してみるよ。納得しなくても、俺に出来るのはそれくらいしかないだろうし……」
「いいなあ……みーちゃんが羨ましい」
「は? 俺はあいつを振るんだけど?」
「うん。でも、みーちゃんのために、秋ちゃんが自己開示するなんて、それだけで羨ましい」
下を向いて、桜木がはにかむようにして笑う。
「何を言ってるんだよ!俺が一番、自己開示している相手は常にお前だぞ!」
「え?そうなの??」
「そうだよ!」
「そうかなあ~? 俺の知らない秋ちゃんがまだまだ居るような気がする……」
「何を根拠にそう言う?」
「何となくだけど。そんなことより、そろそろ湯船に浸かろう。体が冷えちゃうよ」
桜木が俺の手を取った。しかし、俺はその場から動かず、桜木の手を止めた。
「何?秋ちゃん??どうしたの?」
「もっと自己開示してやろうか?」
俺は緊張しながら訊いた。今なら全てを話せるかもしれない。
「んー、でも別にいいよ。そんな無理をする必要はない。そんなことより、湯船だよ、湯船!流石に身体が冷えてきた!!」
俺はむすっと膨れっ面のまま桜木に促されて湯船に向かった。
湯に足を入れてみると、じんと芯まで染みてくる。俺の身体もかなり冷えていたらしい。怪我をした右足はビニールを被せてあるが、湯船に入れることは出来ないから、右足だけ縁に乗せて入る。その間、後ろから桜木がしっかり補助してくれた。
俺は桜木の膝の上に座るような形で、湯船に浸かった。顔を上げると直ぐ間近に桜木の顔がある。肌と肌が密着した状態で、緊張もするけど、いつも以上に、桜木に支えられている安心感があった。
「お前って、本当によくわからない奴だよな……」
俺がそう呟くと、桜木は心外だ、とでも言いそうな顔で俺を見つめてきた。
「それはどういう意味?」
「この世の中に、お前ほど俺を理解している人間はいないと思う……。それなのに……俺の一世一代の決心をいつもお前は軽く交わすんだ……」
「ん??どういうこと??」
「俺が今、自己開示するって言ったのに……お前……全然聞いてくれないし……」
「だって秋ちゃん、すごい緊張してたし、言いたくなさそうだったから……。そんな辛そうな姿を見せられたら、そりゃ無理しなくていいって思うじゃん」
「それは要らん気遣いだ。……緊張するけど、それでも俺は言いたいんだ。前だってそうだ……。俺の一世一代の告白を、お前は……無下にした……」
最後の言葉は尻切れトンボ気味になってしまった。あの時の苦い想いが甦ると、今でも胸が痛い。そう──あの時とは、俺が初めて桜木にキスした月夜の晩だ。
「あの時だって、俺は物凄い勇気を出したのに……それをお前はちっとも解ってくれなかった……」
「は?!なにそれ?!いつの話???」
──マジで覚えていないのか?!
俺は振り返って、肩越しに桜木を睨んだ。
「きょとんとした顔をしやがって……、本当に何も覚えてないんだな」
「ええ?!!ちょっと待ってよ!ヒントを頂戴よ!」
俺は目をそらし、前に向き直った。流石に桜木と面と向かっては話にくい。
「無意味な真似はするな!、だとか、あの時のことなんかどうでもいい!、とか、お前は俺に言った!……俺からしたら、清水の舞台から飛び降りるくらいの勇気を出したんだぞ!それを……無意味な真似とか言われて、その時の俺がどれだけ辛かったか……」
「なにそれ?!いつのこと???」
「此処に来る前の駅での話だよ」
「……あ!あああ!!!!あれって……あれぇぇぇぇええ?!!!」
「どうやってって……分からないけど、これからじっくり考える!!だって秋ちゃんはみーちゃんと付き合うんだし……」
「いや、それはやっぱ止めとく。三隅にはあんなことを言って申し訳ないけど、気持ちに反して付き合っても、あいつが幸せになるわけないしな……」
俺は言葉を濁した。今頃になって、あの時、三隅に対して偉そうに言ってしまったことが恥ずかしい。でも、三隅が言った『──僕と摩矢くんが釣り合うわけない!』の一言が余りにも俺と似ていて、心苦しくなったのだ。俺だって、ずっとその思考で生きてきたから……。少なくとも、三隅にもその思い込みだけは捨てて欲しかった。俺だって、大したことのない人間なんだから……。
「みーちゃん……納得してくれるのかな?」
「誠心誠意、俺自身の心情を明かして話してみるよ。納得しなくても、俺に出来るのはそれくらいしかないだろうし……」
「いいなあ……みーちゃんが羨ましい」
「は? 俺はあいつを振るんだけど?」
「うん。でも、みーちゃんのために、秋ちゃんが自己開示するなんて、それだけで羨ましい」
下を向いて、桜木がはにかむようにして笑う。
「何を言ってるんだよ!俺が一番、自己開示している相手は常にお前だぞ!」
「え?そうなの??」
「そうだよ!」
「そうかなあ~? 俺の知らない秋ちゃんがまだまだ居るような気がする……」
「何を根拠にそう言う?」
「何となくだけど。そんなことより、そろそろ湯船に浸かろう。体が冷えちゃうよ」
桜木が俺の手を取った。しかし、俺はその場から動かず、桜木の手を止めた。
「何?秋ちゃん??どうしたの?」
「もっと自己開示してやろうか?」
俺は緊張しながら訊いた。今なら全てを話せるかもしれない。
「んー、でも別にいいよ。そんな無理をする必要はない。そんなことより、湯船だよ、湯船!流石に身体が冷えてきた!!」
俺はむすっと膨れっ面のまま桜木に促されて湯船に向かった。
湯に足を入れてみると、じんと芯まで染みてくる。俺の身体もかなり冷えていたらしい。怪我をした右足はビニールを被せてあるが、湯船に入れることは出来ないから、右足だけ縁に乗せて入る。その間、後ろから桜木がしっかり補助してくれた。
俺は桜木の膝の上に座るような形で、湯船に浸かった。顔を上げると直ぐ間近に桜木の顔がある。肌と肌が密着した状態で、緊張もするけど、いつも以上に、桜木に支えられている安心感があった。
「お前って、本当によくわからない奴だよな……」
俺がそう呟くと、桜木は心外だ、とでも言いそうな顔で俺を見つめてきた。
「それはどういう意味?」
「この世の中に、お前ほど俺を理解している人間はいないと思う……。それなのに……俺の一世一代の決心をいつもお前は軽く交わすんだ……」
「ん??どういうこと??」
「俺が今、自己開示するって言ったのに……お前……全然聞いてくれないし……」
「だって秋ちゃん、すごい緊張してたし、言いたくなさそうだったから……。そんな辛そうな姿を見せられたら、そりゃ無理しなくていいって思うじゃん」
「それは要らん気遣いだ。……緊張するけど、それでも俺は言いたいんだ。前だってそうだ……。俺の一世一代の告白を、お前は……無下にした……」
最後の言葉は尻切れトンボ気味になってしまった。あの時の苦い想いが甦ると、今でも胸が痛い。そう──あの時とは、俺が初めて桜木にキスした月夜の晩だ。
「あの時だって、俺は物凄い勇気を出したのに……それをお前はちっとも解ってくれなかった……」
「は?!なにそれ?!いつの話???」
──マジで覚えていないのか?!
俺は振り返って、肩越しに桜木を睨んだ。
「きょとんとした顔をしやがって……、本当に何も覚えてないんだな」
「ええ?!!ちょっと待ってよ!ヒントを頂戴よ!」
俺は目をそらし、前に向き直った。流石に桜木と面と向かっては話にくい。
「無意味な真似はするな!、だとか、あの時のことなんかどうでもいい!、とか、お前は俺に言った!……俺からしたら、清水の舞台から飛び降りるくらいの勇気を出したんだぞ!それを……無意味な真似とか言われて、その時の俺がどれだけ辛かったか……」
「なにそれ?!いつのこと???」
「此処に来る前の駅での話だよ」
「……あ!あああ!!!!あれって……あれぇぇぇぇええ?!!!」
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