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本編 イザヤside1
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肉団子にはむかついたが、爺さん以外でも陶也に触れて大丈夫な人間がいるところをみると、イザヤも時が経てば許容される日がくるのではないかと僅かに期待をしていたが、残念ながらイザヤに限ってだけは、その希望が薄いようだった。
渓流での出来事から2週間が経ち、それから陶也は目まぐるしい変化を見せた。以前、街に出た時は怯えた様子が所々みられたが、最近では緊張してるのは確かだが、店員に話しかけられても身を引くこともなく、普通に話していられるし、人にぶつかっても、その場に蹲るような事はなくなった。
ならば、症状がなくなったのかと言うとそういう訳でもなく、時折、苦痛の表情や額に汗をかいている所をみると、それなりにキツそうではあった。だが、以前のように人を無闇に避けて怯える事はなく、触れてもそのまま辛い症状を受け止められるようになった。
ーーだだし、それはイザヤ以外の人間に対してだけだった。
陶也はイザヤに対してだけは、触れそうな瞬間が来ると、ひどく怯えた。そんな顔を見る度、イザヤの胸は苦しさで一杯になったが、罪深い、穢れた自分ではやっぱり無理なのだと諦めた。
日増しに陶也の表情は明るくなり、それと同時に周囲に与える影響も変わっていった。
そんな陶也の様子を見て、爺さんはイザヤに感謝していたが、イザヤは本当に何もしていないので、感謝する必要はないと言った。全ては陶也自身の力で変わったのだ。
「俺は本当に役立たずだぜ」
と、言うと、爺さんは否定した。
「そんな事はない。お前がいい刺激となってくれた。お前が居たからだ。本当に有り難う」
今ではベッドから上体を起こすことすら出来ななくなった爺さんは、弱々しく何度もイザヤに礼をした。そして、「お前が居てくれるのなら安心して逝ける」などと気弱な事を言い出したので、イザヤは「バカ野郎!今、あんたにくたばられたら陶也が泣くだろう!まだまだ頑張れ!」と叱咤した。
それでも爺さんは、イザヤが居てくれると安心だと、うわ言のように繰り返した。今では陶也と接触出来ない人間はイザヤだけだというのに、そんなイザヤが陶也にとって必要だとは、イザヤには全く思えなかったが、先の短い爺さんに言うことでもないので黙っていた。
「じゃあ、俺は一先ず帰る。明日は陶也と来るから、元気だせよな」
今日は陶也が学校の登校日だったため、イザヤは一人で爺さんの病院に来たのだった。
爺さんに軽く手を振って踵を返すと「イザヤ……」と呼び止められた。
「なに?」
振り返ると「手を……」と言われたので手を差し出した。
爺さんはしっかり手を握ると、イザヤと同じ青い瞳を潤ませた。
「先日は悪かったな」
「何の事だ?」
イザヤは眉をひそめた。本気で何の事だか分からない。
「もしも、の話をしてしまっただろう?」
「ん?」
「私が娘を殺しておけばと言った話だ」
「ああ、あれ、それがどうした?」
話の意図が掴めない。
「そんな事をしたら、お前は産まれてなかった」
「ああ、そんな事か、別にいいよ。気にするな」
「良くはない」
爺さんの手がきつく握られる。
「お前が日本に来てくれて本当に良かった。お前にとって、今までの人生はとても辛いものだっただろうが、それでもお前が産まれて来てくれて良かった。生きているうちにお前に会えてーー嬉しかった。有り難う」
爺さんからの熱を掌に感じながら、イザヤの中で、なんとも言えない気持ちが込み上げてきた。
自分が産まれてきて良かったなんて思う人間がこの世にいるとは思わなかった。
爺さんはイザヤの罪を知っている。それでも尚、イザヤが産まれてきて良かったなどと思うのは、どんな心を持てばそうなるのか……?
イザヤには爺さんの心根など全く解らないが、それでも、そう言ってくれる人間が居るのは嬉しいような気もするが、どこかでそれを否定する自分もいる。それはイザヤ自身が、自分が産まれて良かったなんて思った事がないからだった。
渓流での出来事から2週間が経ち、それから陶也は目まぐるしい変化を見せた。以前、街に出た時は怯えた様子が所々みられたが、最近では緊張してるのは確かだが、店員に話しかけられても身を引くこともなく、普通に話していられるし、人にぶつかっても、その場に蹲るような事はなくなった。
ならば、症状がなくなったのかと言うとそういう訳でもなく、時折、苦痛の表情や額に汗をかいている所をみると、それなりにキツそうではあった。だが、以前のように人を無闇に避けて怯える事はなく、触れてもそのまま辛い症状を受け止められるようになった。
ーーだだし、それはイザヤ以外の人間に対してだけだった。
陶也はイザヤに対してだけは、触れそうな瞬間が来ると、ひどく怯えた。そんな顔を見る度、イザヤの胸は苦しさで一杯になったが、罪深い、穢れた自分ではやっぱり無理なのだと諦めた。
日増しに陶也の表情は明るくなり、それと同時に周囲に与える影響も変わっていった。
そんな陶也の様子を見て、爺さんはイザヤに感謝していたが、イザヤは本当に何もしていないので、感謝する必要はないと言った。全ては陶也自身の力で変わったのだ。
「俺は本当に役立たずだぜ」
と、言うと、爺さんは否定した。
「そんな事はない。お前がいい刺激となってくれた。お前が居たからだ。本当に有り難う」
今ではベッドから上体を起こすことすら出来ななくなった爺さんは、弱々しく何度もイザヤに礼をした。そして、「お前が居てくれるのなら安心して逝ける」などと気弱な事を言い出したので、イザヤは「バカ野郎!今、あんたにくたばられたら陶也が泣くだろう!まだまだ頑張れ!」と叱咤した。
それでも爺さんは、イザヤが居てくれると安心だと、うわ言のように繰り返した。今では陶也と接触出来ない人間はイザヤだけだというのに、そんなイザヤが陶也にとって必要だとは、イザヤには全く思えなかったが、先の短い爺さんに言うことでもないので黙っていた。
「じゃあ、俺は一先ず帰る。明日は陶也と来るから、元気だせよな」
今日は陶也が学校の登校日だったため、イザヤは一人で爺さんの病院に来たのだった。
爺さんに軽く手を振って踵を返すと「イザヤ……」と呼び止められた。
「なに?」
振り返ると「手を……」と言われたので手を差し出した。
爺さんはしっかり手を握ると、イザヤと同じ青い瞳を潤ませた。
「先日は悪かったな」
「何の事だ?」
イザヤは眉をひそめた。本気で何の事だか分からない。
「もしも、の話をしてしまっただろう?」
「ん?」
「私が娘を殺しておけばと言った話だ」
「ああ、あれ、それがどうした?」
話の意図が掴めない。
「そんな事をしたら、お前は産まれてなかった」
「ああ、そんな事か、別にいいよ。気にするな」
「良くはない」
爺さんの手がきつく握られる。
「お前が日本に来てくれて本当に良かった。お前にとって、今までの人生はとても辛いものだっただろうが、それでもお前が産まれて来てくれて良かった。生きているうちにお前に会えてーー嬉しかった。有り難う」
爺さんからの熱を掌に感じながら、イザヤの中で、なんとも言えない気持ちが込み上げてきた。
自分が産まれてきて良かったなんて思う人間がこの世にいるとは思わなかった。
爺さんはイザヤの罪を知っている。それでも尚、イザヤが産まれてきて良かったなどと思うのは、どんな心を持てばそうなるのか……?
イザヤには爺さんの心根など全く解らないが、それでも、そう言ってくれる人間が居るのは嬉しいような気もするが、どこかでそれを否定する自分もいる。それはイザヤ自身が、自分が産まれて良かったなんて思った事がないからだった。
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