34 / 116
本編 イザヤside1
32
しおりを挟む
爺さんの病院を出ると、イザヤは駐車場に停めてあった車に乗り込みエンジンをかけた。
今度は高校まで陶也を迎えに行くのだ。
車のキーには、陶也が作ってくれた木彫りのハンザキ・キーホルダーが付いている。木工細工を趣味にしてる陶也が自分とお揃いのをイザヤにもくれたのだ。
それにしても、「何でハンザキ?」とイザヤは渓流で見た、ぬらぬらした気色の悪い生き物を脳裏に浮かべながら陶也に質問した。
「だって、サンショウウオは西洋ではサラマンダーと言うでしょ。サラマンダーは火の精霊として、錬金術師の間では不純物を焼いて、純粋な物質を得る『浄化』を意味したり、古くなった肉体を焼いて新しい肉体を得る『再生』を意味してるんです。だから、僕もそんな風になりたいと思って……」
なるほど。流石、陶也だ。ただ見て気色悪いとしか思えないイザヤとは大違いの発想だ。
「あと、サラマンダーはどんな苦難や苦痛にも負けない『忍耐』を意味し、善の炎で悪を消し去るとも言われています。それが……なんとなく、イザヤさんに当て嵌まるような気がして……」
ーーん?…………いま、誰が何に当てはまるって言った???
イザヤの気のせいか、陶也の言い間違いかと思い、もう一度言った事を繰り返して貰ったら、やはり気のせいではなかった。
「はあ?!それのどこが俺に当てはまるんだ?」
イザヤが目を剥いて驚いていると、「なんとなくです」と両手を振りながら顔を赤くして去って行った。
ーーあいつの眼に、俺はどう映ってるんだ?
ーーゴキブリじゃないのか?今度、ゴキブリの事をどう思うか陶也に訊いてみよう。
そんなことを思い出しながら、イザヤは陶也の高校に到着した。正門から離れた路肩に車を止めて陶也の帰りを待った。
辺りは田んぼに囲まれているから、高校の様子がよく見渡せた。同じ制服を着た生徒達がわらわらと帰って行く。大抵が友だちとふざけあいながら、楽しそうに笑っている。その中を一人だけ、静かに歩く陶也の姿を見付けた。最近、陶也が変わったとはいえ、夏休み中の登校日に行ったくらいでは、周囲との関係に大した差はないようだった。相変わらず一人でいる陶也を見て、ほっとしてしまったイザヤは自分に嫌気が差した。
陶也はそのまま静かに、誰とも挨拶をかわすことなく、イザヤの車の助手席に座った。
「久し振りの学校、どうだった?」と訊くと、無感情に「別に」と返ってきた。
ーーなんか少し機嫌が悪い?
「どうしたんだ?なんか元気ねーじゃねぇか。何かあったか?」
「何も……」
そう言って、また沈黙。
ーーそういえば、前にもこんな状況あったな。初めて一緒に飯を食いに行った時だっけか?
「嘘だな。お前、やっぱり何かあったろ!」
イザヤは決めつけた。
「まあ、何かあっても、俺に話すかどうかはお前の自由だけどな。ただ、お前が何も話さなければ、俺がまた勝手な想像するだけだぞ」
そう言うと陶也はゆっくりとイザヤに顔を向けた。
「本当に……、何かあった訳じゃないんです。ただ、僕の心の問題なだけで……ちょっと整理が付かないだけです。時間が経てば何とかなります。心配かけてすいません」
「いや、そういう事なら別に謝る必要はないけど、まあ、ゆっくりやれよ」
「はい」
田んぼが続く和やかな道をお互い無言のまま車は走り続けた。青い空には夏の入道雲が隆々と目の前に聳え、その前を鳶が横切っていった。
「イザヤさん」
「ん?」
陶也がやっと口を開いた。が、感情の読めない妙な感じがした。
「なに?」
「蒔田さんの連絡先、どうしました?」
「あ!」
ーーそういや、そんなもんあったか!!
「そうだ!すっかり忘れてた!!なんだ、お前!まさか、そのせいで嫌がらせでも受けたか?」
「いえ、そんなことないですけど、蒔田さんにどういうことなのか訊いて来て、と、しつこく言われました。どうするんですか?」
陶也がイザヤの顔を覗き込みながら訊く。
「どうするも何も、お前は大丈夫なのか?俺が無下に扱って変なとばっちり受ける可能性は?」
「あったとしても自分で何とかします。もう、今までの臆病だった自分とはさよならです!」
そうきっぱり宣言しながら、鞄に付けたハンザキ・キーホルダーをしっかり握った。その姿を見て、イザヤは安心した。
信号が赤のうちに素早く自分の財布から蒔田の連絡先が書いてある紙を出すと、陶也に渡した。
「じゃあ、これ、お前が捨てといてよ、で、蒔田には諦めろと言っておけ」
「え、あ、はい」
「俺はお前を信じるよ。もう大丈夫だな」
ーーこいつだって、男だ。いつまでも下を向いて、誰かに寄りかかってばかりでは、満足は出来ない。自分の足でしっかり歩きたいのだ。
「はい!」
陶也は力強く返事をした。その声の張りを聞いただけで、短期間ながら、随分たくましくなったなと、イザヤは思った。
今度は高校まで陶也を迎えに行くのだ。
車のキーには、陶也が作ってくれた木彫りのハンザキ・キーホルダーが付いている。木工細工を趣味にしてる陶也が自分とお揃いのをイザヤにもくれたのだ。
それにしても、「何でハンザキ?」とイザヤは渓流で見た、ぬらぬらした気色の悪い生き物を脳裏に浮かべながら陶也に質問した。
「だって、サンショウウオは西洋ではサラマンダーと言うでしょ。サラマンダーは火の精霊として、錬金術師の間では不純物を焼いて、純粋な物質を得る『浄化』を意味したり、古くなった肉体を焼いて新しい肉体を得る『再生』を意味してるんです。だから、僕もそんな風になりたいと思って……」
なるほど。流石、陶也だ。ただ見て気色悪いとしか思えないイザヤとは大違いの発想だ。
「あと、サラマンダーはどんな苦難や苦痛にも負けない『忍耐』を意味し、善の炎で悪を消し去るとも言われています。それが……なんとなく、イザヤさんに当て嵌まるような気がして……」
ーーん?…………いま、誰が何に当てはまるって言った???
イザヤの気のせいか、陶也の言い間違いかと思い、もう一度言った事を繰り返して貰ったら、やはり気のせいではなかった。
「はあ?!それのどこが俺に当てはまるんだ?」
イザヤが目を剥いて驚いていると、「なんとなくです」と両手を振りながら顔を赤くして去って行った。
ーーあいつの眼に、俺はどう映ってるんだ?
ーーゴキブリじゃないのか?今度、ゴキブリの事をどう思うか陶也に訊いてみよう。
そんなことを思い出しながら、イザヤは陶也の高校に到着した。正門から離れた路肩に車を止めて陶也の帰りを待った。
辺りは田んぼに囲まれているから、高校の様子がよく見渡せた。同じ制服を着た生徒達がわらわらと帰って行く。大抵が友だちとふざけあいながら、楽しそうに笑っている。その中を一人だけ、静かに歩く陶也の姿を見付けた。最近、陶也が変わったとはいえ、夏休み中の登校日に行ったくらいでは、周囲との関係に大した差はないようだった。相変わらず一人でいる陶也を見て、ほっとしてしまったイザヤは自分に嫌気が差した。
陶也はそのまま静かに、誰とも挨拶をかわすことなく、イザヤの車の助手席に座った。
「久し振りの学校、どうだった?」と訊くと、無感情に「別に」と返ってきた。
ーーなんか少し機嫌が悪い?
「どうしたんだ?なんか元気ねーじゃねぇか。何かあったか?」
「何も……」
そう言って、また沈黙。
ーーそういえば、前にもこんな状況あったな。初めて一緒に飯を食いに行った時だっけか?
「嘘だな。お前、やっぱり何かあったろ!」
イザヤは決めつけた。
「まあ、何かあっても、俺に話すかどうかはお前の自由だけどな。ただ、お前が何も話さなければ、俺がまた勝手な想像するだけだぞ」
そう言うと陶也はゆっくりとイザヤに顔を向けた。
「本当に……、何かあった訳じゃないんです。ただ、僕の心の問題なだけで……ちょっと整理が付かないだけです。時間が経てば何とかなります。心配かけてすいません」
「いや、そういう事なら別に謝る必要はないけど、まあ、ゆっくりやれよ」
「はい」
田んぼが続く和やかな道をお互い無言のまま車は走り続けた。青い空には夏の入道雲が隆々と目の前に聳え、その前を鳶が横切っていった。
「イザヤさん」
「ん?」
陶也がやっと口を開いた。が、感情の読めない妙な感じがした。
「なに?」
「蒔田さんの連絡先、どうしました?」
「あ!」
ーーそういや、そんなもんあったか!!
「そうだ!すっかり忘れてた!!なんだ、お前!まさか、そのせいで嫌がらせでも受けたか?」
「いえ、そんなことないですけど、蒔田さんにどういうことなのか訊いて来て、と、しつこく言われました。どうするんですか?」
陶也がイザヤの顔を覗き込みながら訊く。
「どうするも何も、お前は大丈夫なのか?俺が無下に扱って変なとばっちり受ける可能性は?」
「あったとしても自分で何とかします。もう、今までの臆病だった自分とはさよならです!」
そうきっぱり宣言しながら、鞄に付けたハンザキ・キーホルダーをしっかり握った。その姿を見て、イザヤは安心した。
信号が赤のうちに素早く自分の財布から蒔田の連絡先が書いてある紙を出すと、陶也に渡した。
「じゃあ、これ、お前が捨てといてよ、で、蒔田には諦めろと言っておけ」
「え、あ、はい」
「俺はお前を信じるよ。もう大丈夫だな」
ーーこいつだって、男だ。いつまでも下を向いて、誰かに寄りかかってばかりでは、満足は出来ない。自分の足でしっかり歩きたいのだ。
「はい!」
陶也は力強く返事をした。その声の張りを聞いただけで、短期間ながら、随分たくましくなったなと、イザヤは思った。
0
あなたにおすすめの小説
真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~
水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。
アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。
氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。
「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」
辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。
これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる