暗い記憶が導く場所へ

蓮華空

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陶也side1

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 陶也は目を開けて、休憩室の天井を見上げた。お爺ちゃんはもう居ない。だから、陶也はこれから先、自分で考えて行動しなければならない。

 イザヤをアメリカに帰さないようにするためにはどうしたらいいか?

 いつまでも、横になっている場合ではない。陶也は起き上がって、障子を開けると、靴を履き始めた。

 スマホ片手に向かいのテーブルでお昼を食べていた義政が、「あ、陶也くん。もう大丈夫なの?」と訊いてきた。

「はい。ご心配お掛けしました。僕、やること思い出したので失礼します」

 靴を履いて引き戸を開けると義政が後ろから「無理しないでねー」と声をかけてくれた。陶也は振り返って、義政に手を振ると、急いで家へ戻った。

 取り敢えず、イザヤのパスポートとビザを隠そう。どんな手を使ってでもいい。イザヤに嫌われたっていい。イザヤをアメリカには絶対に帰さない。あんなふざけた母親の殺人ゲームになんか付き合わせてなるものか!そのためなら、自分は何だってしてやる!

 家に戻るなり陶也はイザヤの部屋に入った。イザヤの荷物なんて元々ほとんどないから、パスポートとビザは直ぐに見つかった。陶也はそれをお爺ちゃんの部屋の金庫に入れた。暗証番号は陶也しか知らないからこれで大丈夫だろう。あとは、念のためイザヤの使ってる車にGPSを着けておこう。自分のスマホも先日川の中に落としてまだ新しいのを購入していないので、一緒に用意して、それにもGPSで位置情報が分かるようにしておこう。何だが、イザヤのプライバシーを侵害するようで嫌だったが、アメリカに帰すよりよっぽどいい。

 陶也は次に家を飛び出すと、将太の家に向かった。将太の家は陶也の家から一本道を下って、右手にあるログハウス調の落ち着いた雰囲気の家だった。小川さんに携帯電話の契約に付き合ってもらえるようお願いして、小川さんのRV車に乗り込んだ。車内では、イザヤの車に取り付けるGPSについて相談した。

「確かに最近では浮気調査に使うGPSとかあるけど、イザヤくんの車に付けるって、何でまた?」

 小川さんは不思議そうに訊いた。陶也は迷わず答えた。

「イザヤさんがアメリカに帰ると言い出したので、帰さないためです。……お爺ちゃんの、遺言でもあったので……」

「え!そうだったの?!実は僕、イザヤくんにアメリカに帰った後の事をよろしく頼むっての相談されてたんだけど、まずかった?」

「本当ですか?!いつ頃からそんな話をしていたんですか?!」

 陶也は青ざめた。小川さんと事前にそんな相談していたなんて思いもよらなかった。
 小川さんは渋面を作り、額を手で擦りながら、言いづらそうに、「ジェームズさんが亡くなる前日に」と言った。

「でも、その後ジェームズさんが翌日に亡くなったから、流石に直ぐに帰るとは言ってなかったよ!勿論、落ち着いたら……なんて話はしてたんだ……」

 陶也の顔色が悪くなったのに気付いたのか、小川さんの声は最後の方でトーンが落ちていった。信号が赤に変わると、小川さんは陶也の顔を恐る恐る覗いてきた。

「あ、あの……、ひょっとして陶也くんって、イザヤくんのアメリカでの事件を知ってる……とか?」

 陶也は目を見開いた。

「お、小川さんが何でそれを……?」

「やっぱ、聞いているんだ」

「あ、いえ、僕は……」

 陶也は何と言っていいのか分からなかった。誰かから聞いて知った話ではないのだ。

「お、小川さんこそ、何故それを?」

 葬儀時の佐藤さんの一件もあったし、お爺ちゃんが話していたのだろうかと一瞬思ったが、小川さんの答えは意外な人物だった。

「僕はイザヤくん本人から知らされた。テキサス州の少年犯罪で検索すれば出てくるって……。最初は信じられなかったよ。あんなに明るくて優しい子が殺人なんて、でも、検索したら確かにあって……。酷い事件だった……」

 陶也も以前に検索して見たことがある。渓流からイザヤと家に帰ってきた日、寝る前にこっそり検索してみたのだ。

 それは10年前に日本でもワイドショーなどで取り上げられ、話題になった事件だった。

 当時14歳だったイザヤが祖母と母親の内縁の男をナイフや銃を使って殺害したという事件だ。イザヤには明確な殺意があり、計画的で残忍な犯行だったとして、第一級殺人罪が適応されたが、事件が明るみになるにつれ、日常的に虐待を受けて育っていた事やイザヤ以外の4人の子供達の遺体が酷い状態で発見されたことにより事件は急転。日頃からイザヤ達兄弟を心配し、事あるごとに家庭の様子を見に行っていた小学校教諭の謎の失踪など、 次々に新たなる真相が報道され、画面に映る当時のイザヤの美少年っぷりと、イザヤが兄弟4人をずっと支え面倒をみていた様子などが取り上げられると、世間のイザヤに対する同情はヒートアップ。少年犯罪史上最も美しい殺人犯として話題を博していった。悪いのはイザヤを殺人にまで駆り立てた母親だとして、後に母親を4人の子供の殺人容疑で指名手配し、イザヤは第二級殺人罪に変わり、情状酌量の余地があるとして、刑期が下げられた。

 だが、陶也は当時の記事を見て、事件そのものだけでなく、周囲のイザヤに対する見方にも憤りを感じていた。刑期が軽くなったのはいいが、世間が騒ぎすぎて、事件とは関係ないイザヤの日常生活まで暴き、性的虐待の詳細や殺人で捕まる前の万引きや窃盗などの軽犯罪を常習的に繰り返していたことも公表され、それは全て4人の兄弟達を養うためだったとしても、それが一部ではイザヤをダークヒーローとして神聖視し、ファンなどと言う訳のわからない輩が増え、騒ぎ立てていた。

 陶也は渓流でイザヤに触れた時に、事件の記憶を見てきただけに、陽気に流行りたてている世間にとても嫌悪感を抱いた。

 
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