暗い記憶が導く場所へ

蓮華空

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陶也side1

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「何だよ、此処?」

 侵入者が口を開いた。

 ーーえっ?!イザヤ?

 それはイザヤの声だった。陶也は目を見開いた。

 ーー何でイザヤが此処に?

「休憩よ、休憩。誰もいない所の方が落ち着くでしょ」

 愉しげな蒔田さんの声だ。
 陶也は息を潜めた。

「だったら俺は一旦、陶也のクラスに戻るよ。あいつ一人で寂しそうだったし」

「はあ?何でいつもそんなに過保護なわけ?如月くんは好き好んで一人でいるのよ!誰が話しかけたって逃げていくんだから!彼は一人の方がいいのよ」

「まあ、確かに一人の方が良い面もあるけど、あいつにはあいつなりの事情があってだなー。決して一人が良い訳ではないんだよ。矛盾してるけど、仕方なくああしているんだ。お前みたいに産まれた時から蝶よ花よで育った奴には解らないだろうけどな」

「何よ、あたしだって、如月君の事情は聞いてるわよ。それって障害があるって話でしょ。だから尚更放っておけばいいじゃん。だって障害のせいで、人とのコミュニケーションが巧く取れなくて疲れるんでしょ。だから、余り接しない方が彼にとっては楽なんじゃない?」

 蒔田さんがそう言うと、イザヤは深い溜め息をついた。

「お前は、なんっも解っちゃいねぇな。障害が有ろうが無かろうが、聖人君子だろうが、罪人だろうが、人間ってのは本来、一人の癖に一人じゃいられないんだ。一人の方が楽だって思う時もあるけど、ずっと一人はやっぱりきついもんだろ」

「そんな事ないんじゃない?引きこもりの人なんか絶対平気そうじゃん」

「引きこもって人から離れようとしてる奴は、人と会う事で、人との差を実感したくないから引きこもってるんだ。自分は本当に一人なんだ。誰とも繋がっていない、繋がれないって実感が怖くて避けてんだよ。人間、みんな怖ぇんだよ、真の孤独の実感ってのはーー。だから人はその実感に近付くと自ら死ぬんだ。耐えられねぇんだよ。人を殺すのも同じさ。その実感を与えた奴が憎くなる」

「え?人を殺すのも?人殺しは大半が怨恨じゃないの?」

「恨みや憎しみ、嫉妬の先に孤独がリンクしてるんだよ。孤独っていっても、人によって感じてる程度が違うと思うから、ここで言う孤独は死や絶望と直結する程の孤独と思ってもらえればいい。よくプライドを傷付けられて殺すとかあるけど、あれだって、自分のこうでなければいけないって理想像があって、そこから外れる事がイコール絶望や死、即ち孤独に落とされるってのが根底にあるわけさ。それを実感したくないから、殺す。だから、自分を殺すのも人を殺すのも根底は同じ。どちらにも流れず踏み留まるのは気がおかしくなる程苦しい。俺は俺を孤独に貶めた奴が目の前に現れたら、迷わず殺しにいく自信があるぜ」

「…………」

 陶也は息を呑んだ。イザヤの孤独に対する洞察は自分が先程怯えていた通りだった。

 陶也の脳裏に、兄弟の遺体の前で生気を失ったイザヤが浮かんだ。

 ーーイザヤが感じた真の孤独と絶望を思う。

 どれ程の苦しみだったか……。

「だから、引きこもってる奴らは、そこをギリギリで持ちこたえてる大変な奴らだ。自分も殺さず、他者も殺さず、ただじっと崖っぷちで耐え忍んでいる。俺はやつらを尊敬するね。陶也が人を避けるのも、それに近いと俺は思っている。人と接したくない訳じゃない。何かあるんだ。あいつだけの何かが……。それに触れたら死に値する程の孤独がやってくるんじゃないかって予感に怯え、人を遠ざけてるんだ。でも、本心は違う」

「なによ。それ?如月君の何かって、なんなのよ?」

「さあな、流石に俺もそこまでは解らねぇや。ただ、誰にも言えない、理解されない何かがあるって、そう思うだけ」

「何でそんな風に思うのよ?」

「俺も別の意味で同じだからさ。周りの人間との違いがある。しかも、その違いというのが、大半の人間が忌み嫌うものだから」

「どういう事よ、それ?」

「そういえば、お前。モデルかなんかやってるって聞いたけど、将来もっと知名度上げていくつもりか?」

「そのつもりだけど、……随分と話が変わってない?」

「なら、俺の近くに寄らない方がいいぞ。俺なんかと親しくしていると、お前にとって、この先、かなりマイナスになるはずだ」

「どういう事?」

「俺は人を二人殺してる」

「「ーー!」」

 ーーイ、イザヤ……?!

 陶也は驚愕した。

 ーー何で自らそんな事を話すの?!

 どうやら蒔田さんも言葉が出ないようだ。暫くしてやっと、「嘘でしょ」と口にした。
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