暗い記憶が導く場所へ

蓮華空

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陶也side1

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「14の時にな。それから10年、ずっと刑務所で過ごしてきた。テキサス州の少年犯罪ってインターネットで検索すると出てくるぞ」

 暫く、表では沈黙が流れていた。

 蒔田さんが自分のスマホで検索しているのかもしれない。



 イザヤもーー、

 自ら自分の犯罪を人に話して、人を遠ざけている。

 そして、人々がイザヤから離れていったら、イザヤの選ぶ道はーー?



『俺は俺を孤独に貶めた奴を迷いなく殺す』



 イザヤは自分からその道に追い込んでいるようだ。

 
 まるで、人を試しているかのように。

 そして、完全に追い込まれたら、やっぱりイザヤは……。

 ーー母親を殺す?

 それとも?

 陶也は不安に駆られた。




 ガラガラと立て付けの悪い美術準備室のドアが開く音がした。

 イザヤが、フッ、と笑う声がする。

「それだよ、それ!今、俺から離れようとするその感覚。それが、孤独の実感に近付いている感覚さ。もやっとした嫌な感覚だろ?だが、よく覚えとけ!その狭間で常に苦しんでいる奴らがいるってことを」

 廊下を走り去っていく蒔田さんの足音が聞こえた。

 そして、美術準備室の椅子を引き寄せ、長い溜め息を付きながら、そこに腰かけるイザヤの気配がした。

 沈黙の後、突然、陶也のスマホが鳴った。イザヤからの着信だ。陶也は慌てた。

 マナーモードにしてあるが、この距離だと完全にイザヤに聴こえる。外でイザヤが「ん?」と言ってこちらに近付いてきた。

 電話に出るべきか、外に出るべきか迷っていたら、陶也の隠れている棚の扉が開いた。

 驚いた顔のイザヤと目が合った。

「陶也ぁぁ????!!!お前、何でそんな所にいるんだ?!」

 (そりゃ、驚きますよね……)

 陶也はのそのそと棚から這い出した。

 イザヤは周りを見回し、驚き顔のまま棚を指差した。

「お前、ずっとそこに居たのか?」

 こくりと頷いた。

 マジかぁー、と言いながら自分の頭を掻きむしる。そして、顔を上げると、少し悲し気な表情を浮かべた。

「なら、話は全部、聞いていたんだな」

 陶也はまた頷いた。
 
 イザヤは顔をしかめると、その場にしゃがみ込み、頭を抱えて、大きな溜め息をついた。

「お前にはまだ知られたくなかったんだけどなあ……」

 と言って、髪をかき上げ、陶也を見上げる。

「ごめんな。こんな奴でーー、お前に告白された時に、ちゃんと言えば良かったんだろうけど……どうしても、お前の言ってくれた言葉が嬉しくて、お前に触れたくて……、自分が人殺しだって、言えなくなった。言ったら永遠に触れられないような気がして、……嫌だった。バレてお前が俺から離れるまでは、お前の側に居たかったんだ。可能な限り、お前と一緒に居たかった。本当に、……ごめんな。人殺しなんか、お前だって嫌だよな」

 陶也は黙って聞いていた。
 
 イザヤが自分なんかに、そんな後ろめたい気持ちを抱いていたなんて……、

 陶也だって、罪深いのに、

 傷付いた女の子を、見て見ぬ振りをして、死なせた。

 見えているのに、解っているのに、いつでも自分は素知らぬ顔をして生きているんだ。

 そんな自分と比べたら、イザヤの生き方はやっぱり真っ直ぐだった。

 イザヤに対する自分の気持ちの変化など有り得なかった。

「僕には……。僕にとっては、イザヤの過去がどうであったって、イザヤはイザヤだ。僕の好きなイザヤだ。何も変わらない!変わらないんだ!」

 いや、でも……、と、何か言おうとしているイザヤの言葉を遮って陶也は続けた。

「僕は知ってたもん!」

 ーーイザヤの過去を見れるんだから……

「前から知ってたもん。イザヤに告白したときには、僕はもう知ってたんだよ!知ってて、それでも、好きだって思ったんだ!だから、イザヤは僕の側にずっと居てよ!僕がイザヤから離れる事なんてない!どんなイザヤだって、僕は好きなんだ!」

 イザヤはそれを聞くと、唇を噛みしめた。

「だけど……、俺と一瞬にいたら、いつかお前だって、世間から白い目で見られるぞ。それに苦しめられるお前を、俺は見たくないんだ」

「そんなの、イザヤを失うことに比べたら、ちっとも苦しくなんかない!!イザヤが居てくれたら、世間の目なんかどうでもいい!だから、アメリカに帰ろうなんて、二度と思わないで、ずっとここに居て!イザヤは、何だろうとここに居てよ!」

「陶也……」

 イザヤが一歩前に出て、陶也に近づいてきた。が、その時、急にパトカーのサイレンが学校内に入ってきた。

「なんだ?」

 イザヤが美術準備室の窓から外を見に行った。
 
 陶也の通報で、ついに警察がやってきたのだ。
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