暗い記憶が導く場所へ

蓮華空

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陶也side1

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 イザヤは不服そうに唇を噛み締めていた。

 陶也はその姿に視線を向け、母親にお願いしてみた。

「あの、お話の前にイザヤの縄を解いてもいいですか?」

 母親は片方の眉を歪めた。

「駄目よ。躾の利いていない馬鹿は自由にさせられないわ。あんただって言ってたでしょ。あたしを目の前にしたら、こいつは何をするか分からないって、ーー危険よ」

 陶也は静かにイザヤを見つめた。

「イザヤ。今度こそ約束して。何もしないってーー、この場は僕に任せてくれる?」

 陶也はイザヤの傍らにしゃがみこんだ。

「任せるって、……どうする気だ?お前はこいつが如何にやばい奴か知らねぇだろ?!」

「知ってるよ。僕はイザヤより、この人の事が解るよ。だから、大丈夫」

 陶也は安心させるよう、イザヤに微笑んだ。

「は?何を言ってるんだ?お前はこいつに会ったばかりだろ?」

「ええ、実際に会うのは初めてだけど、僕は幼い頃から彼女を知っていました」

 ゆっくりと、そして、静かに母親を見つめ、陶也は意味深な笑みを母親に送った。すると、母親は目を細め、陶也の次の言動に集中する。その隙に、後ろ手でイザヤの縄を解こうと手を出した、その瞬間ーー。母親が、持っていた銃を抜いて、陶也の足下に一発撃った。

 轟く銃声に陶也だけでなくイザヤも動きを止めた。

 そして、母親のドスの効いた声が部屋中に木霊した。

「勝手な真似するんじゃないよ!!あんたはイザヤから離れな!!」

 陶也は母親に注意を向けたまま、仕方なく、手をあげて、ゆっくりとイザヤから離れた。充分な距離を取ると、母親は柔和な顔つきに戻り、陶也に訊ねた。

「ねえ……、あんた、あたしの父に育てられたんだってね。あたしを知ってるって、あの人から聞いたの?」

 そっけない素振りを見せているが、母親の表情が僅かに変わったのを陶也は見逃さなかった。瞳孔が開いてきている。お爺ちゃんの話は、この人にとって、やはり興味深い話なのだ。

「さあ、どうでしょう?話すとしたら、お爺ちゃんは、どんな話をしていると思います?」

 質問を質問で返してやると、母親は苛ついた表情を見せた。

「もういい!どうせろくな話じゃないだろうし、やっぱその話はどうでもいい!それよりもーー」

 母親が不気味な笑みを溢した。

「あんた達って、出来てるのよね」

「はい。僕は何度もイザヤに抱かれています」

 陶也が軽快に話すと、母親の周りの空気が一瞬冷めたようになり、彼女は眉間に皺を寄せた。イザヤが、「そんな事、そいつに話な」と怒鳴ったが、そのイザヤの反応が事実だと証明した。

 母親は憤怒の形相で、陶也に近付き、陶也の頬を思いっきり殴りつけてきた。陶也はそのまま一発目は受けたが、もう一発、殴ろうとしている母親の手を、今度はしっかりと掴んで叱咤した。

「イザヤは、あなたのお父さんじゃないですよ!!」

 そう言うと、陶也の頭の中に、次々と母親の暗い記憶が流れ込んできた。

 そして、この人の記憶の中にも、やはり在った!!幼い頃に受けた。小さな傷がーー。

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