暗い記憶が導く場所へ

蓮華空

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陶也side1

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 隣の庭へと逃げたはいいが、立地上、片側は急な斜面になっていて、やはり表へ回らないと道路には出れなかった。

 奴等が室内に入れば、気を失った母親が倒れている。その姿を見れば、奴等は直ぐに表へ出てイザヤを探すだろう。

 陶也とイザヤは、隣の庭先からこっそり奴等の様子を確認した。そして、奴等が玄関に入ったと同時に、道路へと飛び出し全力で走った。気付かれるまでの間、どこまで逃げ切れるか?

 案の定、直ぐに男が二人、飛び出してきた。

「ヤバい!来たぞ!陶也、トラックはまだ先か?!」

「いや、もうすぐだから、何とか逃げ切れる!」

 走っていた路地から、50mほど行くと、右に細い道がある。陶也はそこの草むらギリギリに軽トラを停めていた。

「陶也、お前が運転手しろ!俺は追ってきた奴等を何とかする!」

 イザヤの手には、また母親の持っていた銃が握られている。

「何とかって、どうするつもり?」

 陶也は不安だった。銃は人を殺めるためのものだ。

「安心しろ!威嚇するだけだ!」

 陶也は慌てて運転席へと滑り込み、エンジンをかけた。
 イザヤも助手席に乗り込むと、窓から身を乗り出し、奴等の様子を確認する。

 車が走り出すと、男達は一斉に発砲してきた。

 軽トラの後ろ、荷台と境になっているガラスに弾が当たり、砕かれる。

「陶也、身を低くしていろ!」

 イザヤも数発、後ろに向かって発砲すると、奴等の銃声は止んだ。その間に陶也はアクセルを全開で踏み込んだ。

 車を離れた所に停めておいて良かったと、陶也は思った。陶也達を追うには、奴等は戻って車を取りに行かなくてはならない。これで、少しは時間が稼げる。

 イザヤも一息つきながら、助手席のシートに座り直した。

「直ぐに車で追ってくるだろうから、取り敢えず一番近い街に降りて車を乗り換えるぞ」

 イザヤの提案に、陶也も、わかった、と返事をし、一息ついた。分かれ道を何度か右左折したから、奴等もそう簡単には後を追って来れないだろう。

 取り敢えず、イザヤが隣に座っている。それだけで、全身が安堵に包まれる。

 陶也の回りに散らばったガラス片を、イザヤが綺麗に払ってくれた。

「有り難う」

 礼を言うと、イザヤは一言、「本当に無理しやがって……」と言いながら、後方に注意を向けた。

「それは、こっちの台詞。……将太の事、本当に有り難う」

「礼を言われるような事じゃないだろう?こっちが巻き込んだんだ。寧ろ、申し訳なくて、小川さんにも顔向け出来ねぇよ」

「うん……」

 と、陶也も同意して、その後の小川さんと将太の容態が気になった。奴等が現れて、イザヤを連れて逃げた夜、小川さんにだけは事情を説明しておけば良かったと、陶也は深く後悔していた。

「勿論、お前にもだが……」

 母親から離れると、途端にイザヤは柔和になる。寧ろ、不安げで、罪悪感たっぷりな瞳でこちらを覗き見た。

「そうだよ。無茶はしないって、約束したのに」

 反省しているようなので、優しく言った。するとイザヤはとても申し訳なさそうな顔をして、大きな溜め息を溢した。

「悪りぃ、どうしてもあいつの事となると、抑えが効かないんだ。気付いた時には、頭に血が登って、飛び出してるんだ。自分でも、これだけはどうにもならない。……無茶をするなって……お前と約束したのにな……どうしてこうなんだろう?」

 声がどんどんトーンダウンしていく。イザヤの中ではきっと、自分を責めている自分がいるのだろう。眉間に皺を寄せ、苦しそうな表情を見ていると、陶也まで苦しくなっくる。

 陶也はその思考を止めるように、あっけらかんとした声で、「もういいよ。分かってるから!」と言った。

「イザヤがどうしてそうなのか、僕には分かってるから大丈夫。寧ろ僕の方が無理なお願い事をしたのかもしれない。無茶をしないで、って言う約束はもう気にしなくていいよ。そこに集中しないで、でも、僕にとってイザヤは命に換えても大切な存在だってことは変わらないよ」

「陶也……」

 イザヤはか細い声で言った。

「だけど、俺がどうしてそうなのか、分かってるって……何で、お前には分かるんだ?俺にも分からない、俺の事が……。そういえば、あいつの事もそうだよな。俺にはお前らの会話が一部しか聞こえなかったが、あいつとお前は話が通じていたよな。妹のリサの名前も出ていた。俺はお前に、妹の名までは教えてないはずだ……どういう事だ?」

 イザヤが真剣な眼差しで問いかけてくる。

 陶也は返答に窮した。

 記憶が見えるという事を、いつかはイザヤに打ち明けようとは思っていたが、今、奴等から逃げている、このタイミングで言う事なのだろうか?

 やはり、こんな状況で打ち明けるべきじゃない。そう思って、陶也はこの場を何とか誤魔化そうとした。

 だが、突然、体が何かに引っ張られるような、不思議な感覚に襲われ、陶也は慌てて急ブレーキを踏み、路肩に車を停車した。

 何故だが判らないけど、心臓がドキドキする。

 あと、もう少しで街に降りるという所なのに、体が動かない。イザヤも心配そうに、陶也の顔を覗き混む。

「どうしたんだ、陶也?運転、代わるか?」

 陶也はイザヤの方を見た。

 そして、イザヤを見た瞬間、陶也を引っ張っていたその正体が、分かったような気がした。

 イザヤの首に下げられた、4人の兄弟達。

 彼らが目に入った瞬間、彼らが一斉に、『ーー今だ!!』と、言ったような気がした。

 陶也は彼らに誘われるように、イザヤの首の兄弟達に触れた。

「イザヤ……、よく聞いて。何があっても逃げ出さずに、彼らからのメッセージを感じ取るんだ!」

 イザヤの目が驚きの形に見開いた。

「彼らって、お前ーー?!」

 陶也は頷いた。
 
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