90 / 116
イザヤside2
88 【イザヤside】
しおりを挟む
【イザヤside】
「彼らって……、お前……、これが何だか……分かるのか?」
イザヤは躊躇った。これについて陶也に何の説明もして来なかったはずだ。出会ったその日に、これが何だ?と問われたが、お守りということで納得してくれていると思っていた。
──彼ら。
と、言う限り、陶也は、これが初めから人間だと分かっていたのか?
陶也は頷いて、一番左端の骨に触れた。
「この子はダグラス。癖っ毛の金髪がとても可愛らしい、お調子者の10歳の男の子だ」
「な、何で……そこまで分かるんだ?」
イザヤは驚いた。こいつは、霊能力者かなんかだったのか?
陶也の手がゆっくりと移動し、今度はマイクの骨に触れる。
「この子はマイク。ダグラスと双子のように似ているけど、年子なんですね。11歳。少し控え目でのんびりした男の子」
二人に触れながら、陶也はとても悲しそうな顔をした。
イザヤは嫌な予感がした。
「どういう事だ?……陶也?……お前には、何が見えるんだ?」
震える声で問いかけた。
妙な胸騒ぎがした。
「僕は人に触れると、その人の記憶が見えるんです。何故だが分からないけど、それも、その人の、悪意や負の感情を伴った暗い記憶だけが見えるんです」
イザヤは息を呑んだ。
それでは、初めて会ったあの日──。
脱衣所で陶也が悲鳴を上げたのは──?
怯えていたのは──?!
──ドクン!!!
と、腹の底から、底冷えするような何かが突き上げて来るのを感じた。
そして、嫌な予感がどんどん強くなる。思わず身震いした。
何かとてつもなく恐ろしい事が起きそうな、そんな予感に囚われて、イザヤは身動きが取れなくなった。
目の前の陶也は、暗く沈んだ黒瞳を揺らし、イザヤの事を憐れむように見つめていた。
こいつの瞳には何が見えているんだ?
暗い記憶?
まさか、ダグラスとマイクの最後の瞬間が見えるとでも言うのか?
「ダグラスとマイクは、スタンガンで脅されながら、泣きながらリサの遺体を見ていました」
イザヤは震駭した。
「ま、待て!!止めろ!!何の話をする気だ!」
──そんな話は聞きたくない!!
イザヤは陶也の手をもぎ離そうとしたが、力が全然入らなかった。自分の体が自分のものではないような気がした。
心臓の鼓動が速くなり、とても恐ろしかった。
何が恐ろしいのか?
──陶也か?
いや、違う!
目の前の陶也は、悲しみと慈しみに満ちた表情をしている。
陶也ではない。
しかし、恐怖の念は収まるどころか益々強く感じてくる。
イザヤはすがるように、ダグラスとマイクに触れている陶也の手を握った。
何なんだ?この感じは?
どこから来る??
イザヤは周りを見回した。
地の底?
──否。
自分の中からだ。
自分の中の、普段、意識できる範囲より、もっと深い、深い、場所から何かが来る。
──そこには、
そうだ!あいつがいた!
奈落の底に堕ちて死んでいった自分の半身。
イザヤがその場所に思い至った頃、陶也がまた口を開いた。
「ダグラスとマイクが遺体を眺めているその横で、ヨシュアが、大泣きに泣いた。三人の泣き声の反響に耐えられなくなった母親は、酷く苛立ち、ヨシュアの髪を掴むと、ソファーの上に押し倒し、胸をナイフで一突きにした。彼はずっと、死ぬ寸前まで、泣きながらイザヤの名を呼んでいた」
イザヤは息を呑んだ。
何て事を話し出すんだ!こいつは──?!一体、何のつもりだ!
イザヤは陶也に対し、怒りすら沸いてきた。
止めろ!と叫びたかったが、何故だが声が出ない。
自分の深部で、奈落の底に堕ちていったはずの、干からびた半身が、びくり、と動いた。
その瞬間、全細胞が危険を察知し、全身が総毛立つ。
──駄目だ!
──そいつを、動かしては!蘇らせては駄目だ!
イザヤは心の中で、叫んだ。
自分の血の気がどんどん引いていくのを感じた。
そして、その分の血をやつに吸いとられていくような不快感が全身を襲う。
そんなイザヤを知ってか知らずか、陶也はお構い無しに話を続けてくる。
「ダグラスとマイクもイザヤに助けを求めながら泣いていた。どうして?こんな事になったの?と繰り返し口にしながら、母親の許しとイザヤの助けを求めてた」
陶也の声が耳に入ってくる度に、ドクン、ドクン、と、奈落の底に堕ちていた半身が脈動を開始する。
そして、脈動と共に、次第にそいつは膨れ上がり、肉付き始めた。
その生々しい感覚に吐き気がし、全身を包む恐怖の念は一向に収まりがつかなかった。
「止めろ!止めてくれ!……もう、もうそれ以上、言わないでくれ!奴が……、奴が、蘇る!!!」
イザヤは後退した。
体がガクガクと震えてくる。
それでも、陶也は止めなかった。
陶也の指は遂に、リサに触れた。
「リサはイザヤの事が大好きだった」
「駄目だ!言うな!陶也!!もう、やめろ!!」
イザヤは自分の耳を塞いだ。
「逃げちゃ駄目だ!イザヤ!!ちゃんと聞いて!!そして、彼らがイザヤに、本当に伝えたい事を感じ取るんだ!!」
「駄目だ!無理だ!!そんなの、無理なんだ!!」
──半身が
──死んだはずの半身が、
蘇ってしまう!!
ドクン、ドクン、と、そいつは脈動を繰り返し、肉を再生させ、どんどん大きくなっていく。
そして、ゆっくりと地に足を着けた。
駄目だ!
奴が起き上がる!!
それが、どうしようもなく、
怖い。
…………この世の終わりを迎えるかのように、
「彼らって……、お前……、これが何だか……分かるのか?」
イザヤは躊躇った。これについて陶也に何の説明もして来なかったはずだ。出会ったその日に、これが何だ?と問われたが、お守りということで納得してくれていると思っていた。
──彼ら。
と、言う限り、陶也は、これが初めから人間だと分かっていたのか?
陶也は頷いて、一番左端の骨に触れた。
「この子はダグラス。癖っ毛の金髪がとても可愛らしい、お調子者の10歳の男の子だ」
「な、何で……そこまで分かるんだ?」
イザヤは驚いた。こいつは、霊能力者かなんかだったのか?
陶也の手がゆっくりと移動し、今度はマイクの骨に触れる。
「この子はマイク。ダグラスと双子のように似ているけど、年子なんですね。11歳。少し控え目でのんびりした男の子」
二人に触れながら、陶也はとても悲しそうな顔をした。
イザヤは嫌な予感がした。
「どういう事だ?……陶也?……お前には、何が見えるんだ?」
震える声で問いかけた。
妙な胸騒ぎがした。
「僕は人に触れると、その人の記憶が見えるんです。何故だが分からないけど、それも、その人の、悪意や負の感情を伴った暗い記憶だけが見えるんです」
イザヤは息を呑んだ。
それでは、初めて会ったあの日──。
脱衣所で陶也が悲鳴を上げたのは──?
怯えていたのは──?!
──ドクン!!!
と、腹の底から、底冷えするような何かが突き上げて来るのを感じた。
そして、嫌な予感がどんどん強くなる。思わず身震いした。
何かとてつもなく恐ろしい事が起きそうな、そんな予感に囚われて、イザヤは身動きが取れなくなった。
目の前の陶也は、暗く沈んだ黒瞳を揺らし、イザヤの事を憐れむように見つめていた。
こいつの瞳には何が見えているんだ?
暗い記憶?
まさか、ダグラスとマイクの最後の瞬間が見えるとでも言うのか?
「ダグラスとマイクは、スタンガンで脅されながら、泣きながらリサの遺体を見ていました」
イザヤは震駭した。
「ま、待て!!止めろ!!何の話をする気だ!」
──そんな話は聞きたくない!!
イザヤは陶也の手をもぎ離そうとしたが、力が全然入らなかった。自分の体が自分のものではないような気がした。
心臓の鼓動が速くなり、とても恐ろしかった。
何が恐ろしいのか?
──陶也か?
いや、違う!
目の前の陶也は、悲しみと慈しみに満ちた表情をしている。
陶也ではない。
しかし、恐怖の念は収まるどころか益々強く感じてくる。
イザヤはすがるように、ダグラスとマイクに触れている陶也の手を握った。
何なんだ?この感じは?
どこから来る??
イザヤは周りを見回した。
地の底?
──否。
自分の中からだ。
自分の中の、普段、意識できる範囲より、もっと深い、深い、場所から何かが来る。
──そこには、
そうだ!あいつがいた!
奈落の底に堕ちて死んでいった自分の半身。
イザヤがその場所に思い至った頃、陶也がまた口を開いた。
「ダグラスとマイクが遺体を眺めているその横で、ヨシュアが、大泣きに泣いた。三人の泣き声の反響に耐えられなくなった母親は、酷く苛立ち、ヨシュアの髪を掴むと、ソファーの上に押し倒し、胸をナイフで一突きにした。彼はずっと、死ぬ寸前まで、泣きながらイザヤの名を呼んでいた」
イザヤは息を呑んだ。
何て事を話し出すんだ!こいつは──?!一体、何のつもりだ!
イザヤは陶也に対し、怒りすら沸いてきた。
止めろ!と叫びたかったが、何故だが声が出ない。
自分の深部で、奈落の底に堕ちていったはずの、干からびた半身が、びくり、と動いた。
その瞬間、全細胞が危険を察知し、全身が総毛立つ。
──駄目だ!
──そいつを、動かしては!蘇らせては駄目だ!
イザヤは心の中で、叫んだ。
自分の血の気がどんどん引いていくのを感じた。
そして、その分の血をやつに吸いとられていくような不快感が全身を襲う。
そんなイザヤを知ってか知らずか、陶也はお構い無しに話を続けてくる。
「ダグラスとマイクもイザヤに助けを求めながら泣いていた。どうして?こんな事になったの?と繰り返し口にしながら、母親の許しとイザヤの助けを求めてた」
陶也の声が耳に入ってくる度に、ドクン、ドクン、と、奈落の底に堕ちていた半身が脈動を開始する。
そして、脈動と共に、次第にそいつは膨れ上がり、肉付き始めた。
その生々しい感覚に吐き気がし、全身を包む恐怖の念は一向に収まりがつかなかった。
「止めろ!止めてくれ!……もう、もうそれ以上、言わないでくれ!奴が……、奴が、蘇る!!!」
イザヤは後退した。
体がガクガクと震えてくる。
それでも、陶也は止めなかった。
陶也の指は遂に、リサに触れた。
「リサはイザヤの事が大好きだった」
「駄目だ!言うな!陶也!!もう、やめろ!!」
イザヤは自分の耳を塞いだ。
「逃げちゃ駄目だ!イザヤ!!ちゃんと聞いて!!そして、彼らがイザヤに、本当に伝えたい事を感じ取るんだ!!」
「駄目だ!無理だ!!そんなの、無理なんだ!!」
──半身が
──死んだはずの半身が、
蘇ってしまう!!
ドクン、ドクン、と、そいつは脈動を繰り返し、肉を再生させ、どんどん大きくなっていく。
そして、ゆっくりと地に足を着けた。
駄目だ!
奴が起き上がる!!
それが、どうしようもなく、
怖い。
…………この世の終わりを迎えるかのように、
0
あなたにおすすめの小説
真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~
水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。
アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。
氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。
「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」
辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。
これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる