暗い記憶が導く場所へ

蓮華空

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イザヤside2

88 【イザヤside】

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【イザヤside】

「彼らって……、お前……、これが何だか……分かるのか?」

 イザヤは躊躇った。これについて陶也に何の説明もして来なかったはずだ。出会ったその日に、これが何だ?と問われたが、お守りということで納得してくれていると思っていた。

 ──彼ら。

 と、言う限り、陶也は、これが初めから人間だと分かっていたのか?

 陶也は頷いて、一番左端の骨に触れた。

「この子はダグラス。癖っ毛の金髪がとても可愛らしい、お調子者の10歳の男の子だ」

「な、何で……そこまで分かるんだ?」

 イザヤは驚いた。こいつは、霊能力者かなんかだったのか?

 陶也の手がゆっくりと移動し、今度はマイクの骨に触れる。

「この子はマイク。ダグラスと双子のように似ているけど、年子なんですね。11歳。少し控え目でのんびりした男の子」

 二人に触れながら、陶也はとても悲しそうな顔をした。

 イザヤは嫌な予感がした。

「どういう事だ?……陶也?……お前には、何が見えるんだ?」

 震える声で問いかけた。
 妙な胸騒ぎがした。

「僕は人に触れると、その人の記憶が見えるんです。何故だが分からないけど、それも、その人の、悪意や負の感情を伴った暗い記憶だけが見えるんです」

 イザヤは息を呑んだ。

 それでは、初めて会ったあの日──。

 脱衣所で陶也が悲鳴を上げたのは──?

 怯えていたのは──?!



 ──ドクン!!!



 と、腹の底から、底冷えするような何かが突き上げて来るのを感じた。

 そして、嫌な予感がどんどん強くなる。思わず身震いした。

 何かとてつもなく恐ろしい事が起きそうな、そんな予感に囚われて、イザヤは身動きが取れなくなった。

 目の前の陶也は、暗く沈んだ黒瞳を揺らし、イザヤの事を憐れむように見つめていた。

 こいつの瞳には何が見えているんだ?

 暗い記憶?

 まさか、ダグラスとマイクの最後の瞬間が見えるとでも言うのか?

「ダグラスとマイクは、スタンガンで脅されながら、泣きながらリサの遺体を見ていました」

 イザヤは震駭した。

「ま、待て!!止めろ!!何の話をする気だ!」

 ──そんな話は聞きたくない!!

 イザヤは陶也の手をもぎ離そうとしたが、力が全然入らなかった。自分の体が自分のものではないような気がした。

 心臓の鼓動が速くなり、とても恐ろしかった。

 何が恐ろしいのか?

 ──陶也か?

 いや、違う!

 目の前の陶也は、悲しみと慈しみに満ちた表情をしている。

 陶也ではない。

 しかし、恐怖の念は収まるどころか益々強く感じてくる。

 イザヤはすがるように、ダグラスとマイクに触れている陶也の手を握った。


 何なんだ?この感じは?
 
 どこから来る??

 イザヤは周りを見回した。


 地の底?

 ──否。

 自分の中からだ。

 自分の中の、普段、意識できる範囲より、もっと深い、深い、場所から何かが来る。

 ──そこには、

 そうだ!あいつがいた!

 奈落の底に堕ちて死んでいった自分の半身。

 イザヤがその場所に思い至った頃、陶也がまた口を開いた。

「ダグラスとマイクが遺体を眺めているその横で、ヨシュアが、大泣きに泣いた。三人の泣き声の反響に耐えられなくなった母親は、酷く苛立ち、ヨシュアの髪を掴むと、ソファーの上に押し倒し、胸をナイフで一突きにした。彼はずっと、死ぬ寸前まで、泣きながらイザヤの名を呼んでいた」

 イザヤは息を呑んだ。

 何て事を話し出すんだ!こいつは──?!一体、何のつもりだ!

 イザヤは陶也に対し、怒りすら沸いてきた。

 止めろ!と叫びたかったが、何故だが声が出ない。

 自分の深部で、奈落の底に堕ちていったはずの、干からびた半身が、びくり、と動いた。

 その瞬間、全細胞が危険を察知し、全身が総毛立つ。

 ──駄目だ!

 ──そいつを、動かしては!蘇らせては駄目だ!

 イザヤは心の中で、叫んだ。

 自分の血の気がどんどん引いていくのを感じた。

 そして、その分の血をやつに吸いとられていくような不快感が全身を襲う。

 そんなイザヤを知ってか知らずか、陶也はお構い無しに話を続けてくる。

「ダグラスとマイクもイザヤに助けを求めながら泣いていた。どうして?こんな事になったの?と繰り返し口にしながら、母親の許しとイザヤの助けを求めてた」

 陶也の声が耳に入ってくる度に、ドクン、ドクン、と、奈落の底に堕ちていた半身が脈動を開始する。

 そして、脈動と共に、次第にそいつは膨れ上がり、肉付き始めた。

 その生々しい感覚に吐き気がし、全身を包む恐怖の念は一向に収まりがつかなかった。

「止めろ!止めてくれ!……もう、もうそれ以上、言わないでくれ!奴が……、奴が、蘇る!!!」

 イザヤは後退した。

 体がガクガクと震えてくる。

 それでも、陶也は止めなかった。

 陶也の指は遂に、リサに触れた。

「リサはイザヤの事が大好きだった」

「駄目だ!言うな!陶也!!もう、やめろ!!」

 イザヤは自分の耳を塞いだ。

「逃げちゃ駄目だ!イザヤ!!ちゃんと聞いて!!そして、彼らがイザヤに、本当に伝えたい事を感じ取るんだ!!」

「駄目だ!無理だ!!そんなの、無理なんだ!!」


 ──半身が

 ──死んだはずの半身が、

 蘇ってしまう!!

 
 ドクン、ドクン、と、そいつは脈動を繰り返し、肉を再生させ、どんどん大きくなっていく。

 そして、ゆっくりと地に足を着けた。


 駄目だ!

 奴が起き上がる!!

 それが、どうしようもなく、

 怖い。

 …………この世の終わりを迎えるかのように、

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