暗い記憶が導く場所へ

蓮華空

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イザヤside2

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 それでも陶也は淡々と続けた。

「ある日、ベッドでリサと絡み合っていた所を母親に見られ、次の瞬間から、母親は鬼と化し、リサを連れ出した。そして、イザヤも後を追ったね」

「止……めろ……。陶也……、お願い……だから、……もう、……言わない、で……くれ……」

 イザヤは辿々しく、けれども必死に懇願した。呼吸すら、まともにできなくなっていた。

 ──誰か、頼むから陶也を止めてくれ!!

「そして、階下に降りると、そこにはマシュー達が酒を飲みながら、ドラッグに耽っていた。母親は、そいつらの前にリサを転がし、奴らに暴行させた。イザヤは助けようと、ずっともがいていたね。でも、母親に何かで殴られ気を失った。その間にリサは──」

 ──やめろ、やめろ、やめろ!!

 ──俺にそれを聞かせるな!!!

 陶也の声に合わせて、奴が奈落の底から地上を越えて、更に延び上がっていく。

 余りの恐ろしさにイザヤは半狂乱になって、陶也に掴みかかった。

「もう、やめろおおおおお━━━━!」

 ──奴が、奴が、立ち上がる!!

 こいつが甦ったら……?

 自分の全てが破壊される予感にイザヤは震えた。

「しっかり聞いて、イザヤ!!これが彼らの望む事なんだ!」

 ━━嘘だ!

 ━━そんなの嘘だ!

 ━━あいつらが、これを望んでいるって?

 ━━それでは、

 あいつらは……。




 ━━本当は俺を恨んでいると言うことか?




 守りきれなかった俺を━━。




 そう思った瞬間、

 死んだはずの半身が、遂に蘇った。

 立ち上がったそいつは、

 天をつくように大きく、

 とても制御できる代物ではなかった。

 激しく恐ろしいものだった。

「嫌だ!嫌だ!!来るな!」

 そいつが、自分を潰してしまう予感に、イザヤは恐れ戦き、頭を抱えた。



 ━━早く!早く、こいつをまた殺して、地の底に埋めなくては!!!



 イザヤは目を閉じ、耳も塞いで全ての感覚をシャットダウンさせようとした。

 だが、陶也がそれを許さなかった。イザヤの肩を掴んで激しく揺さぶる。

「イザヤ!!大丈夫だから!!そいつに息を吹き込むんだ!そいつは生きているんだ!だから、甦らせなくちゃいけないんだ!!それは、イザヤ自身なんだから!!」

「無理だ!嫌だ!!ーー触るな!!お前は金輪際、俺に触るな!!!あっちへ行け!!!」

 イザヤは陶也の手を振り払い、怒号した。

 その瞬間、陶也もイザヤに怒鳴り付けた。


「「「このっ弱虫!!!!

そんな弱虫なんて、

──僕は、

大っっ嫌いだ━━━━!!!!!!」」」


 陶也の叫びと共に、バリっ!と、イザヤの中で、何かが弾けた。

 ──奴の表面の皮膚がバリバリと割れ始め、ボロボロと剥がれ落ちる。

 ──そして、中から出てきたのは!

 イザヤの目から溢れんばかりの涙が零れた。

「うわああああああああ━━━━!!!!!」

 今までずっと正視するのを避けてきた、悲しみの瞬間が、走馬灯のように一気にイザヤに襲いかかった。

「ああああああああ━━━━!!!!!」

 その圧倒的な量に、とてもじゃないけど、耐えられる気がしなかった。

 ──ダグラス、マイク、ヨシュア、リサ。

 彼らの泣き顔と声が、入れ替わり立ち替わり、イザヤの脳裏を駆け巡った。

 そして、自分の泣き声も、それに重なっていた。

 ──ごめん……。ごめんよ……。みんな。

 ──兄ちゃんは、そんなに強くない。

 ──本当はとても弱いんだ。だから、お前達を守ってやれなかった。

 ──本当に、ごめん。

「あああああああああ━━━━!!!!」

 イザヤは20年分の悲しみを、ようやく吐き出した。

 そして、泣き崩れるイザヤを陶也がしっかりと抱き留めた。

「大丈夫、大丈夫だよ!イザヤ!!それでいいんだ!それでいいんだよ!!いっぱい、いっぱい悲しんでいいんだ!泣いていいんだ!弱くてもいいんだ!どんなイザヤでも、僕が、ずっと側に居るから、ずっと僕が支えていくから、もう怖がらなくて大丈夫だよ!弱さを、もうそんなに恐れなくて大丈夫なんだ!!──彼らの、伝えたかった事が解る?彼らはイザヤを救いたかったんだ!悲しみを底に沈めたままのイザヤを救うために、それをイザヤに伝えたかったんだ!!だから、もう一人で頑張らなくていいんだ!もう我を張って、一人で戦わなくていいんだよ!!」

 イザヤは陶也にすがって泣いた。
 陶也はイザヤの髪を撫で、力の限りイザヤを抱いた。

「やっと……、やっと会えたね。僕はずっと悲しむイザヤに会いたかったんだ。……弱虫のイザヤを、ずっと抱き締めたいと思ってたんだ。……だから、キミに会えて、僕は本当に嬉しいよ」

 そうやって、陶也に抱き締められていると、制御できないと思っていたでかい奴は、陽炎のように、薄れていき、そこに蹲っていたのは、まだ幼い、弱々しい姿で泣いている自分自身の姿だった。

 そして、その周りを、同じく幼い兄弟達が走り寄って囲み、優しくイザヤを包み込んでくれた。
 
 兄弟達も、イザヤも、みんな同じ顔をして、一緒に泣いていた。
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