Broken Arrows

蓮華空

文字の大きさ
47 / 107
分からないことだらけ

46

しおりを挟む
「何で……てめえが……俺に命令してんだ……」

 ジョージは痛みに耐えながら、まだそんな事を言っていた。ならば──と、骨が折れる寸前まで絞め上げてやる。

 メキメキと骨の軋む音がしてくると、流石にジョージも耐えきれなくなって、「わかった!教えるから、早く離せ!」と絞められていないもう片方の手で必死にタップした。

「ならば言え!シャノンの家は何処だ?!」

「オールド・タウンの……バンカーにある、カトリック教会の丘を上がった先に……大きな一軒家がある……シャノンの家はそこだ」

 雷亜はジョージの腕をほどいた。
 直ぐに立ち上がって廊下を飛び出す。
 背後で「何処に行くんだ!戻れ!!」と叫ぶ先生の声が聞こえたが、そんなのに構っている場合ではなかった。

 外に飛び出し、駐輪場から自転車を引き摺り出して、雷亜は速攻オールド・タウンに向かった。

 風のように自転車を走らせながら、雷亜の頭の中では様々な奥測が駆け巡った。


 ──もしも……、

 もしも、シャノンまで父のように居なくなってしまったら……。


 橋桁の上に残った、シャノンの表情を思い出すと、敗北を期した父の表情とどうしても重なる。
 
 あの瞬間、雷亜はきっとシャノンに何からの絶望を与えてしまったんだ。

 雷亜の意図がなくとも、他人の受け取り方なんて、どうなるか分からない。

 父にしたって、雷亜が強くなることが父の望みだったはずだ。

 その思いに間違いはなかったはずだ。でなければ、最後の最後に、あんな心から安堵した表情で、雷亜を誉めてくれるはずない──!

 それだって確かな事だった。

 けど、あれだけ『勝ち』に拘った父の生き様からしたら、敗北は終わりを意味したに違いない。

 自分にはもう、生きている価値がない──、そんな風に思ってしまったのかもしれない。

 その二つの心が父を苛んだ──。

 いずれにしろ、父が死んだ切っ掛けは、雷亜が作ってしまったのだ。

 その想いがどうしても消えない。

 瞳から涙の雫が次々と生まれては後方に吹き飛んだ。


「父さんの馬鹿ぁ━━!!馬鹿、馬鹿、馬鹿ぁ━━━━━!!」


 ──死んだらそれこそ負けなんだ。


 だから、負けないで欲しかった。


 嫌だ、嫌だ、嫌だ!!


 みんな、みんな……


 お願いだからっ!


 負けないでっ━━━━!!!!





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

処理中です...