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あの日のように……
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依然、バスタブの中から動けないままかなりの時間が過ぎた。
うっかり居眠りをしてしまった雷亜は、浴室の窓に目をやった。
驚いた事に外は闇に包まれ、すっかり夜も更けていた。
シャノンが上から覆い被さっているにしても少し肌寒く感じる。
あの時──。僅かな間だけ、雷亜と目が合い、意思の疎通が出来たかに見えたシャノンだったが、バスタブから抜け出せないまま、雷亜の上にのし掛かり、なんとそのまま寝てしまったのだ。
それが床であったなら、脇にずらして逃れられるが、バスタブの中ではどうしたって、抜け出せない。もがいた末に雷亜も諦めて寝てしまったのだ。
雷亜はふと思った。
この状況は中学の時に読んだホラーアンソロジーとかなり似通っていた。
あれは確か、旦那の留守中、浮気相手と一緒に風呂の中で楽しんでいたところ、腹上死されて、今の雷亜と同じ体勢で身動きができなくなり、旦那が出張先から帰ってくるまでの数日間、どうやってそこから抜け出せるか?という、ハラハラドキドキの物語だった。
その話のクライマックスは、遂に旦那が帰ってくるという日の朝、女は発狂。精神も追い詰められて、最終的には死んだ浮気相手の首に食らいつき、バラバラにして逃れた、という壮絶な落ちだった。
雷亜は身震いした。
( ──ちょっと待て……。
このままシャノンが起きずにODで命を落としたら、俺はその女と同じ行為をしなくてはここから抜け出せないのか?!
──そんな真似、出来るか!!)
雷亜は慌てて虫のように、うごうごと動いてみたが、今やライトヘビー級に成長したシャノンを動かすことは出来なかった。泣きそうな思いでシャノンにしがみつき、救いを求める。
「頼む!シャノン、起きてくれ──!!」
あの話の恐怖をガチで味わう羽目になるとは思いもよらず、雷亜はパニックになった。今ならあの女の気持ちを誰よりも理解出来る。
「もう、いい加減に頼むよぉー!」
半泣き状態で背中を叩いたのが効いたのか、シャノンの身体がピクリと動いた。
「……──っだよ!耳元でうるせぇなあ……」
「シャノン!!気が付いた!!」
弾む雷亜とは対称的に、シャノンはローテンションで身を起こした。まだ頭が茫然としているのか、ぴんぴんとアホ毛を跳ね散らかして、雷亜の腰に座り、眠そうな目でこちらを見ている。
「良かった……シャノン。気分は悪くない?大丈夫?」
涙目で訊ねると、シャノンは眉間に皺を寄せ、不審そうに雷亜を睨み付けてきた。
「……お前……なんでこんな所に居るんだ?」
雷亜の顔が一瞬、白んだ。
(……ひょっとして、まるで覚えていない?)
「いや……、だから……。シャノンが学校に来ていなかったから……心配して、見に──。そしたら……、シャノンが抱きついてきて、バスタブに落ちて……」
まごつく雷亜の説明にシャノンは紫色の瞳を薄く細めた。
「は?──なんだそれ?意味が分からねえ?」
(いや、それ、俺の台詞……)
眠る前の弱々しい態度とは打って代わり、今のシャノンは壮絶な追いかけっこをした意地の悪そうなシャノンに戻っていた。
雷亜にすがりついてきたあの面影は何処へやら、この変貌こそ雷亜には意味が分からない。
「そんな事よりてめえ!俺の写真をどうした?!!」
シャノンは胸ぐらを掴んで勢いよく立ち上がった。
雷亜は宙に浮いたまま為す術もない。
「ええー?!この期に及んでまだそれ?!そんなのどうだっていいじゃん!!」
「よくねえ!あんな写真を撮られて、まだお前がそれを持ってるのかと思うと、こっちは夜も眠れねえ!!」
雷亜はぽかんと口を開けた。
あれだけ眠っておいてよく言う……。
うっかり居眠りをしてしまった雷亜は、浴室の窓に目をやった。
驚いた事に外は闇に包まれ、すっかり夜も更けていた。
シャノンが上から覆い被さっているにしても少し肌寒く感じる。
あの時──。僅かな間だけ、雷亜と目が合い、意思の疎通が出来たかに見えたシャノンだったが、バスタブから抜け出せないまま、雷亜の上にのし掛かり、なんとそのまま寝てしまったのだ。
それが床であったなら、脇にずらして逃れられるが、バスタブの中ではどうしたって、抜け出せない。もがいた末に雷亜も諦めて寝てしまったのだ。
雷亜はふと思った。
この状況は中学の時に読んだホラーアンソロジーとかなり似通っていた。
あれは確か、旦那の留守中、浮気相手と一緒に風呂の中で楽しんでいたところ、腹上死されて、今の雷亜と同じ体勢で身動きができなくなり、旦那が出張先から帰ってくるまでの数日間、どうやってそこから抜け出せるか?という、ハラハラドキドキの物語だった。
その話のクライマックスは、遂に旦那が帰ってくるという日の朝、女は発狂。精神も追い詰められて、最終的には死んだ浮気相手の首に食らいつき、バラバラにして逃れた、という壮絶な落ちだった。
雷亜は身震いした。
( ──ちょっと待て……。
このままシャノンが起きずにODで命を落としたら、俺はその女と同じ行為をしなくてはここから抜け出せないのか?!
──そんな真似、出来るか!!)
雷亜は慌てて虫のように、うごうごと動いてみたが、今やライトヘビー級に成長したシャノンを動かすことは出来なかった。泣きそうな思いでシャノンにしがみつき、救いを求める。
「頼む!シャノン、起きてくれ──!!」
あの話の恐怖をガチで味わう羽目になるとは思いもよらず、雷亜はパニックになった。今ならあの女の気持ちを誰よりも理解出来る。
「もう、いい加減に頼むよぉー!」
半泣き状態で背中を叩いたのが効いたのか、シャノンの身体がピクリと動いた。
「……──っだよ!耳元でうるせぇなあ……」
「シャノン!!気が付いた!!」
弾む雷亜とは対称的に、シャノンはローテンションで身を起こした。まだ頭が茫然としているのか、ぴんぴんとアホ毛を跳ね散らかして、雷亜の腰に座り、眠そうな目でこちらを見ている。
「良かった……シャノン。気分は悪くない?大丈夫?」
涙目で訊ねると、シャノンは眉間に皺を寄せ、不審そうに雷亜を睨み付けてきた。
「……お前……なんでこんな所に居るんだ?」
雷亜の顔が一瞬、白んだ。
(……ひょっとして、まるで覚えていない?)
「いや……、だから……。シャノンが学校に来ていなかったから……心配して、見に──。そしたら……、シャノンが抱きついてきて、バスタブに落ちて……」
まごつく雷亜の説明にシャノンは紫色の瞳を薄く細めた。
「は?──なんだそれ?意味が分からねえ?」
(いや、それ、俺の台詞……)
眠る前の弱々しい態度とは打って代わり、今のシャノンは壮絶な追いかけっこをした意地の悪そうなシャノンに戻っていた。
雷亜にすがりついてきたあの面影は何処へやら、この変貌こそ雷亜には意味が分からない。
「そんな事よりてめえ!俺の写真をどうした?!!」
シャノンは胸ぐらを掴んで勢いよく立ち上がった。
雷亜は宙に浮いたまま為す術もない。
「ええー?!この期に及んでまだそれ?!そんなのどうだっていいじゃん!!」
「よくねえ!あんな写真を撮られて、まだお前がそれを持ってるのかと思うと、こっちは夜も眠れねえ!!」
雷亜はぽかんと口を開けた。
あれだけ眠っておいてよく言う……。
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