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方舟
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「ああ、うん。居ない」
「誰も?」
今度は何も言わずに頷いた。
シャノンの溜め息がまた聞こえた。そして、驚いた様子で雷亜の顔を覗き込んでくる。
息を呑む程に美しい紫色の瞳が雷亜の醜い顔を映した。
雷亜は堪らず目を反らし、瞼を閉じた。
「ほ、本当にもう誰も居ないんだ……。父は2カ月前に焼身自殺したし、母は6年前に君と出会った日の前日に亡くなった。
友達も……俺の父は引っ越し魔だったから、誰かと親しくなる前に次の場所に移動してしまって、……友達と呼べる奴なんか出来た試しがない。
だから……6年前、君と過ごせた1週間が俺にとって、凄く大きな出来事だったんだ。君は、俺の……唯一の……友達のような気がしていたから……
……すごく、勝手だけど……」
急激に胸の奥から絞り出された感情に、自分でも何を言っているのか分からなかった。
こんな事、言うつもりなんてなかったのに、今日でシャノンとの繋がりも終わりかと思うと、感情のコントロールがきかない。
雷亜は拳をきつく握った。
膝の上に置いていた拳に、水がポタポタと垂れた。それが自分の目から零れている涙だと気付いたのは、二、三秒経ってからだった。
気付いた途端、泣いている自分が情けなくて堪らなくなった。
口から溢れる言葉もみっともないから止めたかったけど、止まらなかった。
「……ごめん……ね……。俺なんかと、再会しなければ、君は余計な心配をしなくて済んだのに……本当に、ごめん。
6年前の事にしたって、自分の寂しさを……埋め合わすために、君を無理矢理連れ回してしまったんだ……。
あんな1週間を過ごすなんて、君にとったら……迷惑だったよね……」
気付いたら土下座の形でその場に蹲って泣いた。只でさえ汚い顔が、涙で汚れている。これでは見る方もさぞかし嫌だろう。
シャノンの前では泣きたくないのに、雷亜は嗚咽を止めることが出来なかった。だから、雷亜はひたすら謝った。
「ごめんね、ごめん……本当に、ごめん」
「お、おい!ちょっと待て!何でお前がそこまで謝る必要がある?謝るなよ!お前は何も悪くないだろう!いいから顔を上げろ!」
シャノンが慌てた様子で肩を掴んでは「お前は悪くないと言って」揺さぶった。
こんな時こそ、「気持ち悪い」と罵って去ってくれればいいのに、何故だがそう願うときに限って、思うように人は動かない。
「いいから、このまま帰って!今の俺はとても変だから、放っておいてよ!後は自分で何とかするから……大丈夫……俺は、いつも一人で何とかしてきたから……大丈夫……」
──大丈夫……大丈夫。と、自分に言い聞かせるように、何度も心の奥で唱えた。
「……大丈夫、……大丈夫……俺は大丈夫……」
大丈夫なのに……大丈夫なはずなのに……
声も身体も小刻みに震えて収まらない。今にも爆発しそうな激しい感情が喉元まで込み上がってきて、何とかそれを飲み込んだ。
「バカ野郎!──お前のどこが大丈夫だ!全然大丈夫じゃねえだろう!!強がってんじゃねえぞ!!」
シャノンの叱咤で、雷亜も起き上がり、シャノンに負けじと怒鳴った。
「うるさいっ──!!大丈夫ったら、大丈夫なんだよ!──俺の事なんかあんたは何とも思ってないんだろ!だったらもう放って行けよ!写真も消したし、俺なんかにもう用はないだろ!それでも気に食わないってか!!──だったら俺自身も目の前から消えてやろうか!その方があんたは嬉しいだろ!
──なあ?!
どうせみんなそう思ってんだ!そうだ!そうなんだ!──初めから俺なんか産まれなければ、父さんや母さんも死なずに済んだ!
なまじ俺なんかが産まれてきたばっかりに、母さんは苦しんで死んだ。……父さんだって……俺に負けなければ、父さんだって、今は生きていたかもしれない!
全ては俺の存在がいけないんだ!」
叫んだ途端、自分が本当に大罪人のような気がして、全身の力が抜けていく。
「──そうだ……。……俺が……居なければ……
きっとみんな……幸せに……生きていけるんだ」
声を震わせ次第に雷亜は丸く小さくなっていった。
だが、その時。シャノンの腕が伸びてきて、瞬く間に頭を強く掴まれ、気が付けば厚い胸にすっぽり押し当てられていた。
──とくん
と、自分のものとも、シャノンのものともつかない鼓動が聞こえた。
そして、頭をぐしゃぐしゃと強く撫でられ、きつく抱き締められた。
「──お前……そんな風に思いながら生きてきたのか?ずっと一人で頑張って来たのか?」
そう問われて、こくりと頷く。
「だって……俺には、俺しか居ないから……」
自分の声が涙で鼻にかかり、くぐもって変だと思った。
「誰も?」
今度は何も言わずに頷いた。
シャノンの溜め息がまた聞こえた。そして、驚いた様子で雷亜の顔を覗き込んでくる。
息を呑む程に美しい紫色の瞳が雷亜の醜い顔を映した。
雷亜は堪らず目を反らし、瞼を閉じた。
「ほ、本当にもう誰も居ないんだ……。父は2カ月前に焼身自殺したし、母は6年前に君と出会った日の前日に亡くなった。
友達も……俺の父は引っ越し魔だったから、誰かと親しくなる前に次の場所に移動してしまって、……友達と呼べる奴なんか出来た試しがない。
だから……6年前、君と過ごせた1週間が俺にとって、凄く大きな出来事だったんだ。君は、俺の……唯一の……友達のような気がしていたから……
……すごく、勝手だけど……」
急激に胸の奥から絞り出された感情に、自分でも何を言っているのか分からなかった。
こんな事、言うつもりなんてなかったのに、今日でシャノンとの繋がりも終わりかと思うと、感情のコントロールがきかない。
雷亜は拳をきつく握った。
膝の上に置いていた拳に、水がポタポタと垂れた。それが自分の目から零れている涙だと気付いたのは、二、三秒経ってからだった。
気付いた途端、泣いている自分が情けなくて堪らなくなった。
口から溢れる言葉もみっともないから止めたかったけど、止まらなかった。
「……ごめん……ね……。俺なんかと、再会しなければ、君は余計な心配をしなくて済んだのに……本当に、ごめん。
6年前の事にしたって、自分の寂しさを……埋め合わすために、君を無理矢理連れ回してしまったんだ……。
あんな1週間を過ごすなんて、君にとったら……迷惑だったよね……」
気付いたら土下座の形でその場に蹲って泣いた。只でさえ汚い顔が、涙で汚れている。これでは見る方もさぞかし嫌だろう。
シャノンの前では泣きたくないのに、雷亜は嗚咽を止めることが出来なかった。だから、雷亜はひたすら謝った。
「ごめんね、ごめん……本当に、ごめん」
「お、おい!ちょっと待て!何でお前がそこまで謝る必要がある?謝るなよ!お前は何も悪くないだろう!いいから顔を上げろ!」
シャノンが慌てた様子で肩を掴んでは「お前は悪くないと言って」揺さぶった。
こんな時こそ、「気持ち悪い」と罵って去ってくれればいいのに、何故だがそう願うときに限って、思うように人は動かない。
「いいから、このまま帰って!今の俺はとても変だから、放っておいてよ!後は自分で何とかするから……大丈夫……俺は、いつも一人で何とかしてきたから……大丈夫……」
──大丈夫……大丈夫。と、自分に言い聞かせるように、何度も心の奥で唱えた。
「……大丈夫、……大丈夫……俺は大丈夫……」
大丈夫なのに……大丈夫なはずなのに……
声も身体も小刻みに震えて収まらない。今にも爆発しそうな激しい感情が喉元まで込み上がってきて、何とかそれを飲み込んだ。
「バカ野郎!──お前のどこが大丈夫だ!全然大丈夫じゃねえだろう!!強がってんじゃねえぞ!!」
シャノンの叱咤で、雷亜も起き上がり、シャノンに負けじと怒鳴った。
「うるさいっ──!!大丈夫ったら、大丈夫なんだよ!──俺の事なんかあんたは何とも思ってないんだろ!だったらもう放って行けよ!写真も消したし、俺なんかにもう用はないだろ!それでも気に食わないってか!!──だったら俺自身も目の前から消えてやろうか!その方があんたは嬉しいだろ!
──なあ?!
どうせみんなそう思ってんだ!そうだ!そうなんだ!──初めから俺なんか産まれなければ、父さんや母さんも死なずに済んだ!
なまじ俺なんかが産まれてきたばっかりに、母さんは苦しんで死んだ。……父さんだって……俺に負けなければ、父さんだって、今は生きていたかもしれない!
全ては俺の存在がいけないんだ!」
叫んだ途端、自分が本当に大罪人のような気がして、全身の力が抜けていく。
「──そうだ……。……俺が……居なければ……
きっとみんな……幸せに……生きていけるんだ」
声を震わせ次第に雷亜は丸く小さくなっていった。
だが、その時。シャノンの腕が伸びてきて、瞬く間に頭を強く掴まれ、気が付けば厚い胸にすっぽり押し当てられていた。
──とくん
と、自分のものとも、シャノンのものともつかない鼓動が聞こえた。
そして、頭をぐしゃぐしゃと強く撫でられ、きつく抱き締められた。
「──お前……そんな風に思いながら生きてきたのか?ずっと一人で頑張って来たのか?」
そう問われて、こくりと頷く。
「だって……俺には、俺しか居ないから……」
自分の声が涙で鼻にかかり、くぐもって変だと思った。
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