Broken Arrows

蓮華空

文字の大きさ
99 / 107
達也の執着

98

しおりを挟む
「お前が飲むなー!馬鹿ー!」

 ジョージの叫ぶ声に気を取られ、この時、達也がニヤリと不敵に笑ったのを、気付い者は誰もいない。

「ジョージさぁ~んvvこれ、やっぱあれですよ!催淫剤ですよぉ~。身体が熱くて、むずむずしますぅ~!助けて下さぁ~い」

 そう言って後輩はジョージに抱き付こうとしたが、ジョージはその手を軽くかわし、もう一人の後輩に抱き付かせた。

「よし!こいつはお前が何とかしろ!」

「えー!!嫌ッスよ!!責任取るのはジョージさんでしょ!」

「馬鹿!ここで俺が足を止めてたらこの問題の解決にはならねぇだろ!雷亜を貶める奴らを何とかしなくちゃなんねぇ!」

 後輩二人が引き留める中、ジョージは強引にでも、その場を立ち去ろうとしたが、達也がそれを止めた。

「ジョージは彼らの所に居てあげなよ。雷亜の事なら俺が何とかする。さっきのドリンクを渡されたの、俺だしね。奴らの顔も覚えているし、そいつらから何とか雷亜を遠ざけて、一緒に帰るから、任せておいてよ」

「おお!そうか、確かにその方がいいよな。じゃあ、後は任せた」

 達也は軽く手を上げて応じた。

「ああ、後さ、一応シャノンにも連絡してやってくれよ」

「なんで?」

「あいつも心配してたからさ、出来ればシャノンと合流した方がいいんじゃねえ?」

「あ、うん。わかった。そうする」

 そう答えつつ、達也は向きを返ると、軽く舌打ちをした。

『……誰がシャノンになんぞ教えるか!』

 計画通りにいかない苛立ちを抑えながら、達也はステージの裏へと待機した。
 
 待機している間、達也の腹腔では、イライラが募っていた。

 ──シャノンが雷亜を心配していたって? 何だってシャノンはそんなに雷亜の事が気になるんだ?

 幼い頃に雷亜に助けられたってことが、そんなにシャノンの中で大きな事になっているのか? あんな襤褸切れみたいな奴、雑巾のようにぐちゃぐちゃに汚して捨ててしまえばいいのに……。シャノンさえ生き残れば、雷亜なんかその後、どうなったって構わないだろう。それなのに、ジョージにしたってあんな奴のために何をそんなに必死に動き回ってやっているんだ?

 達也は持っていたドリンクを押し潰しそうになって、それを押し留めた。

 そんなことよりも、達也の計画がどこからか漏れている。やはり、品のない底辺学校に頼んだのが良くなかったか……?

 そんな事を考えていると、向かい側から機嫌の悪そうなシャノンが通行人の間をすり抜け、こちらにやって来た。眼光は鋭く達也を射抜いている。

 達也は恐れ抱き、退いた。

 シャノンの様子がいつもとは違う。周囲には目もくれず、一点だけを睨み付け異様なオーラを放っている。

 ──これはまずい……。もしかしてバレたか?

 達也は踵を返して逃げ出した。一先ず人並みに紛れようと、ダンスホールへと駆け込む。チビの達也なら身を低くして人並みに紛れればきっと見失う筈だ。しかし、シャノンは器用に人並みを掻き分け達也との距離を縮める。

 ──マジかよ!どんどんと近づいてる……!!

 達也に焦りが出る。こうなると周りの奴がかえって邪魔だ。前方にトム・サラヤンの禿頭が見えてきた。一先ず奴のところまで行って、奴をシャノンにけしかける事が出来たら……。

 達也はスピードを上げ、トム・サラヤンの元に着くと、彼の腕を掴んだ。

 トム・サラヤンの濁った目が達也を見る。

「何だ、お前は?」

 シャノンとは違った異様な雰囲気に、達也は息を飲む。こいつは本当に高校生か?図体もそうだが、不健康そうな皮膚の弛みや目の濁りは異常だ。これは既にかなりの麻薬中毒者なんじゃないのか?

「あ、あんたの楽しみを阻害しようとしている奴がこっちに来る」

「どこにだ?」

 低く皺がわれた声が達也の耳に響いた。

「あっち。あのプラチナブロンドの奴」

 指を指すと、トム・サラヤンは目を細めてシャノンを見つめた。

「シャノン・ホワイトか……。丁度いい。あいつの生っ白い顔が昔から気に入らなかったんだ」

 トム・サラヤンは達也にも目もくれず、シャノンの方へと向かった。

「おい、トム。マジかよ!シャノンは止めとけ!あいつに怪我なんかさせたら、俺達に市民権はないぞ!」

 トム・サラヤンの取り巻きの一人が待ったをかけた。

「関係ねぇーよ。邪魔する奴は誰だろうと許せねぇ」

 トム・サラヤンはシャノンの前に立ちはだかった。

 スキンヘッドの長身とプラチナブロンドの美丈夫が火花を散らす。

「どけっ!!」

 シャノンの怒号が辺りに響き渡った。

「ふん!退くのはてめえだ!!」

 トム・サラヤンの拳が空を切る。だが、シャノンは寸前で軽くかわし、勢い余ったトム・サラヤンが、近くに居た関係ない男を張り倒した。すると、側にいた女がキャー!と悲鳴を上げる。騒ぎの隙に、シャノンは達也の後を追う。

「待てこら!!無視すんな!!」

 トム・サラヤンの巨体が慌ててシャノンを追う。








しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

処理中です...