悪魔が囁く三日月の夜

桜乃

文字の大きさ
上 下
7 / 10

7

しおりを挟む
 メイドに淹れてもらった紅茶をコクンと飲むと身体中に温かさが広がり、徐々に緊張が解けていく。王太子殿下にお菓子を勧めれ、口にすると甘く、優しい味がする。

「マリア嬢……大丈夫ですか?」

 心配そうに王太子殿下に聞かれ、私は殿下に笑顔をむけた。

「大丈夫です。ご心配をおかけしてすみません。国王様に生意気を言ってしまった事に緊張いたしまして……王弟殿下も、きっとどなたかのワインと間違えたのかもしれません……なのに……それを得体の知れないなどと……」

 私は視線を下に向け、先程の出来事を思い出し、少し憂鬱な気分になっていた。
 
 なぜ、ヴォルク王弟殿下は私のワインと言ったのかしら? なぜ、睨まれたのかしら? まさか……本当に毒が? そんな恐ろしいことあるわけないわ……いくら夢に酷似してるからって考えすぎよ……

 王太子殿下は黙りこくってしまった私が不安になっていると心配してくれたのか、両手を握り、澄んだ碧い瞳で私の顔を覗き込む。

「今日の事は大丈夫です。決して悪いようにはなりません。安心してください」

 王太子殿下がにっこりと微笑む。
 殿下の笑顔を見て、私は安心するのと同時に、手を握られている状況にドキドキしてしまい、鼓動が聞こえてしまうのではないかと恥ずかしくなる。

「殿下、慰めていただき、ありがとうございました」

 感謝を伝え、握られている手を離そうとすると、殿下は更に力を入れ、私の手を離そうとしない。

「本日、お誘いしたのは大事な話があったからで……父上も賛成していることなのですが……」

 殿下は一呼吸おき、真っ直ぐ私を見つめ、私はその真剣な殿下の眼差しから目をそらす事はできなかった。

 

「マリア・ハリエット嬢。私の妃になってくれませんか?」


しおりを挟む

処理中です...