《改稿版》婚約者が記憶喪失になりました……思わず嘘をついてしまったが、あれは仕方なかったということで(←言い訳です)

桜乃

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「ごめんなさい」

 マリエッタも我に返ったのか顔を紅潮させ、縮こまった。

「可愛くない自分に嫌気が差して…………せめて、素直で可愛い女の子になれる魔法を試してみようと思ったんだけど、術式間違えて暴発しちゃったの……」

「契約解除だったんじゃ……」

 あー、暴発した魔法の痕跡をちゃんと辿ればよかった。僕の失態だ。

「解除?」

 マリエッタは僕の言葉を聞いて、きょとんとする。

「いや、なんでもない。で?」

「暴発の衝撃で気を失って、目覚めた瞬間、このまま記憶が無くなれば、素直でかわいい女の子になれるかな……って……ごめんなさい」

「うん……わかった。君の家族も心配してたんだから、ちゃんと謝るんだよ」

「……うん」

 マリエッタは小さくコクリと頷く。

「婚姻契約書が机の上にあったのは?」

 そもそもあの書類がなければ、僕もここまで勘違いしなかったんだが。

「あ、あれは。金庫を整理してて、片付け忘れたの。書類がなにか?」

 片付け忘れただけ!? 僕は、あんなに悲壮感に押し潰されそうになったのに!?

 小さく溜息をつきながら、気持ちを切り替える為に一回コホンと咳払いをした。

 勝手に勘違いしたのは僕だし……マリエッタのせいじゃない。マリエッタは、片付け忘れただけ。そっかぁ……片付け忘れただけだったかぁ……

「あー、まぁ、うん。深い意味がなかったんなら、ま、うん……いいよ……で、マリエッタ……その……僕も謝るよ。記憶喪失のマリエッタに嘘をついた」

 今度は僕が頭を下げると、マリエッタは耳まで赤くし、視線を宙に泳がせる。

「あ……えっと……フレディーはなんであんな嘘をついたの……?」

「えっ……そりゃあ……まぁ、その、マリエッタと仲直りしたかったし……僕は……その」

「うん」

 マリエッタは僕をじっと見つめた。その透き通った翠玉色エメラルドの瞳に僕はソワソワしてしまい、思っていることを口にする。

「だからさっ! その……素直なマリエッタも可愛かったけど、生意気なマリエッタも好きって事なわけ! 僕もさ、生意気な女なんてごめんだ……なんて言っちゃったけど、僕が結婚するのはマリエッタしかいないわけで! 僕が強くなろうと思ったのは、マリエッタを守りたかったからだし!」

 なんか僕の頬は火照ほてってくるわ、マリエッタは下を向いちゃうわ、周りからはヒューヒュー冷やかしが飛んでくるわ……もしかして、僕は告白のタイミングを間違えたのかもしれない。

 やってしまったと僕が頭を抱えていると、マリエッタは今まで以上に声を出し、泣き始めた。僕はオロオロしてしまう。

「な、なに……マリエッタ……まだなんかある?」

「嬉しくて……あの……素直になるよう頑張るから……」

「う、うん。でもさ、素直でも素直じゃなくても……僕はマリエッタが好きだから」

「あ、う、うん……私も……その……フレディーが好き……」

 2人でモジモジと気持ちを伝え合い、真っ赤になった僕たちは、照れすぎてお互いの顔が見られない。

 とりあえず決着がついたが、ふと気がつくと、穴があったら入りたいくらいの注目を周りから浴びていた。

 恥ずかしさのあまり、この場所に居づらくなった僕はマリエッタに声を掛ける。

「そろそろ……」

「いやはや、良かった、良かった!」

 は?

 隣の髭の紳士が立ち上がり、拍手をする。それにつられ、周りの客達からも拍手喝采が起こり、僕は店を出るに出られなくなってしまった……

 何だこの状況? おいっ! そこ! 店員まで拍手するなっ!

「丸く収まって安心したよ」

 髭の紳士はニッと笑い、眼鏡を外した。彼は小声で呪文を唱えると一瞬消え、代わりに現れた人物を僕たち2人は、穴が空くんじゃないかと心配になるくらい見つめる。

 その現れた人物に、僕もマリエッタも見覚えがあった……というか、ありすぎた。

「お父様!?」

「アデスト伯爵!?」

 そう……紳士はマリエッタの父上であるアデスト伯爵。

 はぁぁぁ!? 何やってるんですか!!

「な、なんで? なんでお父様が!」

「君達のデートが心配でな」

 よいしょとマリエッタの隣に座り、肘をついてニコニコと僕に笑い掛ける。

「伯爵……それにしても変化魔法なんて……」

「上手かっただろ?」

「まぁ、上手かったですけど……」

 変化魔法は、最上級の難関魔法である。さすが魔法師名門の当主である……が、こんなくだらないことに使わないで欲しい……

「マリエッタが記憶のない振りをしているのは、家の者は気付いてたよ」

 え……僕だけ騙された?

「お父様……えっと……ごめんなさい」

「それに関しては、後でしっかりお説教するけどね。マリエッタがフレディー君の事が大好きなのは、子供の頃から知っていたからね」

 意味ありげな目で僕を見ると、伯爵はニヤリと笑う。

「君と遊んだ日は大変さ。今日はフレディーがね、フレディーがねって、ずっと君の事を話してた」

「お、お父様……やめて……」

 恥ずかしそうに頬を赤らめるマリエッタが、消え入りそうな声で伯爵を止めた。

 えっ……そうだったの?

「まぁ、意地っ張りは誰に似たのか……素直になれない娘だけど、フレディー君、これからも娘をよろしく」

「は、はい」

「泣かせるのは今日が最後だからね」

 伯爵は笑顔のまま、目だけが僕を睨みつける。

 マリエッタが泣いたのは、僕のせい……ですか!?


 次の日。

『白昼堂々世紀の熱烈大告白! お二人に幸あれ!』

 新聞の娯楽記事欄の見出しが町を賑わせた。あの場に新聞記者がいたらしい。

 運悪く……いや、運良くと言うべきか、あの日は大きな事件も起こらず、平和な一日だったこともあり、町民は僕らの話題で持ちきりだった。

 
 あーあ。

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