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番外編 エルさんと森のお散歩
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しおりを挟む「クマッ♪ クマッ♪ クマ、クマー♪」
皆さま、こんにちは。
毎度おなじみミュリア・メリッジ公爵令嬢、専属侍女兼護衛のエル・ハリソンでございます。
本日、皆さまとお会いできたこと嬉しく思います。
せっかくいらしてくださったので、美味しいダージリンティーでもお淹れして、おもてなしをさせていただきたかったのですが……申し訳ございません。ただ今、少々のんびりお茶会を開く状況ではなくて……
「クマッ♪ クマッ♪ クマ、クマー♪」
今はお昼くらいでしょうか。わたくしは、王都から馬車で半日ほどのバテンヌの町……の外れにある森の中をなぜか歩いておりますの。
「クマッ♪ クマッ♪ クマ、クマー♪」
わたくし、こう見えても由緒正しきメリッジ公爵家の上級侍女であり、このような鬱蒼とした森をお散歩する身分ではないはず……いえ、もっとありえない身分の方がわたくしの目の前をスキップしておりますが。
「クマッ♪ クマッ♪ クマ、クマー♪」
さて、皆さま。
とっくにお気づきでしょうが、この先ほどからリズムに乗って「クマクマ」聞こえてきます歌声は、我が主ミュリア様でございます。
え? 何をご機嫌に歌を歌っているのか……ですか?
よくぞ聞いてくださいました。ミュリア様は年頃のご令嬢らしく、(たぶん)恋人のセルビオ殿下とのデートを楽しみになさっているのです。
……と、専属侍女としては胸を張りたいところなのですが、ミュリア様の心を掴んで離さないのは、恋人ではなくて……クマ。
そう、クマ……大型の獣、クマ! ですわっ。
ただ今のミュリア様のお心を代弁いたしますと……
この国の王太子であるセルビオ殿下より、クマ!
金髪碧眼、眉目秀麗と囁かれているセルビオ殿下より、クマ!
辺境の地まで追いかけてきて、熱烈告白をしてくださったセルビオ殿下より、クマ!
クマ、クマ、クマ、クマッ!
目的地であったバテンヌの町に着いてからというもの、ミュリア様の心はクマ一色。セルビオ殿下の入る隙は1ミリもございません。
ミュリア様を愛人うんぬんの真相はわかりかねますが、ここまでクマに完敗状態ですと、さすがに少し同情いたします。
おいたわしや、セルビオ殿下。
「ミュリア様。あの、お伺いしたいのですが……」
「クマッ♪ ク……ん? なに?」
ミュリア様は振り返り、わたくしにニコリと笑いかけました。
本来なら、こんな危険そうな森で主が先頭を切って歩くというこの状況はおかしいのですが(そもそも、ご令嬢が護衛騎士もつけず森をスキップしていることも、どうかと思いますけど)、皆さま、どうかお察しくださいませ。
「エルはミュリア様がクマと戦うのをお止めしません……というか諦めました」
「えっ? 止めようと思ってたの?」
「いえ、正直言うと、止めるつもりはありませんでした。時間のムダですから」
私の顔を覗き込んだミュリア様が、ニッと笑います。
『さすがエル! よくわかってるじゃない』
ミュリア様の心の声がありありと伝わってきました…………溜息、ですわ。
「あの、差し出がましいことを申し上げますが、殿下の……」
すこぅしだけ不憫な殿下の肩を持って差し上げようかと思いました矢先、離れた茂みから人の気配がいたしました。ミュリア様とわたくしの間に緊張が走ります。
わたくしは、そっと太ももに携えていた短剣を手に取り、素早く茂みに向かって投げましたわ。先手を打ち、くせ者の攻撃を封じる。護衛の基本です。
短剣はまっすぐ飛んでいき、木に刺さったであろうザクリという音と同時に「ヒィッ!」と恐怖に満ちた男の声が聞こえました。
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