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番外編 エルさんと森のお散歩
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しおりを挟む茂みで姿は見えませんが、今の声で場所を特定できましたので、次は確実に心臓を貫く自信があります。わたくしが次の短剣を構えたところで、ミュリア様に止められましたわ。
「エル、落ち着いて。もう! 血の気が多いんだからぁ」
……ですから! クマと戦うことが楽しみすぎて、歌いながらスキップしているミュリア様に言われたくないですってば!
「ミュリア様。こんな森深く……しかも、茂みに隠れて、私たちの様子を窺っていたなんて、賊しかありえませんわ。情けは無用。ミュリア様の御身に何かあったら大変です」
「うんうん。そうよねぇ。私もそう思う。でも、一応話を聞いてみない? 面白そうだし」
「おも……しろ……そう?」
深く何度も頷いたミュリア様は最後に無邪気な笑顔で、ね?とおねだりのポーズをとるものですから、わたくしは致し方なく短剣を下ろしました。
「はぁ……面白そうですか……ミュリア様がそうおっしゃるのなら」
おかしい……貴族令嬢が賊と遭遇してしまった時の反応がおかしいです。普通の令嬢は賊に怯えこそすれ、「面白そう」と言う単語はでてこないと思うのです…………たぶん。
それとも賊と言えど事情があるかも……というミュリア様の優しさなのでしょうか。
「安心して、エル。面白くなかったら、丸焦げにしちゃうから♪」
…………優しさ皆無。
まったく安心できないミュリア様の言葉に、わたくしは小さく溜息をつきました。なぜか賊はその場から動く気配がありません。ミュリア様とわたくしが話している時間があったにもかかわらず、です。
ああ、丸焦げにされる前に逃げればよいものを。
ミュリア様のわくわくしているご様子を横目で見ては、賊がかわいそうになりまして、つい憐みの目を向けてしまいます。
……まぁ、わたくしも賊の心臓を狙うつもりでしたので、今更、憐れむのもどうかとは思いますが。
茂みに近づきますと若い男が一人、腰が抜けたのか動くに動けない様子でした。わたくしの投げた短剣が彼の頬をかすったようで、うっすらと血が滲んでおります。
「あなた、何者? なぜ、わたくしたちのあとをつけていた?」
男の首元に短剣の刃を当てながら質問しましたが、男はがたがた震えるだけで、口を開こうとしません。周りに他の人間の気配がないので、どうやら単独で動いているようです。
「答えなさいっ!」
わたくしが声を張り上げますと、男は肩をビクッと大きく震わせましたの。もちろん、普段はこんな大声は出しませんけれども、賊となれば話は別ですわ。
「まーまー、エル。そんなに怖い顔したら、話したくても話せないってば」
ミュリア様はにこやかに微笑みます。そして男をまじまじと見て、不思議そうな顔で首を傾げました。
「あなた……貴族よね?」
ミュリア様の言葉を聞き、改めて男の頭の先からつま先まで確認しますと、賊のわりには仕立ての良い服を着ていました。たしかに、ただの賊ではありませんわね。
「す、すみません! 通りすがりの者で」
いやいやいや、貴族が普通こんな森を通りすがらないでしょうに。
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