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遭逢 ―ソウホウ―
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しおりを挟む僕の体内で心音が響き渡る。
初めての経験にどう処理していいのかわからず、僕は困惑していた。そんな僕をよそに、彼女はゴソゴソとポケットからクッキーを2枚出す。
「ねぇ、どっちにする?」
「どっちでも……」
「じゃあねぇ。こっちをどうぞ」
クッキーを手渡され、その形がハート型というだけで、僕は落ち着きをなくした。
しっかりしろ、深い意味はないんだから。
自分に必死に言い聞かせている僕の隣で、コバルトブルーの瞳が印象的な少女は口を大きく開けて、クッキーをパクンと一口かじる。
「うん、美味しいわ」
彼女の満足そうな微笑みにソワソワしてしまい、赤くなったであろう顔を逸らした。僕は視線を合わせないようにしながら、クッキーをサクッとかじる。
「美味し……」
「ね? 美味しいよね!」
僕が普段食べているものより質が落ちるであろうクッキーなのに、すごく美味しい。
「あのね。ここの川の水面に太陽の光がね、反射して輝くの」
「輝く?」
「そう。この季節はこの時間が一番綺麗なのよ。あなたに見せたかったの」
彼女は得意げに説明し、川をニコニコと見ていた。
「初めて会ったのに?」
「うん。初めて会ったのに! なぜかな? あなたと一緒に見たかったの。あ、ほら見て!」
彼女の指差す方向に目を向けると、宝石の様に煌めいている川面が僕の前に広がっている。
この川ってこんなに綺麗だった?
スクッと立ち上がった彼女は、気持ち良さそうにんーっと腕を上に伸ばした。一歩前に出て、くるりと振り返る。そして、僕に手を伸ばし、笑う。
太陽の光を浴びたその笑顔は美しかった。
僕は目を見開き、息を呑む。
単色の世界しかなかった僕の心に一筋の光が射し込み、その輝きは僕の世界を次々と多色に塗り替えていく。
空は青い。
雲は白い。
風は優しく、草木は生命力に溢れてる。
川面はキラキラと光り、振り返った君はこぼれるような笑顔を僕にくれる。
死神として生まれ、死神として育った僕が初めて感じた色の世界に心が激しく震えた。
世界は…………綺麗だ。
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