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懸念 ―ケネン―

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 僕は睨みつけるが、男は怯むことなくヘラヘラ笑った。

「どうだ? 取引しよう。金はいくらでも出すぞ?」

 僕をどこかの世間知らずの坊っちゃんだと思ったのか、交渉の余地ありと踏んだのだろう。この場の決定権が僕にある事を察すると自信満々に交渉を始める。

「逃がしてくれたら、好きなだけ女もくれてやる。どうだ? 見たところ女に興味を持つ年頃じゃないか? 女はいいぞ」

 この手の男はみんな同じ事を言うんだな。金の次は女はどうだ?……吐き気がする。この言葉を聞くたびに、僕の大切なクラリスへの想いがけがされていくようで不愉快極まりない。

 僕は無言で大鎌を顕現させた。

 助かりたい一心で、ペラペラ喋っていた男の顔は血の気が引き、口を閉ざす。シンと無音が広がった次の瞬間、やっと立場を理解したのか狂ったように悲鳴を上げた。

「化け物……だ……助けてくれ。助けてくれぇ! すまん! 何でもする……何でもするから! 近寄るなぁ化け物め!」

 血紅色ブラッドレッドの瞳はターゲットに恐怖を植え付ける。空間が裂けるのではないかと思うぐらいの恐怖に満ちた絶叫が響き渡り、化け物、化け物……と震えた唇から繰り返し叫ぶ声。

 いつもと変わらぬ罵りを全身に浴びながら、僕はおののいてる男を見やり、無言で大鎌を振り下ろした。

 僕の手のひらに淀んだ魂が乗り、そっと溜息を漏らす。脳裏に1番に浮かぶのは、あの優しい笑顔。

 疲れたな……クラリスに今すぐ会いたい。

 微かに空気が動き、僕は振り返った。転移魔法で来たであろうザラの姿があり、ザラは無言でテキパキと魂の浄化に取り掛かる。

 ザラがここにいるという事はクラリスは無事帰ったという事だよな。仕事が終わったら、アルフォント家に様子を見に行こう…………それにしても……

 何も喋らず、浄化の魔法陣を宙に描くザラを盗み見た。必要最低限しか話さないのはいつもの事……だけど、なんだか機嫌が悪い気がする。

「ザラ先生。あの……」

 黒いフードを取り、浄化の手配が終わったタイミングでザラに声を掛けた。

「クラリスは……クラリス・アルフォント嬢は魔力制御装置を受け取りにきましたか?」

 ザラに凍えるような目でジロリと睨まれ、僕は戸惑う。
 
 あれ? こんなに睨まれる覚えはないぞ?
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