グリム・リーパーは恋をする ~最初で最後の死神の恋~

桜乃

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棘花 ―イゲバナ―

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 一瞬、しんと部屋が静まり返った。

 思わず彼女のあでやかな笑顔を凝視してしまった僕だったが、すぐに冷静さも沈着さも紳士のたしなみすらもかなぐり捨てて叫ぶ。

「クラリスなのかーーーー!!」
「はい」

 ローザ嬢は最上級の微笑みでさらりと返事をした。

「それは、だめだ!」
「あら、先ほどは応援してくださると……」

 澄ました顔で上品に紅茶を飲み、ローザ嬢は空になったティーカップをソーサーに置く。

「いや、他の人なら応援はするが…………クラリスはだめだ」
「まぁ! 法治の番人と呼ばれているシトリン家次期当主様がご自分の発言を反故ほごされるなんて」

 わざとらしく驚いた顔をするローザ嬢を苦々しく思うものの痛いところを突かれ、ぐうの音も出なくなる。ローザ嬢は僕をチラッと見ては、意地悪っぽくクスクス笑った。

「ジェスター様、クラリス様の事を諦めてくださいません?」
「ふざけるな」

 ローザ嬢の戯言たわごとに間髪入れず答えては、僕は彼女を睨みつける。

「いいのか? 僕にそんなこと言って。シトリン家を敵に回すと同義だぞ」
「まぁ、怖い。そんな怖いお顔、クラリス様が見たら、きっと怯えてしまいますわね。冷静沈着と評判のジェスター様もクラリス様が絡むと途端に感情がむき出しになるのですねぇ。怖い、怖い」

 怖いと連呼しつつ、可笑しそうに喉の奥でくつくつ笑うローザ嬢。

「それに…………うふふ、ジェスター様。私、これでもジェスター様を信頼しておりますのよ? 貴方様は決して公私混同はされませんでしょう? シトリン家の名を出し、相手の力量をはかってらっしゃるのかしら」

 ……なかなか頭が回るご令嬢のようだ。

 シトリン家の名で怯むくらいなら小物こものだ。たいした恋敵ライバルじゃない。まぁ、そもそもシトリン家を恐れる者は最初から僕に喧嘩を売らないだろうけど。

 だからこそ現状を冷静に把握し、理路整然と僕を挑発してくる人物は厄介だ。

 そう、ローザ嬢のように。
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