95 / 111
棘花 ―イゲバナ―
7
しおりを挟む
一瞬、しんと部屋が静まり返った。
思わず彼女の艶やかな笑顔を凝視してしまった僕だったが、すぐに冷静さも沈着さも紳士の嗜みすらもかなぐり捨てて叫ぶ。
「クラリスなのかーーーー!!」
「はい」
ローザ嬢は最上級の微笑みでさらりと返事をした。
「それは、だめだ!」
「あら、先ほどは応援してくださると……」
澄ました顔で上品に紅茶を飲み、ローザ嬢は空になったティーカップをソーサーに置く。
「いや、他の人なら応援はするが…………クラリスはだめだ」
「まぁ! 法治の番人と呼ばれているシトリン家次期当主様がご自分の発言を反故されるなんて」
わざとらしく驚いた顔をするローザ嬢を苦々しく思うものの痛いところを突かれ、ぐうの音も出なくなる。ローザ嬢は僕をチラッと見ては、意地悪っぽくクスクス笑った。
「ジェスター様、クラリス様の事を諦めてくださいません?」
「ふざけるな」
ローザ嬢の戯言に間髪入れず答えては、僕は彼女を睨みつける。
「いいのか? 僕にそんなこと言って。シトリン家を敵に回すと同義だぞ」
「まぁ、怖い。そんな怖いお顔、クラリス様が見たら、きっと怯えてしまいますわね。冷静沈着と評判のジェスター様もクラリス様が絡むと途端に感情がむき出しになるのですねぇ。怖い、怖い」
怖いと連呼しつつ、可笑しそうに喉の奥でくつくつ笑うローザ嬢。
「それに…………うふふ、ジェスター様。私、これでもジェスター様を信頼しておりますのよ? 貴方様は決して公私混同はされませんでしょう? シトリン家の名を出し、相手の力量をはかってらっしゃるのかしら」
……なかなか頭が回るご令嬢のようだ。
シトリン家の名で怯むくらいなら小物だ。たいした恋敵じゃない。まぁ、そもそもシトリン家を恐れる者は最初から僕に喧嘩を売らないだろうけど。
だからこそ現状を冷静に把握し、理路整然と僕を挑発してくる人物は厄介だ。
そう、ローザ嬢のように。
思わず彼女の艶やかな笑顔を凝視してしまった僕だったが、すぐに冷静さも沈着さも紳士の嗜みすらもかなぐり捨てて叫ぶ。
「クラリスなのかーーーー!!」
「はい」
ローザ嬢は最上級の微笑みでさらりと返事をした。
「それは、だめだ!」
「あら、先ほどは応援してくださると……」
澄ました顔で上品に紅茶を飲み、ローザ嬢は空になったティーカップをソーサーに置く。
「いや、他の人なら応援はするが…………クラリスはだめだ」
「まぁ! 法治の番人と呼ばれているシトリン家次期当主様がご自分の発言を反故されるなんて」
わざとらしく驚いた顔をするローザ嬢を苦々しく思うものの痛いところを突かれ、ぐうの音も出なくなる。ローザ嬢は僕をチラッと見ては、意地悪っぽくクスクス笑った。
「ジェスター様、クラリス様の事を諦めてくださいません?」
「ふざけるな」
ローザ嬢の戯言に間髪入れず答えては、僕は彼女を睨みつける。
「いいのか? 僕にそんなこと言って。シトリン家を敵に回すと同義だぞ」
「まぁ、怖い。そんな怖いお顔、クラリス様が見たら、きっと怯えてしまいますわね。冷静沈着と評判のジェスター様もクラリス様が絡むと途端に感情がむき出しになるのですねぇ。怖い、怖い」
怖いと連呼しつつ、可笑しそうに喉の奥でくつくつ笑うローザ嬢。
「それに…………うふふ、ジェスター様。私、これでもジェスター様を信頼しておりますのよ? 貴方様は決して公私混同はされませんでしょう? シトリン家の名を出し、相手の力量をはかってらっしゃるのかしら」
……なかなか頭が回るご令嬢のようだ。
シトリン家の名で怯むくらいなら小物だ。たいした恋敵じゃない。まぁ、そもそもシトリン家を恐れる者は最初から僕に喧嘩を売らないだろうけど。
だからこそ現状を冷静に把握し、理路整然と僕を挑発してくる人物は厄介だ。
そう、ローザ嬢のように。
1
あなたにおすすめの小説
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる