グリム・リーパーは恋をする ~最初で最後の死神の恋~

桜乃

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棘花 ―イゲバナ―

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 ランチェスター家の屋敷にはそんなに猫がいるのか? ランチェスター伯爵が猫好きという話は聞いたことないが。

 この偶然の一致に不穏な空気を感じた僕はローザ嬢をこっそり観察したが、変わらずにこやかな微笑みを浮かべていて、他意はなさそうに見えた。

「その方、素敵なアクセサリーを身につけておりましたので、私もお揃いで作りましたの!」

 はしゃぎ声のローザ嬢は長い髪に隠れていた耳をちらりと僕に見せる。

 黒髪の隙間からキラリ輝いているのは、丸いオレンジ色の……

 ……ピアス?

「その方の情報を集めましたわ。お誕生日など基本的な事はもちろんですが、趣味とか特技とかお好きなものとか……」

 ……好きなもの?

『菓子職人にベリーのお菓子を勉強してもらってますの』

 先程のローザ嬢の言葉が頭をよぎった。

「でも、その方の周りに殿方が3人ほどおりまして……」

 ローザ嬢の赤く小さい唇の端が微かに上がる。気づくか気づかないかの微妙な変化だが、ただそれだけでかわいらしい微笑みが、勝ち気な笑顔に変わっていった。

「1人は王子なんですけど、王族の特権で婚約までしてその方を離さないですし、義理の弟も四六時中くっついていて鬱陶しいですわ。ああ」

 僕の目を見つめたまま、黒真珠の瞳をチラリとも動かさず、にっこり笑うローザ嬢。

「策略家の友人も諦める気がまったくなくて、厄介ですわね」

 僕は言葉を失った。

 ローザ嬢の言動を頭の中で繰り返したが、何度考えても答えは1つしか出てこない。

「それは……僕?」

 彼女は美しく咲いた薔薇のごとく、あでやかに笑った。

「ご名答」
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