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しおりを挟む全学年生徒を収納できる食堂は、かなりの広さをもっている。
まだお昼休憩時間の半分も過ぎていない今食堂を利用している生徒も沢山いた。
その中で私はすぐに友人たちを見つけることができた。
何故なら学園は平等を謳って入るが、それでも貴族社会。高位貴族が利用しているスペースを侵す低位貴族はいないためである。
そして友人たちも私の姿を視界に入れ上品に手を上げたが、私の表情をみた途端怪訝そうに首を傾げた。
手を上げ首を傾げたのはミリアーナ・ブーストフォー侯爵令嬢とメリス・フェリジェント侯爵令嬢である。
彼女たちとは教室で別れたばかりであり、私が今回詳しく話すこともせず慌ただしく去った理由を、今朝会ったルナ・メイダース公爵令嬢が伝えてくれるだろうと考えていた。
だから三人が一緒にいることも容易に想像できたし、理由がなければ私を含めたこの四人で席についていただろう。
「っ…、ルナ様…、彼は、…!」
口から出ようとする言葉を飲み込んだ。
自分でもよくわからなかった。
何故アイガル伯爵令息を探していたのか、ガゼボにいたときには抱いていた感情がここにきて静まり、何故アイガル伯爵令息が関係するのかがわからなくなった。
(だって、これはアルベルト様自らの行動の結果。それを従える者に詰め寄ろうだなんて、してはいけないことだと何故わからなかったのかしら…)
息を切らせた私の様子に気づいた友人達は席を立ち、空いている椅子へと私を誘導した。
その途中でルナ様は私の手持ちの紙袋に変化がないことに気付いたのだろう。
一瞬息を詰まらせた後、私から紙袋を受け取り、テーブルへと置いたそれを私は静かに見つめた。
「エリーナ様、まずは落ち着いてください」
ルナ様から手渡される水を受け取り、それを一口飲むと、あれ程荒れた心がまるで水面が鏡になったかのように静まり返る。
不思議な気分だった。
(あの場にいたときはなにも考えられずいたのに、……こうしてルナ様たちのお顔を見たら不思議なことにとても落ち着いたわ)
友達とはかけがえのないものね。と私はやっと口元を緩ませる。
そんな私の様子を見逃さなかった三人はほっと安堵し、席へと座り直した。
「それで、なにがあったのです?」
メリス様が切り出し私が経緯を話そうとしたとき、ミリアーナ様が止める。
「もう、なによこんなときに」
「こんな時だからよ」
パチンと指先を鳴らした瞬間、周囲に魔力を感じた。私がこれから話す内容が漏れないように周囲に結界を張ってくれたのだ。
それによく"視る"と、ただ音を遮断する結界ではない。
外から見るとまるで曇ガラスのように私達の姿をはっきりと認識させないようにしている。
つまり、音だけではなく口の動きからも私達がなにを話しているのかもわからなくさせているのだ。
(こんな高度な結界魔法を一瞬で、しかも学生の年齢からできるだなんて、さすがブーストフォー侯爵家の者ね)
ブーストフォー家は代々結界魔法に優れていることで有名だ。
王城に張られている結界も、ブーストフォー家が関わっているといわれるくらい王家からも信頼が厚い貴族である。
そんな優秀な家柄であるミリアーナ様の実力に私は感嘆した。
「ミリアーナ様、ありがとう」
「これくらいなんてことありませんわ!」
嬉しそうに胸を張るミリアーナ様に、メリス様は呆れ、私とルナ様はくすりと笑った。
「……実は、私は今日アルベルト様と昼食をご一緒する筈でした」
「確かに毎週月の日は殿下との日でしたね」
「最近全く守られてませんけど」
「ミリアーナ!」
メリス様がミリアーナ様に向かって声を荒げる。
彼女たちは所謂幼馴染という関係で、だからこそとても気さくに言葉を交わしているこの光景は特に珍しいものでもない。
ミリアーナ様も声を荒げるメリス様に驚くどころか、はぁと大きく溜息をついて肩をあげて落とした。
「なによ、本当のことじゃない。
王子様教育がどれほど忙しいのかわからないけれど、エリーナ様は王妃教育を行っている最中にも殿下との時間を大切にしていたわ。
それなのに教育が始まった途端忙しいからと言ってエリーナ様を放っておくだなんて、器が小さいと言っているようなものよ」
これには思わず唖然としてしまった。
これが周囲に伝わり漏れていたら、明らかに王族侮辱罪が適用され罪を言い渡されているほどに辛辣な言葉を口にしていたからだ。
「貴女、言いたいことを言いたいがために結界をはったのね…」
「それもあるわ」
堂々と答えるミリアーナ様に私は苦笑する。
アルベルト様のことを悪く言うのは許せない気持ちもあるが、あんな光景を見てしまってはアルベルト様を擁護したい気持ちもなくなるわけだし、第一私の味方だと胸を張って主張するミリアーナ様に胸を打たれた思いだった。
「第一!とても美しいまるで絹糸のように細く輝く銀髪に、芸術の女神が与えられたといわれても信じてしまうほどの整ったお顔!
そしてこの国では希少なバイオレットサファイアのような瞳を持つエリーナ様を放っておくだなんて、殿下は男として不の_」
「いい加減にしなさい!」
声を大きくして語り始めたミリアーナ様の口に、メリス様は残っていたケーキを詰め込め強制的に黙らせた。
そんな二人の行動に私は小さく吹き出してしまう。
もやついていた気持ちがミリアーナ様によって、晴れたような気持になったからだ。
「ありがとうございます。ミリアーナ様」
礼を告げる私に、難しい表情を浮かべる三人を気にする素振りもみせず、私は話をするため一度口を閉ざして落ち着かせる。
そして一連の経緯を話した。
アルベルト様と利用するために施設予約をしに向かったこと。
そこで私と利用することを理由にアルベルト様の名前でガゼボを予約していたこと。
実際にガゼボに向かった私の目の前で、噂の転入生と一緒にいたアルベルト様がいたこと。
話を終えると、ミリアーナ様とメリス様が同時に立ち上がった。
「「あの女と浮気だなんて許せないわ!!」」
ガタンと大きな音が響いた。
ちらりと目線を下に向けると見えていたはずの背もたれが見えないことから、きっと椅子が倒れてしまったのだろうと予想できた。
勿論結界のお陰で音は聞こえなくとも私達の様子は見えることから、近くにいた生徒たちがこちらをチラチラと伺う様子が見える。
メラメラと燃える二人に胸が暖かく感じながらも、ルナ様に体を向けて頭を下げた。
「ルナ様、申し訳ございません」
「…どうしてエリーナ様が私に謝るのですか?
私はエリーナ様からなにもされてなどいません」
焦ったように早口を告げたルナ様に私は首を振って否定した。
「…ここに来るまでの私は怒りでどうにかなりそうでした。
ですが当事者に理由を問うのではなく、恥ずかしくとも抱いた怒りを護衛騎士であるアイガル様に向けようとしてしまったのです」
実際に行動に起こす前に我に返ったおかげで、私は自身が過ちを犯すことはなかったが、それでも罪悪感という感情は消えなかった。
だからアイガル様の婚約者であるルナ様に謝罪する。
「頭をお上げください。
殿下の間違った行動に意を唱えるのは従う者の努めでもあります。ですからエリーナ様が頭を下げる必要はないのです」
ルナ様がそう口をすると、立ち上がったままのメリス様とミリアーナ様もルナ様の言葉を援護するように私を励ました。
「そうですよ!エリーナ様は全く悪くありません!というか悪いのは浮気をしている人ですから!」
暗に王太子であるアルベルト様が悪いと言っているようなものだが、ミリアーナ様が張った結界のお陰でそれを耳にするものは私達以外誰もいない。
「……ありがとうございます」
私は頼れ、そして心許せる友人たちに笑顔でそう告げた。
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