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あとがきのような続き
しおりを挟む「それにしてもカイル。貴方はどうして髪の色を変えてエリーナの前に現れたの?」
カイル様に気持ちを伝え、抱擁を交わしていた私達…いえカイル様に王妃様が話しかける。
ビクリと体を強張らせるカイル様は、絶対に聞こえている筈なのに王妃様の質問に答えずギギッと、まるで可動部が壊れている機械のような音を出しながら後ろを振り向いた。
「な、何故それを…」
「何故?我々王族には常に影が控えているのよ。
いきなりウェルハート領に行きたいと駄々を捏ねた貴方の様子を不審に思い、影に事情を聞いたのよ。
そしたら貴方が魔法を使ったこともエリーナと接触したことも伝えられ、一緒にいたという執事にも話を聞いたら貴方が初恋をしたというじゃない。
その後にあの駄々、自暴自棄になったんだなと誰もが思って我儘を通したくなるってものよ」
「な、なぜそこまで詳しく…、いやそうじゃなくて!
今ここで言わなくてもいいではないですか!」
カイル様が顔を真っ赤に染め上げて王妃様に声を荒げると、陛下が「そうなのか?」と髭を触りながらつぶやいた。
「貴方は本当に恋愛事に疎いのね。
そもそも貴方がエリーナに一人ずつ会わせるというから、話がぐちゃぐちゃになってしまったのよ」
「な、何故だ?!一人ずつ会って知ったほうがいいだろう!?」
「機会は平等にしなければいけなかったといっているのよ。
エリーナがアルベルトを気に入ったから貴方はすぐに婚約を結んだんだろうけれど、それは友情で終わる可能性もあったわ。
現にエリーナとアルベルトが長年婚約関係でいたのに恋情を抱かなかったのがその証拠。
アルベルトに会わせた後、カイルにも会わせないといけなかったのよ」
「な、ならそう言ってくれれば…」
「私がいない時に行動に移していたんじゃない!」
そんな陛下と王妃様がやりとりを繰り広げている中、カイル様が赤い顔のまま「聞いてしまったよね?」と恥ずかしそうに呟いた。
その表情に私の胸は何かに打ち抜かれたかのような衝撃が走る。
(可愛い…!可愛い!!!)
「顔はアルベルト様とそっくりなのに、全然違う!なんて可愛いのかしら!」
「へ?」
「おい、口に出してるぞ。しかも俺に失礼だ」
私は思わず口を手で抑える。
これ以上変なことを口走らないように行動に移さないと、カイル様の可愛さの前ではうっかりが出てしまうかもしれないからだ。
「それで?何故貴方は髪の色を変えたの?」
「父上と話してたんじゃなかったんですか?!」
「それはそれよ」
あっけらかんとした態度で答える王妃様に、カイル様が赤い顔のまま口元を引きつらせる。
(器用ね)と思いながら、私も知りたいとカイル様にお願いすると、はぁと一呼吸ついてからカイル様が話してくれた。
「あの時は仕方がなかったんだ。
優秀な兄上がいたから」
「俺?」
自分の名前が出てくる事など思いもよらなかったのか、アルベルト様が首を傾げる。
「そうだよ。兄上は優秀で誰もが次の王は兄上だって言っていたんだ。
だから僕もエリーナに選ばれるのは兄上だって思っていた。
それに僕は兄上がエリーナに選ばれなかった場合に会うことが出来るって伝えられていたから、だから僕のままで会うことは出来ないと思った。
それで兄上に見えるように髪の色を変えたってわけだよ」
ふぅといくらか顔の熱が引いたのか、赤みが抑えられたカイル様はちらりと私を見る。
「でも、それならどうして瞳の色もかえなかったのですか?
アルベルト様の髪の色を真似たからと言って、瞳の色を変えなければ気付かれてしまうんじゃ…」
そういいながらも私はずっと気付かなかったわけだけど、それは脇に置いて質問する。
「それは……」
「それは?」
まるでオウム返しのようにカイル様の言葉を繰り返すと、カイル様は意を決した表情をつくり答える。
「……‥君の元にすぐに駆け付けたかったんだ」
「え?」
私は目を瞬かせた。
赤みが引いたはずのカイル様のお顔にまた朱が差し込む。
「君は花園に迷い込んだだろう?
あのまま一人にしては寂しくなって泣いてしまうんじゃないかって思ったし、第一君が花を求めた妖精みたいで早く捕まえに行かないと消えてしまうんじゃないかって思ったんだ」
「妖精って」
アルベルト様がカイル様の言葉に若干笑いを含んだ声で呟く。
私はというとそう言われたことに対し嬉しさと恥ずかしさで一気に熱が上がったようだ。
指先で頬を冷やしているとカイル様がアルベルト様に鋭い眼差しを向ける。
「兄上だって思ったんじゃないのか?」
「俺はそんなこと思わない」
カイル様が言及するとアルベルト様は腕を組み、それを否定する。
だが、ここでまさかの応援が入った。
「それと似たようなことは思っただろう?」
まさかの陛下だ。
王妃様から恋愛事情に関しては疎いと言われていたが、ここでまさかの陛下の乱入にアルベルト様がカッと目を見開いた。
「はぁ!?」
「だってお前赤い顔してそっぽむいたじゃないか。
あれはお前の照れ隠しだろ」
「違う!というかどうして俺の話になっているんだ!
カイルの話だろ!?」
「なんだ、照れているのか?」
「照れてなどいない!」
フーフーと、まるで借りてきた猫のように鼻息を荒くするアルベルト様に私は一言だけ伝える。
「あの……、ごめんなさい」
「何がだ!」
アルベルト様の気持ちが私に向かっていないと、今ならはっきり言える。
何故なら王妃様が言っていたように、私達の間にあったのは友情、もっと良く言えば友愛とも呼べる感情だけだったからだ。
だけど、今の陛下とアルベルト様のやり取りがあった今、私がアルベルト様にかける言葉は謝罪に限ると口にすると、やっぱりアルベルト様は声を荒げた。
「つまり纏めると、各々が勘違いしてしまった為に今の状況があるということね」
「私はこの人が全て悪いのだと思っていたわ」と陛下にジト目を向ける王妃様がそう話す。
私はカイル様とアルベルト様を間違えてしまったし、カイル様は私に選ばれるのはアルベルト様だと勘違いして変装した。
陛下もお父様も私が好きなのはアルベルト様だと思っていたようだし、王妃様もアルベルト様と私の仲を疑わなかった。
「いや、俺はなにも勘違いなどしてないぞ」
そうアルベルト様が言っていたけれど、王妃様がすかさず「脈あり的な態度を見せる貴方も悪い部分はあるわ」と告げる。
神託の件もあって王妃と決まった私に次期王となる旦那様を小さい頃に選ばせたようだけど、王妃様の今の発言でやはり自分の子供は可愛いのだなと感じた。
カイル様への公平な扱いを要求していたことも、友愛か恋情か区別が難しいかもしれないけれど、それでもいい関係を築いていた仲を引き裂きたくなかったという親心。
私はそんな親心のお陰で、再びチャンスを得られたことに気付くことが出来た。
(王妃様もお父様のように子供の事を考えたのね)
神託だけではなく、子供の気持ちを。
恋愛結婚という言葉に憧れるものは多くいるが、政略結婚がいまだに浸透している貴族社会では子の気持ちが反映されない結婚がザラにある。
私の立場が公爵家の娘だったということもあっただろうけれど、カイル様の気持ちに気付き、そして友情しか抱いていないアルベルト様の為に機会を設けてくれた王妃様の気持ちが嬉しかった。
「カイル様、これから忙しくなると思いますが、よろしくお願いしますね」
私がカイル様を選んだことで、王太子が変更となる。
つまりカイル様が次の王となるのだ。
今迄ウェルハート領にいたカイル様は社交の場に全く出てこなかった。
帝王学を学び始めてはいるが、地盤がしっかりと出来ていないのだ。
これからは王となるための教育と貴族達との交友で忙しくなるだろう。
それを婚約者としてしっかりと支えよう。
愛しい人の為に。
end
ここまでお読みいただきありがとうございました!
本当は男爵令嬢を悪魔にしないで、婚約者の男に近寄った男爵令嬢を公爵令嬢が殺してしまう。
「ああ、見られちゃった。なら消さないと」とか言って婚約者も殺しちゃった★そんな公爵令嬢の前に辺境伯の令息が現れる♪
的な感じで最初書いていたのですが血みどろな場面が書けずに軌道修正しまくりました。
でもアルベルトは選ばれなかったとしても取り乱すことはしてほしくなかったので「俺を選ぶな」とかっこよく言わせられたので、書けて良かったです!
楽しくお読みいただけたら幸いです。
読んでくださり、本当にありがとうございました。
是非他作品にも目を通していただけると嬉しいです!
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