1 / 36
いち、子供の助言
この国の第一王子の立場は微妙である。
正室、つまり王妃になかなか子が授からなかったために、側室を設けたのだが、側室との子が出来てすぐに王妃も身ごもってしまった。
大変おめでたい話であるものの、第一王子の母親が側室であり、また正室の子とは同年ということもあり、次期王位を継ぐ王太子の選別には第二王子を支持すべきか、それとも第一王子を支持すべきか、家臣である貴族たちは悩んだ。
だが第一王子は病弱だった。
寝込みがちの第一王子、しかも側室の子ということもあり、王太子には正室の子、第二王子が指名されるだろうといわれるようになったのだ。
そんな第二王子の形だけの婚約者になったアイリス・エクシロンは、目の前の婚約者、ウィリアム・ディオルの言葉に驚愕のあまり目を見開き、言葉を失っていた。
「俺はエミリーじゃなく、お前が好きなんだ!」
顔を赤く染め、逃がさないとばかりに両手を壁につき、アイリスの逃げ場を塞いだウィリアム第二王子は叫ぶ。
一方アイリスは何故?一体いつから?と疑問符を頭の中に敷き詰めていた。
確かにウィリアムはエミリーに恋をしていた。
権力と能力から婚約者として選ばれたアイリスは、エミリーに一目惚れをしたウィリアムに嫌われていたはずだ。
婚約早々に円満に婚約破棄をするため、第二王子の恋を応援すると約束したアイリスは、第二王子を立派な王子として育てながら健全な友情を育んでいた。
そのはずだった。
決して男女の関係にはなっていない。
そんな雰囲気にだって一度もなったことはない。
アイリスはただ、“断罪される運命の悪役令嬢”にならないために、必死に善行を心がけていただけだ。
それなのに何故、と考える。
返事を求めるウィリアムの熱い視線をアイリスは受けながら、ごくりと唾を飲み込んで慎重に答えた。
◇
私アイリス・エクシロンは人には見えないものが見えていた。
それに気づいたのは2歳の頃だ。
自分の小指にだけ赤い色の糸がなかったことが不思議で、どうして自分にだけ赤い糸がないのかと、嫌だ嫌だと騒いでいた時だった。
私の言葉に不思議そうに首を傾げる大人たち。
『なにいってるの?』『そんなのないよ』と私の言葉を否定する7歳年上の兄たちに、私はやっと自分だけにしか見えていないことを知った。
それからはいわゆるイヤイヤ期も過ぎ去り、“普通”の子供らしく過ごしてきた私は、赤い糸の話もせず、変な子を見るような目で見られることもなかった。
だけど見えるものはどうしようもないわけで、私はついつい人の小指についている赤い糸を観察し、そして赤い糸が何なのか、その正体を導き出した。
赤い糸。
それは結ばれる男女の運命の糸だ。
生憎私のお父様とお母様は赤い糸で結ばれてはいないが、赤い糸の正体を導き出した頃、つまり5歳になった私は二人が政略結婚で結ばれた夫婦だってことを勿論知っている。
それでも二人の中には愛情がちゃんと芽生えているし、二人の娘として生まれた私は不満なんてものはない。
だけど思うのだ。
赤い糸で結ばれた二人を見る機会はあまりないが、それでも全くないわけではない。
運命の赤い糸で結ばれた二人は引き寄せられたかのように巡り合うと、恋をし、そして幸せそうな表情を浮かべる。
そんな様子を私は片手で足りる数ではあったが実際に見てきた。
だからつい、おせっかいを焼くようになった。
「ねぇサリー、あなたベルにきがあるのよね」
「ほぇ!?」
私の言葉に顔を真っ赤に染めた侍女見習いで日頃から私の世話をしているサリーは「え、え」と挙動不審気に目を彷徨わせる。
私はそんなサリーをみてくすりと笑った。
だって面白いし可愛かったのだ。
普段は優しいお姉さんのように私の世話を必死にこなすサリーが、ただ一言、気になっている男性の名前を告げただけで顔を真っ赤に染めることに。
サリーは12歳で私専属の侍女見習いとして働いている。
つまりお兄様たちと同じ年齢ね。
本当はお兄様たちのように学園に通っている歳なのだけれど、サリーは平民の身分で、しかも入学に必要な学費を納めることが出来ないから学園には通うことが出来ない。
え、なんで平民が公爵令嬢の私の侍女見習いとして働いているのかって?
あ、その前に私のことをちゃんと話していなかったわね。
私はエクシロン公爵家の娘でアイリスというの。
つまり公爵令嬢ね。
家族にはアリスという愛称で呼ばれているわ。
私とサリーの出会いは、私がまだ赤い糸がなんなのかわからず一人調査をしているとき、お母様たちと街にお出かけした際に公爵家に伸びる糸に気付いたの。
それからなにかと理由をつけてお兄様たちやお母様と一緒に街に出かけ、そしてサリーにたどり着いたわ。
『このこつれていっていいでしょ!?』『このこがひつようなの!!』と駄々をこねる私の最適案として、侍女として仕えさせることで許された。
ちなみに平民の間では貴族の家で働けることは光栄の極みといわれていることもあり、サリーの両親は幼いサリーが貴族令嬢の私に求められたことを手放しで喜んでいた。
そしてベルという男性は公爵家の庭師として働いている男性だ。
サリーの4つ上の16歳。
少し不愛想だけど、花を愛でるまなざしはとても柔らかいから、優しい人だっていうことは保証するわ。
というより、そもそも家で働く人で悪い人はいないのだけどね。
お母様がちゃんと選別しているから。
そしてベルも私の侍女見習いとして常にそばにいるサリーが気になっているのか、ちらちらと視線をサリーに向けていることも私は知っている。
流石は赤い糸で結ばれた二人ね。
私は真っ赤に顔を染めたサリーにうんうんと頷くと、にこりと微笑んだ。
そして告げる。
「わたし、ぜったいうまくいくとおもうの!ねぇ!こくはくしてみてよ!」
正室、つまり王妃になかなか子が授からなかったために、側室を設けたのだが、側室との子が出来てすぐに王妃も身ごもってしまった。
大変おめでたい話であるものの、第一王子の母親が側室であり、また正室の子とは同年ということもあり、次期王位を継ぐ王太子の選別には第二王子を支持すべきか、それとも第一王子を支持すべきか、家臣である貴族たちは悩んだ。
だが第一王子は病弱だった。
寝込みがちの第一王子、しかも側室の子ということもあり、王太子には正室の子、第二王子が指名されるだろうといわれるようになったのだ。
そんな第二王子の形だけの婚約者になったアイリス・エクシロンは、目の前の婚約者、ウィリアム・ディオルの言葉に驚愕のあまり目を見開き、言葉を失っていた。
「俺はエミリーじゃなく、お前が好きなんだ!」
顔を赤く染め、逃がさないとばかりに両手を壁につき、アイリスの逃げ場を塞いだウィリアム第二王子は叫ぶ。
一方アイリスは何故?一体いつから?と疑問符を頭の中に敷き詰めていた。
確かにウィリアムはエミリーに恋をしていた。
権力と能力から婚約者として選ばれたアイリスは、エミリーに一目惚れをしたウィリアムに嫌われていたはずだ。
婚約早々に円満に婚約破棄をするため、第二王子の恋を応援すると約束したアイリスは、第二王子を立派な王子として育てながら健全な友情を育んでいた。
そのはずだった。
決して男女の関係にはなっていない。
そんな雰囲気にだって一度もなったことはない。
アイリスはただ、“断罪される運命の悪役令嬢”にならないために、必死に善行を心がけていただけだ。
それなのに何故、と考える。
返事を求めるウィリアムの熱い視線をアイリスは受けながら、ごくりと唾を飲み込んで慎重に答えた。
◇
私アイリス・エクシロンは人には見えないものが見えていた。
それに気づいたのは2歳の頃だ。
自分の小指にだけ赤い色の糸がなかったことが不思議で、どうして自分にだけ赤い糸がないのかと、嫌だ嫌だと騒いでいた時だった。
私の言葉に不思議そうに首を傾げる大人たち。
『なにいってるの?』『そんなのないよ』と私の言葉を否定する7歳年上の兄たちに、私はやっと自分だけにしか見えていないことを知った。
それからはいわゆるイヤイヤ期も過ぎ去り、“普通”の子供らしく過ごしてきた私は、赤い糸の話もせず、変な子を見るような目で見られることもなかった。
だけど見えるものはどうしようもないわけで、私はついつい人の小指についている赤い糸を観察し、そして赤い糸が何なのか、その正体を導き出した。
赤い糸。
それは結ばれる男女の運命の糸だ。
生憎私のお父様とお母様は赤い糸で結ばれてはいないが、赤い糸の正体を導き出した頃、つまり5歳になった私は二人が政略結婚で結ばれた夫婦だってことを勿論知っている。
それでも二人の中には愛情がちゃんと芽生えているし、二人の娘として生まれた私は不満なんてものはない。
だけど思うのだ。
赤い糸で結ばれた二人を見る機会はあまりないが、それでも全くないわけではない。
運命の赤い糸で結ばれた二人は引き寄せられたかのように巡り合うと、恋をし、そして幸せそうな表情を浮かべる。
そんな様子を私は片手で足りる数ではあったが実際に見てきた。
だからつい、おせっかいを焼くようになった。
「ねぇサリー、あなたベルにきがあるのよね」
「ほぇ!?」
私の言葉に顔を真っ赤に染めた侍女見習いで日頃から私の世話をしているサリーは「え、え」と挙動不審気に目を彷徨わせる。
私はそんなサリーをみてくすりと笑った。
だって面白いし可愛かったのだ。
普段は優しいお姉さんのように私の世話を必死にこなすサリーが、ただ一言、気になっている男性の名前を告げただけで顔を真っ赤に染めることに。
サリーは12歳で私専属の侍女見習いとして働いている。
つまりお兄様たちと同じ年齢ね。
本当はお兄様たちのように学園に通っている歳なのだけれど、サリーは平民の身分で、しかも入学に必要な学費を納めることが出来ないから学園には通うことが出来ない。
え、なんで平民が公爵令嬢の私の侍女見習いとして働いているのかって?
あ、その前に私のことをちゃんと話していなかったわね。
私はエクシロン公爵家の娘でアイリスというの。
つまり公爵令嬢ね。
家族にはアリスという愛称で呼ばれているわ。
私とサリーの出会いは、私がまだ赤い糸がなんなのかわからず一人調査をしているとき、お母様たちと街にお出かけした際に公爵家に伸びる糸に気付いたの。
それからなにかと理由をつけてお兄様たちやお母様と一緒に街に出かけ、そしてサリーにたどり着いたわ。
『このこつれていっていいでしょ!?』『このこがひつようなの!!』と駄々をこねる私の最適案として、侍女として仕えさせることで許された。
ちなみに平民の間では貴族の家で働けることは光栄の極みといわれていることもあり、サリーの両親は幼いサリーが貴族令嬢の私に求められたことを手放しで喜んでいた。
そしてベルという男性は公爵家の庭師として働いている男性だ。
サリーの4つ上の16歳。
少し不愛想だけど、花を愛でるまなざしはとても柔らかいから、優しい人だっていうことは保証するわ。
というより、そもそも家で働く人で悪い人はいないのだけどね。
お母様がちゃんと選別しているから。
そしてベルも私の侍女見習いとして常にそばにいるサリーが気になっているのか、ちらちらと視線をサリーに向けていることも私は知っている。
流石は赤い糸で結ばれた二人ね。
私は真っ赤に顔を染めたサリーにうんうんと頷くと、にこりと微笑んだ。
そして告げる。
「わたし、ぜったいうまくいくとおもうの!ねぇ!こくはくしてみてよ!」
あなたにおすすめの小説
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
ある日突然、醜いと有名な次期公爵様と結婚させられることになりました
八代奏多
恋愛
クライシス伯爵令嬢のアレシアはアルバラン公爵令息のクラウスに嫁ぐことが決まった。
両家の友好のための婚姻と言えば聞こえはいいが、実際は義母や義妹そして実の父から追い出されただけだった。
おまけに、クラウスは性格までもが醜いと噂されている。
でもいいんです。義母や義妹たちからいじめられる地獄のような日々から解放されるのだから!
そう思っていたけれど、噂は事実ではなくて……
あなたの事は好きですが私が邪魔者なので諦めようと思ったのですが…様子がおかしいです
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のカナリアは、原因不明の高熱に襲われた事がきっかけで、前世の記憶を取り戻した。そしてここが、前世で亡くなる寸前まで読んでいた小説の世界で、ヒーローの婚約者に転生している事に気が付いたのだ。
その物語は、自分を含めた主要の登場人物が全員命を落とすという、まさにバッドエンドの世界!
物心ついた時からずっと自分の傍にいてくれた婚約者のアルトを、心から愛しているカナリアは、酷く動揺する。それでも愛するアルトの為、自分が身を引く事で、バッドエンドをハッピーエンドに変えようと動き出したのだが、なんだか様子がおかしくて…
全く違う物語に転生したと思い込み、迷走を続けるカナリアと、愛するカナリアを失うまいと翻弄するアルトの恋のお話しです。
展開が早く、ご都合主義全開ですが、よろしくお願いしますm(__)m
【完結】「政略結婚ですのでお構いなく!」
仙冬可律
恋愛
文官の妹が王子に見初められたことで、派閥間の勢力図が変わった。
「で、政略結婚って言われましてもお父様……」
優秀な兄と妹に挟まれて、何事もほどほどにこなしてきたミランダ。代々優秀な文官を輩出してきたシューゼル伯爵家は良縁に恵まれるそうだ。
適齢期になったら適当に釣り合う方と適当にお付き合いをして適当な時期に結婚したいと思っていた。
それなのに代々武官の家柄で有名なリッキー家と結婚だなんて。
のんびりに見えて豪胆な令嬢と
体力系にしか自信がないワンコ令息
24.4.87 本編完結
以降不定期で番外編予定
冷酷王子に嫌われているはずが、なぜか毎晩呼び出されます
すみひろ
恋愛
王城の大広間が、静まり返っていた。
誰もが息を呑み、視線を集める先――そこには、第一王子レオンハルト殿下と、その婚約者である私、リリアーナが立っている。
「リリアーナ・エヴァンズ。君との婚約を破棄する」
冷え切った声だった。
まるで氷を削ったような、感情のない声音。
周囲からざわめきが広がる。
けれど私は驚かなかった。
だって、この日が来ることはずっと前から分かっていたから。
【完】婚約してから十年、私に興味が無さそうなので婚約の解消を申し出たら殿下に泣かれてしまいました
さこの
恋愛
婚約者の侯爵令嬢セリーナが好きすぎて話しかけることができなくさらに近くに寄れないジェフェリー。
そんなジェフェリーに嫌われていると思って婚約をなかった事にして、自由にしてあげたいセリーナ。
それをまた勘違いして何故か自分が選ばれると思っている平民ジュリアナ。
あくまで架空のゆる設定です。
ホットランキング入りしました。ありがとうございます!!
2021/08/29
*全三十話です。執筆済みです
ループした悪役令嬢は王子からの溺愛に気付かない
咲桜りおな
恋愛
愛する夫(王太子)から愛される事もなく結婚間もなく悲運の死を迎える元公爵令嬢のモデリーン。
自分が何度も同じ人生をやり直している事に気付くも、やり直す度に上手くいかない人生にうんざりしてしまう。
どうせなら王太子と出会わない人生を送りたい……そう願って眠りに就くと、王太子との婚約前に時は巻き戻った。
それと同時にこの世界が乙女ゲームの中で、自分が悪役令嬢へ転生していた事も知る。
嫌われる運命なら王太子と婚約せず、ヒロインである自分の妹が結婚して幸せになればいい。
悪役令嬢として生きるなんてまっぴら。自分は自分の道を行く!
そう決めて五度目の人生をやり直し始めるモデリーンの物語。
愛する人を救うため令嬢は自分を娼館へ売りました。死にました。騙されてたぁあぁぁぁぁ!
喜楽直人
恋愛
ヴァロー侯爵家の中で誰にも顧みられることなく育ったターシャは、学園で知り合ったギャレットと駆け落ちした。
しかし、国境を越えたある街でギャレットは病に倒れてしまう。
医者に見せると高価な薬さえ飲ませれば治る病気だと言われたが、家から持ち出した宝飾品やドレスはすでにここまでの旅費として使い切ってしまっていた。
相談に乗ってくれた医者が提案してくれたのは、静かに死を看取ることと、もう一つは貴族令嬢であったターシャが娼館へ自分を売ったお金を薬代とすることだった。
辛いお勤めに励んできたのは、愛する人との再会を夢見てだ。
しかし、自らも病を得てしまったナスタシアは愛する人が会いに来てくれなかった理由を想い、死の間際、その寸前まで、彼を想って涙するのだった。
「騙されたって、気づきなさいよ!!!」
そう叫んでベッドから飛び起きたターシャの身体は、十歳まで戻っていて──。
これは愛した人に騙されて死んだ令嬢が、どういう理由か死に戻って人生を取り戻すお話である。