上 下
8 / 8

しおりを挟む
 街でエドワードの姿を見た時、これは運命だと思った。
 私には婚約者がいたけれど、そんなのは関係なかった。

「エドワード! 私よ! メアリ! 覚えてる!?」

 エドワードは私を振り返ったが、その目には酷いくまが刻まれていた。
 
「あぁ……メアリ。久しぶり。随分大人っぽくなったね」

 彼は嬉しそうに笑ったが、その笑顔はどこか悲しそうで、そのままにしておくわけにはいかなかった。
 
「ねえエドワード。あなたのことが心配なの。私の家で少しだけ話さない?」

 私は昔からエドワードのことが好きだった。
 しかし私には決められた婚約者がいた。
 三か月後には結婚式を挙げて、正式な夫婦となる。
 だが、私は彼のことなんて全然好きにはなれなかった。

 エドワードは私が家に誘うと、おぼろげな目で頷く。

「ああ。もちろんだよメアリ」

 そんな状態の彼を誘惑することは簡単だった。
 優しく近づき、手に触れ、耳元で愛を囁くと、彼は泣き始めた。
 どうやら妻のことが愛せないらしく、愛していると嘘をつく自分に罪悪感が芽生えるのだという。

 私はそんな彼を理解してあげて、慰めてあげた。
 彼は私を必死になって抱いて、また泣いた。
 気づいたら朝になっていて、彼は不安げに私に言った。

「……もしかして僕達……」

 私は彼に抱き着いて、嬉しそうに言った。

「うん……やっと一つになれたの……ふふっ」

 それから私は婚約者に隠れて、エドワードと逢瀬を重ねた。
 彼も快く応じてくれて、私たちはどんどん親密になっていった。

 しかし、そんな日々も長くは続かなかった。
 婚約者は私たちが街で手を繋ぐ写真を武器に、婚約破棄を宣言した。
 言い逃れることも出来ない私は、逆に開き直り、婚約破棄を選んだ。

 両親は私を酷く責めた。
 しかし、私は何の心配もしていなかった。
 エドワードが今の妻と上手くいくわけがない。
 どうせすぐに離婚して、私を新しい妻に選ぶに決まっている。

 だから私はその時まで気長に待った。
 自信満々な私を見て、両親も考えがあると悟ったのか、次第に何も言わなくなった。
 全ては上手く進んでいた。
 あとはエドワードが離婚をするだけだった。

 ……しかしあと一歩のところで、エドワードは私を裏切った。 
 妻であるララの悲しむ姿を見て、私を捨てた。
 
 ララが自殺未遂をした後も、彼はララにつきっきりで全く会ってくれなくなった。
 その後、二人が離婚したと知った私は、意気揚々とエドワードに会いに行った。
 しかしそんな私に彼は残酷な言葉を告げる。

「もう君とは会わない。ただの幼馴染に戻ろう」

 どうやっても彼は私になびかなかった。
 諦めて家に帰ると、両親が何かを決意した表情で私を待っていた。
 父が私に静かに言う。

「メアリ。気が済んだか?」

 母も父に続いて口を開く。

「もうあなたにはうんざりよ。私たちの言うことも聞かないし、浮気相手の妻も自殺未遂したっていうじゃない……どれだけ私たちに迷惑をかければ気が済むの?」

 エドワードに夢中になっていて気が付かなかった。
 二人は私に対して娘に向けないような目を向けていた。
 嫌な予感が背中を走る。

「辺境の地に良い教会を見つけたんだ。お前はこれからそこで暮らせ。厳しいシスターが心から鍛え直してくれる」

「……そんな……嫌よ! そんなの嫌!」

「黙りなさいメアリ! 今まで自分勝手にやってきたあなたが悪いのよ!」

 頼りの綱のエドワードに捨てられ、おまけに教会送り。
 両親に詰め寄られ、私は絶望してその場に崩れ落ちた……
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ショート朗読シリーズ

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:284pt お気に入り:0

傲慢悪役令嬢は、優等生になりましたので

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,051pt お気に入り:4,401

[完結]自称前世の妻と、悪役令嬢の私

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:383

死が見える…

ホラー / 完結 24h.ポイント:2,172pt お気に入り:2

愛人が妊娠したようなので、離縁ですね

恋愛 / 完結 24h.ポイント:468pt お気に入り:830

処理中です...