2 / 9
2
しおりを挟む
「君がアリスだな。ユノだ、よろしく頼む」
聡明で優しいユノ様……きっとあの噂は間違いだったのですね。
王宮の応接間で私の前に立っているユノ様は、明らかに不機嫌そうでぶっきらぼうな口調です。
「は、はい!よろしくお願い致します!」
しかし殿下の手前、それを口にすることもできません。
私は精一杯のカーテシーをして、何とかその場を乗り切りました。
……自室に入ると、私は安堵の息をはきました。
ユノ様との初対面を何事もなく終えましたが、どっと疲れてしまいました。
今すぐにでもベッドに飛び込みたい気分ですが、生憎、五分後に部屋に来るようにとユノ様に言われています。
「大丈夫……やることは勉強と一緒……勉強と一緒……」
まるで魔女が唱える呪文のように、私は何度も呟きました。
気づけばすでに三分が経過しています。
「よし、行こう」
私は最後に大きく深呼吸をすると、自室を出ました。
……コンコン。
ユノ様の部屋の扉をノックすると、程なくして中からやはり不機嫌そうな声が聞こえてきました。
「アリスだな。入れ」
「失礼します……」
恐る恐る扉を開けて中に入ります。
ユノ様は暖炉の前の椅子に座り、手を温めていました。
傍の机の上にはコーンスープらしきものが置かれています。
「あ、お食事中でしたか?タイミングが悪くてごめんなさい……」
そう言って頭を下げましたが、ユノ様は答えませんでした。
代わりに机を顎で指しました。
「えっと……」
机を見ろってことだよね?
私は泥棒のようなゆっくりとした足取りで、机の間で歩を進めます。
それと同時に、ユノ様は話し始めました。
「お前はあのホーリー学園を首席で卒業した天才というじゃないか。そんなお前ならそこに置かれている公務も簡単だろう?昼までにやってこい……以上だ」
「……え?」
公務……それはユノ様がやるべきでは?
そう心の中で呟きましたが、口が裂けても声にすることはできません。
しかし、私の心中を悟ったようにユノ様が顔だけこちらに向けました。
「二度は言わないぞ」
「あ、は、はい!」
私は机の上の書類を無造作に掴みました。
そして逃げるように部屋を出て行きました。
心臓がドクドクと音を立てています。
それでも私は、自室までの廊下を一生懸命に走りました。
やっと扉が見えてきて、急いでそれを開けます。
「はぁ……はぁ……」
息が激しく乱れていました。
こんなに走ったのはいつ以来でしょうか。
私は呼吸を整えるために、ベッドに腰を掛けました。
「はぁ……ふぅ……」
やっと息は整いましたが、心は激しく揺れていました。
先ほどのユノ様の目……あれは愛する婚約者に向けるものではないような気がしました。
そう考えた時、私はハッとします。
「そっか……ユノ様は嫌々婚約したんだ……」
この婚約は国王様、つまりユノ様のお父様が決めたことです。
王太子殿下といえど、ユノ様が国王様に逆らえるとは思えません。
きっとユノ様は他に好きな人がいるのでしょう……そして私との婚約は望んだものではないのでしょう。
急に壁にぶち当たったように、目の前が暗くなりました。
この先どうしていけばいいのか全く分かりません。
とりあえず書類を置こうと、机に向かいました。
しかしそこで、写真立てに入れられた家族の写真が目に入りました。
瞬間、壁にヒビが入りました。
「違う……そうじゃない……」
確かにユノ様は私のことなんて興味ないのかもしれません。
しかしそれならば、私が興味を持ってもらえるように努力をすればいいのです。
幸運なことに、努力は得意中の得意です。
私はドサッと机の上に書類を置きました。
そして椅子に座り、写真をもう一度だけ見つめました。
「ありがとうございます。お父様、お母様」
聡明で優しいユノ様……きっとあの噂は間違いだったのですね。
王宮の応接間で私の前に立っているユノ様は、明らかに不機嫌そうでぶっきらぼうな口調です。
「は、はい!よろしくお願い致します!」
しかし殿下の手前、それを口にすることもできません。
私は精一杯のカーテシーをして、何とかその場を乗り切りました。
……自室に入ると、私は安堵の息をはきました。
ユノ様との初対面を何事もなく終えましたが、どっと疲れてしまいました。
今すぐにでもベッドに飛び込みたい気分ですが、生憎、五分後に部屋に来るようにとユノ様に言われています。
「大丈夫……やることは勉強と一緒……勉強と一緒……」
まるで魔女が唱える呪文のように、私は何度も呟きました。
気づけばすでに三分が経過しています。
「よし、行こう」
私は最後に大きく深呼吸をすると、自室を出ました。
……コンコン。
ユノ様の部屋の扉をノックすると、程なくして中からやはり不機嫌そうな声が聞こえてきました。
「アリスだな。入れ」
「失礼します……」
恐る恐る扉を開けて中に入ります。
ユノ様は暖炉の前の椅子に座り、手を温めていました。
傍の机の上にはコーンスープらしきものが置かれています。
「あ、お食事中でしたか?タイミングが悪くてごめんなさい……」
そう言って頭を下げましたが、ユノ様は答えませんでした。
代わりに机を顎で指しました。
「えっと……」
机を見ろってことだよね?
私は泥棒のようなゆっくりとした足取りで、机の間で歩を進めます。
それと同時に、ユノ様は話し始めました。
「お前はあのホーリー学園を首席で卒業した天才というじゃないか。そんなお前ならそこに置かれている公務も簡単だろう?昼までにやってこい……以上だ」
「……え?」
公務……それはユノ様がやるべきでは?
そう心の中で呟きましたが、口が裂けても声にすることはできません。
しかし、私の心中を悟ったようにユノ様が顔だけこちらに向けました。
「二度は言わないぞ」
「あ、は、はい!」
私は机の上の書類を無造作に掴みました。
そして逃げるように部屋を出て行きました。
心臓がドクドクと音を立てています。
それでも私は、自室までの廊下を一生懸命に走りました。
やっと扉が見えてきて、急いでそれを開けます。
「はぁ……はぁ……」
息が激しく乱れていました。
こんなに走ったのはいつ以来でしょうか。
私は呼吸を整えるために、ベッドに腰を掛けました。
「はぁ……ふぅ……」
やっと息は整いましたが、心は激しく揺れていました。
先ほどのユノ様の目……あれは愛する婚約者に向けるものではないような気がしました。
そう考えた時、私はハッとします。
「そっか……ユノ様は嫌々婚約したんだ……」
この婚約は国王様、つまりユノ様のお父様が決めたことです。
王太子殿下といえど、ユノ様が国王様に逆らえるとは思えません。
きっとユノ様は他に好きな人がいるのでしょう……そして私との婚約は望んだものではないのでしょう。
急に壁にぶち当たったように、目の前が暗くなりました。
この先どうしていけばいいのか全く分かりません。
とりあえず書類を置こうと、机に向かいました。
しかしそこで、写真立てに入れられた家族の写真が目に入りました。
瞬間、壁にヒビが入りました。
「違う……そうじゃない……」
確かにユノ様は私のことなんて興味ないのかもしれません。
しかしそれならば、私が興味を持ってもらえるように努力をすればいいのです。
幸運なことに、努力は得意中の得意です。
私はドサッと机の上に書類を置きました。
そして椅子に座り、写真をもう一度だけ見つめました。
「ありがとうございます。お父様、お母様」
応援ありがとうございます!
35
お気に入りに追加
98
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる