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パーティー会場は名家の公爵家の大広間で行われていた。
どうやら仮面舞踏会というものらしく、皆が目だけ隠れた仮面をつけ、参加していた。
しかしぽつりぽつりと仮面を取って話す人もいたので、強制ではないらしい。
私もロロンと共に、仮面をつけて、会場に足を踏み入れる。
会場の中央では貴族たちが踊り、それを彩るようにオーケストラの演奏が常時流れていた。
私は初めて参加する変わったパーティーに度肝を抜かれながらも、すぐに平静さを取り戻した。
「ロロン。それで、私に会わせたい人って……?」
ロロンはここに来る馬車の中で、私に会わせたい人がいるのだと言った。
「はい。あちらにおられます……あの隅に立っている男性です」
そう言うと、ロロンは私の前を案内するように歩いた。
私も人の波を縫いながら、遅れないように彼の後をついていく。
目当ての男性の前までくると、彼はロロンを見て言った。
「ロロンさん。今日は僕の我がままを聞いて頂きありがとうございます」
「いえいえ、この老体に出来ることなど、何でもいたします。それに私はこちらのお嬢様の世話係ですので。彼女のためならば火の海にも飛び込みましょう」
「ははっ、それは何とも頼もしい。ではこちらがあの……」
「はい」
名も知らぬ男性の眼光が私に向けられる。
私は小さく息を吸うと、仮面をそっと取った。
「初めまして。クラウディア男爵家のエレーナと申します」
はっきりとそう言うと、彼も仮面を取る。
絵に描いたような美しい顔に思わず絶句した。
「僕は隣国に住む、ライネルと申します。ロロンさんに頼んで、あなたに会いにきたのです」
「……私に?」
やっとのこと言葉が出たが、私は困惑気味。
見た目からして貴族だということは分かるが、どうして隣国の貴族が私に会いにきたのだろうか。
私が口を開きかけるも、先に言葉を放ったのはロロンだった。
「エレーナ様。出過ぎた真似かもしれませんが、私がライネル様に打診をしたのです。あなた様に婚約者ができると聞いた時、このような……クララ様に取られてしまう事態を想定して、早めに手を打っておりました」
判然としない答えに私は目を細める。
一体何を打診したというのか。
今度はライネルが口を開く。
「僕もちょうど婚約者を探していて……君のような真面目で強い女性がいると聞いて、すぐに会うことにした」
「ん? 婚約者? ま、まさかロロン……」
ロロンは私を見て、微かに笑みを浮かべると頷いた。
「ええ、エレーナ様に縁談を持ってまいりました」
「な……」
本日二回目の絶句をしてしまう。
ライネルはそんな私を心配したのか、不安げな目を向ける。
「エレーナさん。僕は本気です。あなたの話を聞いた時、そして今日あなたを見た時……あなたを婚約者にするべきだと思いました。僕の直観がそう告げています」
私は慎重に言葉を選ぶ。
「しかし、直感というものは時として間違いを犯します。このような高揚感に包まれた会場なら尚の事」
「ふふっ、ええ、その通りです。では、次はもっと静かな場所でお会いしませんか? 場所はあなたの直観で決めて頂けませんか?」
なるほど……ロロンが彼と縁談を取り付けた理由が分かった気がした。
皮肉めいた私の言葉にも冷静な対応、そして明らかにただの貴族ではない雰囲気。
興味を煽るライネルという男は、私の婚約者にピッタリだった。
「……かしこまりました」
私は再び仮面をつけた。
どうやら仮面舞踏会というものらしく、皆が目だけ隠れた仮面をつけ、参加していた。
しかしぽつりぽつりと仮面を取って話す人もいたので、強制ではないらしい。
私もロロンと共に、仮面をつけて、会場に足を踏み入れる。
会場の中央では貴族たちが踊り、それを彩るようにオーケストラの演奏が常時流れていた。
私は初めて参加する変わったパーティーに度肝を抜かれながらも、すぐに平静さを取り戻した。
「ロロン。それで、私に会わせたい人って……?」
ロロンはここに来る馬車の中で、私に会わせたい人がいるのだと言った。
「はい。あちらにおられます……あの隅に立っている男性です」
そう言うと、ロロンは私の前を案内するように歩いた。
私も人の波を縫いながら、遅れないように彼の後をついていく。
目当ての男性の前までくると、彼はロロンを見て言った。
「ロロンさん。今日は僕の我がままを聞いて頂きありがとうございます」
「いえいえ、この老体に出来ることなど、何でもいたします。それに私はこちらのお嬢様の世話係ですので。彼女のためならば火の海にも飛び込みましょう」
「ははっ、それは何とも頼もしい。ではこちらがあの……」
「はい」
名も知らぬ男性の眼光が私に向けられる。
私は小さく息を吸うと、仮面をそっと取った。
「初めまして。クラウディア男爵家のエレーナと申します」
はっきりとそう言うと、彼も仮面を取る。
絵に描いたような美しい顔に思わず絶句した。
「僕は隣国に住む、ライネルと申します。ロロンさんに頼んで、あなたに会いにきたのです」
「……私に?」
やっとのこと言葉が出たが、私は困惑気味。
見た目からして貴族だということは分かるが、どうして隣国の貴族が私に会いにきたのだろうか。
私が口を開きかけるも、先に言葉を放ったのはロロンだった。
「エレーナ様。出過ぎた真似かもしれませんが、私がライネル様に打診をしたのです。あなた様に婚約者ができると聞いた時、このような……クララ様に取られてしまう事態を想定して、早めに手を打っておりました」
判然としない答えに私は目を細める。
一体何を打診したというのか。
今度はライネルが口を開く。
「僕もちょうど婚約者を探していて……君のような真面目で強い女性がいると聞いて、すぐに会うことにした」
「ん? 婚約者? ま、まさかロロン……」
ロロンは私を見て、微かに笑みを浮かべると頷いた。
「ええ、エレーナ様に縁談を持ってまいりました」
「な……」
本日二回目の絶句をしてしまう。
ライネルはそんな私を心配したのか、不安げな目を向ける。
「エレーナさん。僕は本気です。あなたの話を聞いた時、そして今日あなたを見た時……あなたを婚約者にするべきだと思いました。僕の直観がそう告げています」
私は慎重に言葉を選ぶ。
「しかし、直感というものは時として間違いを犯します。このような高揚感に包まれた会場なら尚の事」
「ふふっ、ええ、その通りです。では、次はもっと静かな場所でお会いしませんか? 場所はあなたの直観で決めて頂けませんか?」
なるほど……ロロンが彼と縁談を取り付けた理由が分かった気がした。
皮肉めいた私の言葉にも冷静な対応、そして明らかにただの貴族ではない雰囲気。
興味を煽るライネルという男は、私の婚約者にピッタリだった。
「……かしこまりました」
私は再び仮面をつけた。
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