離縁して幸せになります

杉本凪咲

文字の大きさ
上 下
2 / 8

しおりを挟む
 パーティー会場は名家の公爵家の大広間で行われていた。
 どうやら仮面舞踏会というものらしく、皆が目だけ隠れた仮面をつけ、参加していた。
 しかしぽつりぽつりと仮面を取って話す人もいたので、強制ではないらしい。
 私もロロンと共に、仮面をつけて、会場に足を踏み入れる。

 会場の中央では貴族たちが踊り、それを彩るようにオーケストラの演奏が常時流れていた。
 私は初めて参加する変わったパーティーに度肝を抜かれながらも、すぐに平静さを取り戻した。

「ロロン。それで、私に会わせたい人って……?」

 ロロンはここに来る馬車の中で、私に会わせたい人がいるのだと言った。
 
「はい。あちらにおられます……あの隅に立っている男性です」

 そう言うと、ロロンは私の前を案内するように歩いた。
 私も人の波を縫いながら、遅れないように彼の後をついていく。
 目当ての男性の前までくると、彼はロロンを見て言った。

「ロロンさん。今日は僕の我がままを聞いて頂きありがとうございます」

「いえいえ、この老体に出来ることなど、何でもいたします。それに私はこちらのお嬢様の世話係ですので。彼女のためならば火の海にも飛び込みましょう」

「ははっ、それは何とも頼もしい。ではこちらがあの……」

「はい」

 名も知らぬ男性の眼光が私に向けられる。
 私は小さく息を吸うと、仮面をそっと取った。

「初めまして。クラウディア男爵家のエレーナと申します」

 はっきりとそう言うと、彼も仮面を取る。
 絵に描いたような美しい顔に思わず絶句した。

「僕は隣国に住む、ライネルと申します。ロロンさんに頼んで、あなたに会いにきたのです」

「……私に?」
  
 やっとのこと言葉が出たが、私は困惑気味。
 見た目からして貴族だということは分かるが、どうして隣国の貴族が私に会いにきたのだろうか。
 私が口を開きかけるも、先に言葉を放ったのはロロンだった。

「エレーナ様。出過ぎた真似かもしれませんが、私がライネル様に打診をしたのです。あなた様に婚約者ができると聞いた時、このような……クララ様に取られてしまう事態を想定して、早めに手を打っておりました」

 判然としない答えに私は目を細める。
 一体何を打診したというのか。
 今度はライネルが口を開く。

「僕もちょうど婚約者を探していて……君のような真面目で強い女性がいると聞いて、すぐに会うことにした」

「ん? 婚約者? ま、まさかロロン……」

 ロロンは私を見て、微かに笑みを浮かべると頷いた。

「ええ、エレーナ様に縁談を持ってまいりました」

「な……」

 本日二回目の絶句をしてしまう。
 ライネルはそんな私を心配したのか、不安げな目を向ける。

「エレーナさん。僕は本気です。あなたの話を聞いた時、そして今日あなたを見た時……あなたを婚約者にするべきだと思いました。僕の直観がそう告げています」

 私は慎重に言葉を選ぶ。

「しかし、直感というものは時として間違いを犯します。このような高揚感に包まれた会場なら尚の事」

「ふふっ、ええ、その通りです。では、次はもっと静かな場所でお会いしませんか? 場所はあなたの直観で決めて頂けませんか?」

 なるほど……ロロンが彼と縁談を取り付けた理由が分かった気がした。
 皮肉めいた私の言葉にも冷静な対応、そして明らかにただの貴族ではない雰囲気。
 興味を煽るライネルという男は、私の婚約者にピッタリだった。

「……かしこまりました」

 私は再び仮面をつけた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

継母の心得

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:84,453pt お気に入り:23,430

【完結】殿下! それは恋ではありません、悪役令嬢の呪いです。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:149pt お気に入り:2,514

露雫流魂-ルーナーリィウフン-

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:576pt お気に入り:1

アストリアとアタナーズ〜若き皇帝陛下は、幼い妹殿下を愛する〜

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:158

アメイジングな恋をあなたと

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,661pt お気に入り:1,288

悪役令嬢は、友の多幸を望むのか

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,860pt お気に入り:37

最愛の人がいるのでさようなら

恋愛 / 完結 24h.ポイント:6,256pt お気に入り:666

処理中です...