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クララは予想外とでも言いたげに顔を歪めた。
どうやら彼女は私の婚約者であるライネルをディナーに誘ったらしい。
常識はずれな行動に私は思わず、声に怒気を込める。
「クララ。あなたにはバートっていう婚約者がいるでしょう。私のライネルにもう構わないで」
「私のライネル?」
クララはきょとんとした顔になり、すっと一歩近づいてくる。
不気味な足取りに、緊張感が走った。
「どうしてお姉ちゃんのライネルさんなのぉ? そんなの分からないよぉ? ねえ、ライネルさん?」
クララが妖艶な目つきをライネルに向けた。
しかし彼は動揺する素振りもなく、淡々と告げる。
「僕はもうエレーナの婚約者だ。つまり彼女のものだ。他の誰のものでもない。クララさん、君が何を考えているのか測りかねるが、これだけは言っておく。僕の心はエレーナから離れることは決してない」
「え?」
クララは短くそう言うと、素早くライネルに詰め寄った。
そして自分の胸を押し当てると、潤んだ目で上目遣いに彼を見上げた。
「ライネルさん。あなたのこと、好きになってしまったんです。一晩だけでいいです……どうか私にあなたの愛をください」
「いい加減にして!!!」
生まれて初めてこんなに大きな声を出した。
クララがびっくりしてライネルから離れた。
私は彼女を睨みつけると、言葉を続ける。
「クララ。彼は私の婚約者なの。あなたに渡すわけがないでしょう。それにあなたにはバートがいる。彼を大事にしなさい。さもないといずれ後悔することになるわよ」
クララは小さく舌打ちをして私を睨み返した。
「お姉ちゃんこそ、ライネルさんには私の方がピッタリだって分からないの? お姉ちゃんみたいなお堅い人より、私の方が彼を楽しませてあげられるわ!」
「いや、そんなことはないよ」
ライネルがふいに口を開く。
「エレーナは確かに真面目な女性だけど、時には冗談も言うし、なにより僕のことを一番に考えてくれる優しい人さ。そんな人と一緒にいて楽しくないわけがない。むしろクララ、君の方が僕は楽しくない。自分勝手で傲慢で、おまけに体の関係まで迫ってくる……君は本当に貴族令嬢なのかい?」
ライネルにコテンパンに言われて、クララはカッと顔を赤くした。
彼は苦笑すると、私の手を引く。
「じゃあ僕達は行くよ。じゃあねクララ」
クララに背を向けて歩き出した私だが、とても振り返る気にはなれなかった。
何も起こらなければいいが……今はそう願うばかりである。
どうやら彼女は私の婚約者であるライネルをディナーに誘ったらしい。
常識はずれな行動に私は思わず、声に怒気を込める。
「クララ。あなたにはバートっていう婚約者がいるでしょう。私のライネルにもう構わないで」
「私のライネル?」
クララはきょとんとした顔になり、すっと一歩近づいてくる。
不気味な足取りに、緊張感が走った。
「どうしてお姉ちゃんのライネルさんなのぉ? そんなの分からないよぉ? ねえ、ライネルさん?」
クララが妖艶な目つきをライネルに向けた。
しかし彼は動揺する素振りもなく、淡々と告げる。
「僕はもうエレーナの婚約者だ。つまり彼女のものだ。他の誰のものでもない。クララさん、君が何を考えているのか測りかねるが、これだけは言っておく。僕の心はエレーナから離れることは決してない」
「え?」
クララは短くそう言うと、素早くライネルに詰め寄った。
そして自分の胸を押し当てると、潤んだ目で上目遣いに彼を見上げた。
「ライネルさん。あなたのこと、好きになってしまったんです。一晩だけでいいです……どうか私にあなたの愛をください」
「いい加減にして!!!」
生まれて初めてこんなに大きな声を出した。
クララがびっくりしてライネルから離れた。
私は彼女を睨みつけると、言葉を続ける。
「クララ。彼は私の婚約者なの。あなたに渡すわけがないでしょう。それにあなたにはバートがいる。彼を大事にしなさい。さもないといずれ後悔することになるわよ」
クララは小さく舌打ちをして私を睨み返した。
「お姉ちゃんこそ、ライネルさんには私の方がピッタリだって分からないの? お姉ちゃんみたいなお堅い人より、私の方が彼を楽しませてあげられるわ!」
「いや、そんなことはないよ」
ライネルがふいに口を開く。
「エレーナは確かに真面目な女性だけど、時には冗談も言うし、なにより僕のことを一番に考えてくれる優しい人さ。そんな人と一緒にいて楽しくないわけがない。むしろクララ、君の方が僕は楽しくない。自分勝手で傲慢で、おまけに体の関係まで迫ってくる……君は本当に貴族令嬢なのかい?」
ライネルにコテンパンに言われて、クララはカッと顔を赤くした。
彼は苦笑すると、私の手を引く。
「じゃあ僕達は行くよ。じゃあねクララ」
クララに背を向けて歩き出した私だが、とても振り返る気にはなれなかった。
何も起こらなければいいが……今はそう願うばかりである。
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