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 こんな人生を送るのなら、目に釘を刺した方がマシ。
 汚い小屋の薄汚れたベッドに眠る私に、姉のティアナはそう吐き捨てた。

「ウェンディ。あなたと血が繋がっていることが恥ずかしくてたまらないわ。どうしてあなたみたいな無能な子が生まれたのかしらね?」

「お姉様。所詮鷹の子は鷹、蛙の子は蛙です。私を無能というのなら、私を産んだ両親……両親から生まれたお姉様も無能ということになりますが?」

「は?」

 姉は美しい顔を精一杯に歪ませて、私の腹を思い切り殴った。
 強い痛みが走るが、私は呻き声の一つすら上げない。
 生憎、慣れているので。

「ふっ……せいぜいそうやって生意気言ってるといいわ。私はあんたなんかとは違って、幸せになるのだから。ふふっ」

 姉は第三王子の婚約者だった。
 姉は最後にそう言い残すと、足早に小屋を出て行った。
 私は明日が来ないことを祈りながら、そっと目を閉じた。

 ……まだ幼い私を、両親は教育漬けにした。
 来る日も来る日も、勉強勉強と、おおよそ貴族令嬢のそれとはかけ離れた生活を強いられた。
 
 そのかいあって、私の脳みそにはあらゆる知識が詰め込まれた。
 両親は手を打って喜び、私に家のことを任せるようになった。
 
 八歳の時、私は両親の思惑に気づいた。
 二人は私をこの家の使用人の如く……いや、それ以上に良い働きをする歯車にしたかったのだ。
 
 私が家の領地経営や会計、日常的な家事まで行うと、元いた使用人たちは次々に解雇されていった。
 しかしその分の人件費が私に向かうことはなく、両親は毎日のように遊び狂った。

 姉は両親と一緒になって、私を常に見下していた。
 そして学園にも通ったことのない私に嫉妬しているのか、私に暴力を振るうようになった。
 同情はする、学園のテストで三割も取れない興味深い頭をしているのだから。

 私の寝床は家の横に建てられた古い小屋。
 以前牛を飼っていたその場所に、私はベッドと机だけ与えられて生活していた。
 食事は基本一日一食。
 ほとんどが残飯だった。

 私は何度か脱走しようと試みたが、全て失敗に終わった。
 狡猾な母が私が脱走できないように、常に警備兵を家の周りに巡回させていたから。
 馬鹿な父や姉とは違い、本当に恐ろしいのは母である気がした。

 私はもう諦めていた。
 こんな人生に価値なんてないと。
 このまま奴隷のように生涯を終えるのだと。

 しかし解放は突然に訪れる。
 十六歳の誕生日を迎えたその日だった。

「ウェンディ。この家からお前を追放する。さっさと出ていけ」

 父は早朝にも関わらずそう言うと、私を小屋から出した。
 小屋の前には馬車が停まっていて、近くに立つ母と姉が嬉しそうに私を見ていた。

「お父様。私はどこへ?」

「ふっ……ベルマーレ家だ。お前も知っているだろう」

 ベルマーレ家とは親戚の家のことで、没落寸前だと聞いたことがあった。

「これからはそこで暮らすんだ。底辺同士、お似合いだな」

 私は返事を返すこともなく馬車に乗り込んだ。
 父が扉を閉めると、馬車は走りだす。
 窓を見ると、家族が手を振っていた。
 心からの笑顔と共に。

「本当に皆馬鹿ね」

 訂正する。
 母は恐ろしくなんてない、父や姉と同じただの馬鹿だ。
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