1 / 8
1
しおりを挟む
こんな人生を送るのなら、目に釘を刺した方がマシ。
汚い小屋の薄汚れたベッドに眠る私に、姉のティアナはそう吐き捨てた。
「ウェンディ。あなたと血が繋がっていることが恥ずかしくてたまらないわ。どうしてあなたみたいな無能な子が生まれたのかしらね?」
「お姉様。所詮鷹の子は鷹、蛙の子は蛙です。私を無能というのなら、私を産んだ両親……両親から生まれたお姉様も無能ということになりますが?」
「は?」
姉は美しい顔を精一杯に歪ませて、私の腹を思い切り殴った。
強い痛みが走るが、私は呻き声の一つすら上げない。
生憎、慣れているので。
「ふっ……せいぜいそうやって生意気言ってるといいわ。私はあんたなんかとは違って、幸せになるのだから。ふふっ」
姉は第三王子の婚約者だった。
姉は最後にそう言い残すと、足早に小屋を出て行った。
私は明日が来ないことを祈りながら、そっと目を閉じた。
……まだ幼い私を、両親は教育漬けにした。
来る日も来る日も、勉強勉強と、おおよそ貴族令嬢のそれとはかけ離れた生活を強いられた。
そのかいあって、私の脳みそにはあらゆる知識が詰め込まれた。
両親は手を打って喜び、私に家のことを任せるようになった。
八歳の時、私は両親の思惑に気づいた。
二人は私をこの家の使用人の如く……いや、それ以上に良い働きをする歯車にしたかったのだ。
私が家の領地経営や会計、日常的な家事まで行うと、元いた使用人たちは次々に解雇されていった。
しかしその分の人件費が私に向かうことはなく、両親は毎日のように遊び狂った。
姉は両親と一緒になって、私を常に見下していた。
そして学園にも通ったことのない私に嫉妬しているのか、私に暴力を振るうようになった。
同情はする、学園のテストで三割も取れない興味深い頭をしているのだから。
私の寝床は家の横に建てられた古い小屋。
以前牛を飼っていたその場所に、私はベッドと机だけ与えられて生活していた。
食事は基本一日一食。
ほとんどが残飯だった。
私は何度か脱走しようと試みたが、全て失敗に終わった。
狡猾な母が私が脱走できないように、常に警備兵を家の周りに巡回させていたから。
馬鹿な父や姉とは違い、本当に恐ろしいのは母である気がした。
私はもう諦めていた。
こんな人生に価値なんてないと。
このまま奴隷のように生涯を終えるのだと。
しかし解放は突然に訪れる。
十六歳の誕生日を迎えたその日だった。
「ウェンディ。この家からお前を追放する。さっさと出ていけ」
父は早朝にも関わらずそう言うと、私を小屋から出した。
小屋の前には馬車が停まっていて、近くに立つ母と姉が嬉しそうに私を見ていた。
「お父様。私はどこへ?」
「ふっ……ベルマーレ家だ。お前も知っているだろう」
ベルマーレ家とは親戚の家のことで、没落寸前だと聞いたことがあった。
「これからはそこで暮らすんだ。底辺同士、お似合いだな」
私は返事を返すこともなく馬車に乗り込んだ。
父が扉を閉めると、馬車は走りだす。
窓を見ると、家族が手を振っていた。
心からの笑顔と共に。
「本当に皆馬鹿ね」
訂正する。
母は恐ろしくなんてない、父や姉と同じただの馬鹿だ。
汚い小屋の薄汚れたベッドに眠る私に、姉のティアナはそう吐き捨てた。
「ウェンディ。あなたと血が繋がっていることが恥ずかしくてたまらないわ。どうしてあなたみたいな無能な子が生まれたのかしらね?」
「お姉様。所詮鷹の子は鷹、蛙の子は蛙です。私を無能というのなら、私を産んだ両親……両親から生まれたお姉様も無能ということになりますが?」
「は?」
姉は美しい顔を精一杯に歪ませて、私の腹を思い切り殴った。
強い痛みが走るが、私は呻き声の一つすら上げない。
生憎、慣れているので。
「ふっ……せいぜいそうやって生意気言ってるといいわ。私はあんたなんかとは違って、幸せになるのだから。ふふっ」
姉は第三王子の婚約者だった。
姉は最後にそう言い残すと、足早に小屋を出て行った。
私は明日が来ないことを祈りながら、そっと目を閉じた。
……まだ幼い私を、両親は教育漬けにした。
来る日も来る日も、勉強勉強と、おおよそ貴族令嬢のそれとはかけ離れた生活を強いられた。
そのかいあって、私の脳みそにはあらゆる知識が詰め込まれた。
両親は手を打って喜び、私に家のことを任せるようになった。
八歳の時、私は両親の思惑に気づいた。
二人は私をこの家の使用人の如く……いや、それ以上に良い働きをする歯車にしたかったのだ。
私が家の領地経営や会計、日常的な家事まで行うと、元いた使用人たちは次々に解雇されていった。
しかしその分の人件費が私に向かうことはなく、両親は毎日のように遊び狂った。
姉は両親と一緒になって、私を常に見下していた。
そして学園にも通ったことのない私に嫉妬しているのか、私に暴力を振るうようになった。
同情はする、学園のテストで三割も取れない興味深い頭をしているのだから。
私の寝床は家の横に建てられた古い小屋。
以前牛を飼っていたその場所に、私はベッドと机だけ与えられて生活していた。
食事は基本一日一食。
ほとんどが残飯だった。
私は何度か脱走しようと試みたが、全て失敗に終わった。
狡猾な母が私が脱走できないように、常に警備兵を家の周りに巡回させていたから。
馬鹿な父や姉とは違い、本当に恐ろしいのは母である気がした。
私はもう諦めていた。
こんな人生に価値なんてないと。
このまま奴隷のように生涯を終えるのだと。
しかし解放は突然に訪れる。
十六歳の誕生日を迎えたその日だった。
「ウェンディ。この家からお前を追放する。さっさと出ていけ」
父は早朝にも関わらずそう言うと、私を小屋から出した。
小屋の前には馬車が停まっていて、近くに立つ母と姉が嬉しそうに私を見ていた。
「お父様。私はどこへ?」
「ふっ……ベルマーレ家だ。お前も知っているだろう」
ベルマーレ家とは親戚の家のことで、没落寸前だと聞いたことがあった。
「これからはそこで暮らすんだ。底辺同士、お似合いだな」
私は返事を返すこともなく馬車に乗り込んだ。
父が扉を閉めると、馬車は走りだす。
窓を見ると、家族が手を振っていた。
心からの笑顔と共に。
「本当に皆馬鹿ね」
訂正する。
母は恐ろしくなんてない、父や姉と同じただの馬鹿だ。
応援ありがとうございます!
36
お気に入りに追加
234
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる