異世界転移物語

月夜

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移ろいゆく星たち

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「要するに、自転軸が二万六千年周期でふらついているため、北極星もどんどん別の星に変わっていくんです。今の北極星はこぐま座のアルファ星なんですけど、少しずつ移動していて真北からずれていきます」

「星が移動するんですか？」

「実際に動くってことじゃなくて、軸のほうがずれることによって、見かけ上星のほうが動くように見えるってことかな」

「なんとなくは分かる」

    ドクターが応じる。

「二万六千年後には、またこぐま座アルファが北極星になっているわけですが、その間には、はくちょう座の一等星デネブやこと座の一等星ベガも北極星になるんですよ」

「えっ！そうなんですか？   真北からあんなに離れているのに……」

「ええ。それだけ自転軸のふらつきは大きいってことですね」

「宇宙って本当スケール大きいですね」

    桂坂さんが感慨深げにつぶやく。理科さんは満足そうにうなずいた後、姿勢を正した。

「本題はここからよ。今はこぐま座アルファが北極星って言ったけど、現代であるはずの位置と比べるとかなりずれていたの。
計算してみると、およそ二千年前の位置だということが判明したの」

「何だって！」

    珍しくスカウトさんが大声を上げた。

「それはつまり今が二千年前ってことか？」

「そう考えてもらったらいいと思う。ただ、実はそうとも言い切れないのよね……」

    理科さんは少し歯切れが悪い。

「それはどういうことですか」

    保育士さんが訊きなおした。

「北極星のデータだけ見れば確かにそうなんだけど、月とか惑星とか他の恒星の動きでちょっと気になるんです。まだ詳しく調べてみないと分からないから、今はまだなんとも言えないけど。私の勘が何かに反応してる状態」

    雲をつかむような話だ。

「ちょっと待ってくれ」

    ドクターが何か思いついたのか、急に口を挟んだ。

「北極星が二万六千年周期で入れ替わるってことは分かったが、それって……つまりもっと大昔やずっと先の未来である可能性もあるってことだよな？」

「あっ」

    僕は思わず声を上げてしまった。そこには全然思い至ってなかったからだ。

「そうね。その通りよ。だから、今がいつかなんて本当は全然分からないの」

    理科さんが少しばかり諦めの混じった表情でうなずく。皆の間に、なーんだという変な奇妙な安心感が漂った気がした。

「でもここが地球であることは確かなんですよね？」

    自転車君が理科さんに確認する。

「それも断定は出来ないわ。太陽や月、惑星や星座の配置を見る限り、地球とほぼ同じだと思えるけど、あくまで可能性が高いだけ。決めつけるのは危険な気もする」

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