異世界転移物語

月夜

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この世界について

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「寝てなくていいんですか!?」

 金田さんは笑い返そうとしたようだが、うまく笑えず、ちょっとひきつったような不格好な笑顔を見せた。もしかして相当苦しいのではないか。

「ああ、大丈夫だ」

「ちょっと、全然大丈夫じゃないですよ!」

 桂坂さんが慌てて金田さんの身体を支える。金田さんは全身から声をしぼり出すように一言言った。

「君たちと一緒に星を見させてくれないか」

 僕らは顔を見合わせた。こんな状態じゃ、無理しないで家でゆっくり休んでもらったほうがよくはないか? みんなそう考えているのは明らかだった。目線を交わしながらお互いの意識確認は出来ていたにもかかわらず、誰も金田さんにそれを告げられなかったのは、金田さんの口調に真摯なものを感じたからに他ならない。

 結局、地面にシートを敷いて、金田さんにはそこで横になってもらうことにした。今は夜は少し涼しくなり始めた季節だが、寒くて凍えるようなことはない。

「本当に素晴らしい夜空だよ」

 金田さんは横になって星を仰ぎ見ながら、再び率直な感想を漏らす。

「ああ、こうしていると随分楽だ。あ、こっちのことは構わずに、健太たちは話を続けてくれ」

 あまり楽そうには見えないが、本人がそれでいいと言うのなら何も言うまい。

「続けるって言ったって、特に特定の話題があったわけじゃありませんけどね」

「それなら『この世界について』のテーマで話したらどうだろう。今までも散々話し合ってきたテーマではあるけれど、状況は刻々と変化しているし、今までのことを整理する機会にもなる」

 金田さんの提案に「それはいいかも」と理科さんが賛同する。僕は思ったことを素直に出してみた。

「この世界か……。考えれば考えるほど謎が深まるばかりのような気がしますね。僕は今までノートをつけて、この世界で起こったことを記録し続けてきたんですが、それを見返してもまるで分からないんですから」

 同日同時刻に転移することからして大きな謎だし、その後の時間のズレ、抜けられない森、消えた動物や鳥……。疑問を数え上げればキリがない。

 僕の吐露に直接反応示した人はだれもいなかったが、陽子さんが違うアプローチを披露した。

「私はね、この世界についてもすごく興味あるんだけど、一番知りたいのはなんで私が選ばれたのかってことよ」

 陽子さんは一呼吸置く。

「なぜ私なの? 私は他の人と何が違うの? そんな疑問を胸に抱いたまま、毎日の暮らしを過ごしてきた。その理由は今でも分からないし、そもそも選ばれることが幸運か不運かも分からない。いずれ地球は滅びるけど、おそらく何十億年も後。その時にはもちろん私たちはいないのだけれど、それじゃあ人間は何のために生まれてきたの?」

 そう言って陽子さんは笑った。
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