悪役令嬢の品格 ~悪役令嬢を演じてきましたが、今回は少し違うようです~

幸路ことは

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学園編 17歳

88 王子様とデートをしましょう

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 それから一週間が過ぎ、シルヴィオとは学校でジークたちを交えてお茶をしたり、茶会で会ったりと交流を深めていた。最近はクリスが必ず茶会に同行するようになったので、高確率で二人は笑顔だが机の下で足を蹴りあっているような会話を交わしている。エリーナはそれがお遊びだと知っているため、特に口出しをせず微笑ましく見守っていた。

 そして休日をのんびりサロンで読書をして過ごしていたエリーナの下に、苦りきった顔のクリスがやって来た。その手には一通の手紙があり、それだけで状況が読めてくる。テーブルの上に手紙を投げ置き、エリーナの向かいにあるソファーに座って不服そうな顔を向けた。

「シルヴィオ殿下からデートのお誘いだよ。もう疲れたから、軽く相手をしてあげて」

 声が毒々しく怒りは収まっていないようだ。クリスに疲れたと言わせるとは、いったいどんな応酬があったのか。そんなにそりが合わないのかしらと思いつつ封筒を開けて手紙を出す。目を通せばクリスが言う通りデートのお誘いだった。しかも日にちは明日だ。

「王都の観光ですって」

「うん……僕も付いていきたかったよ」

 それはさすがにやめてほしい。

「またクリスとも行ってあげるから……それに、殿下とお付き合いするつもりなんてないから安心して」

「……ごめん。別に、エリーが彼のことが好きで西の国に嫁ぎたいなら、止めはしないよ。ただ、西の国は遠いから簡単に会えないと思うとさ」

 裏を返せば、国内であれば頻繁に会うつもりだったのか。結婚した妹と。

「大丈夫よ、本当にそんな気はないから。シルヴィオ殿下はクリスのこと気に入っていらっしゃるのだから、もっと普通に接すればいいのに」

「どこが? 会えばチクチクと痛いところばかりつかれるんだけど」

「それは……捻くれた愛情表現よ」

 いい言葉が見つからなかったので、適当に言葉をかけておく。少し意地悪なところがあるのは、エリーナも感じ取っていた。

「だから、明日は厳重に装備していってね」

 ドレスのポケットには防犯用の笛、手持ちの小さなカバンには催涙ガス玉を……本当に使ったら捕まりそうなので、何も起こらないことを願うエリーナだ。



 そして翌日。王族専用馬車で迎えが来て、エリーナはシルヴィオにエスコートをされて馬車に乗り込んだ。見送りに玄関先まで出たクリスが、

「エリーナに手を出したらただじゃ済まさない」

 と念入りに釘を刺していた。
 馬車はゆっくり動き始め、最高の乗り心地で道を進んでいく。今回は王都の歴史に関するところを見て回るらしい。ラウルの授業の成果が発揮できそうだ。

「ほんと、クリス殿は過保護だね」

 からかい甲斐があると、おもしろそうに笑って右手で頬にかかっていた髪を耳にかけた。右耳についているピアスが揺れる。変わった形をしたピアスに視線を奪われ、ゆらゆら揺れているそれを何となく見ていた。

「気になるかい?」

 その視線に気づいたシルヴィオは軽くピアスの飾りに触れて持ち上げた。金の輪が二つ繋がっており、小さな輪の下に大きな輪がついている。

「この国では男性も女性もピアスはしませんから」

 せいぜい女性がイヤリングをするぐらいだ。

「僕の国では、だいたい十六の時にピアスの穴を開けるかな」

「痛そうですわ」

「まぁ、少しはね」

 耳に穴を開けるなんて、考えただけでも痛くて顔を顰めてしまう。

「その飾りには何か意味があるのですか?」

 王子のお付きの人や侍女たちもピアスをしており、金の輪を付けている人が多かった。小さな金の輪に羽を付けたり、花のモチーフを付けたりとアレンジは色々である。

「うん、この小さな金の輪は、指輪なんだ。アスタリア王国では子どもが三歳になった記念に、指輪を贈るんだ。裏に名前と誕生日を彫ってね。そして、十八になった時にも指輪を贈る。こちらの指輪はそのまま指につける人が多いんだけど、三歳の時のはこうやってピアスやネックレスに加工して身に着けるんだよ」

 そう言われれば、お付きの人や侍女の中には金の指輪を付けている人が多かった。あれはそういう風習のためかと納得する。

「僕は絵を描く時、指に何も付けたくないから両方ピアスにしているんだ。おもしろい風習でしょ?」

「はい。でも、成長を祝うなんて素敵ですね」

「他にも、既婚者はピアスに青色を入れるんだ。僕たちはピアスに色々な意味を込めているからね」

 初めて聞く話に、目を丸くする。隣の国なのに、知らない事だらけだ。
 そして王都の歴史的な建物や遺跡を巡っていく。ラウルによる教えが遺憾なく発揮され、シルヴィオが目を剥いていた。エリーナがそこまで歴史に明るいとは思っていなかったようだ。

「昔ラウル先生に歴史を学んでいたんです」

 理由を訊かれたエリーナがそう答えると、シルヴィオは納得した表情をした。

「道理で、彼の歴史への探求心はすごいからね。この夏にうちの国に来て、王立図書館の資料を貪り読んでいったって、館長から報告が上がってたよ。貴族の何人かと面会もしたらしいしね」

「先生は前王と前々王の時代を熱心に研究されているんです。わたくしも誇らしいですわ」

「へぇ、あの二人はこちらでも賢王と評されているよ。前王が崩御された時は、本当に残念だった」



 その後、カフェ・アークに寄ってお茶をする。カフェ・アークは南の王女が来てから奥に個室が三つ作られ、主に上流貴族の交流場所になっていた。さらに二号店がオープンし、こちらは幅広い客層向けで大繁盛しているらしい。

「この店はすごいね。プリンをここまで追求するなんて」

 『お嬢様のプリン』を一口食べたシルヴィオは目を見開いて、頬を緩ませる。甘いものは好きらしい。エリーナはクレームブリュレを食べながら、実はと話し出す。

「このお店のオーナーはクリスなんです。それで、わたくしがプリンが大好きだから……」

 それだけで合点がいったシルヴィオは、おかしそうに声を上げて笑った。

「クリス殿がエリーナ嬢のために作ったのか」

「……はい」

 本当はこれだけではないが、これ以上話せばさらに王子の笑いのツボを刺激しそうだった。

「エリーナ嬢は、本当にクリス殿に愛されているな」

「え……」

 その言葉にクレームブリュレが乗ったスプーンが止まる。

(愛されている?)

 シルヴィオの言葉には、家族の愛情だけでないものが含まれている気がした。胸がざわつく。

「なんだか羨ましくなってくる……」

 少し寂し気に表情を翳らせたシルヴィオだったが、すぐに意地悪そうに口角をあげて言葉を続けた。


「だから、意地悪してもいい?」
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