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アスタリア王国編
160 恋人の友人に話を聞こうか
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リズ・スロヴァ。最初にその名を知ったのは、エリーナが取り乱してクリスに不可解な疑問をぶつけてきた後だった。あまりに不自然だったため、学園で何かあったのだろうと交友関係を調べたところ、彼女の名が挙がってきた。
だが調査結果としては、普通の侍女を目指している子爵令嬢で、特筆するとすればたまに情報屋が存在を見失うほど存在感が無くなることぐらいだ。ロマンス小説が好きで、エリーナと意気投合したらしい。
エリーナがローゼンディアナ家に連れてきたので、ちょうどいいと忠告をすれば逆に言い返された。エリーナの事を何でも知っているような言い方が頭に来たが、その裏にエリーナへの好意が見えて排除できなかった。そうするうちにベロニカまで一緒になって、三人仲良く遊ぶようになっていた。
そして誘拐事件をきっかけに交流を持つようになり、お酒を片手にエリーナのことを語り合っていた。リズから聞くエリーナの話は情報屋も掴んでいないものが多く、仲を深めることはクリスにも利があったのだ。
その後卒業パーティーの場で、ベロニカから推薦されエリーナ付きの侍女になって今に至る。エリーナの信頼は厚く、他の侍女からの評判も高い。だが、クリスは一目会った時から、拭いきれない違和感があった。リズがエリーナに向ける眼差しは、侍女としての憧れでも敬愛でも、また友人としての親愛とも異なるものが混じっているような気がするのだ。
そしてその先を思考しようとしたところで、クリスの部屋のドアがノックされた。朝食が終わり少し経った頃だ。エリーナは勉強の時間で、時間の空いたクリスはリズと話をしようと呼び出していたのだった。
「入って」
クリスは時間切れだと、返事をする。すぐにドアが開き、完璧な礼をしてリズが入って来た。背筋をピンと伸ばしてまっすぐソファーに座るクリスを見ており、ずいぶん侍女らしくなったとクリスは感心する。手で向かいのソファーに座るように示し、リズは一瞬戸惑いを浮かべたがすぐに一礼して座った。
「突然ごめんね。落ち着いてエリーナについて訊きたくてね。アスタリアのことで何か不満を言っていない? まだプリンもロマンス小説もラルフレアの時ほど揃えられてはいないからさ」
「あ、いえ。エリーナ様は満足されていますよ。今日の朝食でもプリンを召し上がっておられましたし」
しかも二個も食べていた。王宮勤めの侍女たちが微笑ましくしており、後で厨房を覗けばプリン姫がおいしそうに食べていたという話で盛り上がっていた。
「そっか……それと、何か悩んでいることはない? 最近元気がない時があるから心配で」
ここでリズは呼び出された理由に得心がついた。リズはエリーナの悩みについて知っており、それが知りたいのだろうとあたりを付ける。だが、敬愛するエリーナのことをおいそれと明かすわけにはいかない。
「悩んではおられますけど……」
その答えにクリスは目を見開き、身を乗り出した。
「僕にできることはあるかな。エリーの悩みを取り除きたい」
クリスの表情からそれがひたむきな善意であることは伝わったが、リズは申し訳なさそうに首を横に振った。
「これはエリーナ様の問題です。クリス様は、エリーナ様がお話をされた時に静かに受け止めてくださるのが一番です」
サリーと同じことを言われ、クリスは小難しい顔になる。何かしたいのに何もできないのは、歯がゆくてしかたがない。
「リズはエリーナの悩みを知っているんだよね……」
恨みがましい視線を向けられ、リズは体をせわしなく動かす。
「あ、いえ。その、偶然にといいますか。あ、安心してください。エリーナ様はクリス様のことが大好きなので、悩まれているんです」
大好きの言葉がクリスの胸に響き、顔を上げた。気分は浮上したが、自分が抱えていることに思い至り、また急降下する。それと同時に、クリスはリズに不思議な話しやすさを覚えていた。なんだか昔から知っている雰囲気がある。
だからだろうか。つい、本心を零してしまった。
「でも、僕の隠し事を知ったら嫌いになるかもしれないよ」
口を突いて出てから、自分でも目を丸くした。言うつもりが無かった言葉が出てしまい、困惑する。
「クリス様の隠し事ですか? まぁ、人間誰しも隠し事くらいありますし、エリーナ様も寛容だとは思いますが」
リズが転生者であることを受け入れてくれたのだから、たいていのことは大丈夫のように思える。
「でも、傷つけるかもしれないし。怖がられるかもしれない」
曖昧な言い方に、リズは小首を傾げた。クリスが何を欲しているのか、今一つ掴みきれない。なので少しつっこんでみることにした。
「クリス様は何を隠されているのですか? よければお聞きしますが」
「いや、突拍子もないことだし」
クリスはリズが信じられるとは思えない。
(そもそもゲームを知らない人だし、頭がおかしいと思われるのがおちだ)
その一方で、不思議と落ち着くリズの雰囲気に話してみたくもなった。いつもニコニコしているリズなら、適当に流してくれる気もした。
(きっとエリーナはそんなリズだから話したんだろう。なら……)
信じてみようか。そう決意して口を開きかけた時、リズが「そうだ!」と明るい声を発した。重い空気を吹き飛ばすほど満面の笑みで、自信たっぷりに顔を近づける。
「クリス様が打ち明ける勇気がでないなら、私のとっておきの秘密を教えましょう! 突拍子がなさすぎて、ご自身の隠し事がどうでもよくなりますよ。あ、怪しいからって首にはしないでくださいね!」
「……え?」
魔王と称され暗躍してきたクリスをも呑むリズの圧倒的な前向きさと明るさ。クリスは呆気に取られて、返答に遅れてしまった。その一瞬の隙をリズは逃さず、爆弾を放り込む。
「実はこの世界はゲームの世界で、私は転生者なんですよ!」
意味が分からないほどのドヤ顔で、胸を反らして言い放った内容に、クリスは固まった。この世界に来て、初めて訳が分からないと思った。そしてまず理解できたのは、リズがゲームを知っているということで。
「え、なんでここがゲームの世界だって知ってるの?」
そう回転が鈍い頭で訊き返せば、驚くものと期待していたリズは腰を浮かせて、
「何でゲームを知ってるんですか!?」
と逆に驚くのだった。しばらく互いに見つめ合い、無言の時が流れる。
「リズ……一つずつ確認をしていこうか」
重々しい口調で口を開いたクリスに、リズは唾を飲みこんで頷く。二人の話し合いは思いもよらない方向へと進んでいったのだった。
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そして誘拐事件をきっかけに交流を持つようになり、お酒を片手にエリーナのことを語り合っていた。リズから聞くエリーナの話は情報屋も掴んでいないものが多く、仲を深めることはクリスにも利があったのだ。
その後卒業パーティーの場で、ベロニカから推薦されエリーナ付きの侍女になって今に至る。エリーナの信頼は厚く、他の侍女からの評判も高い。だが、クリスは一目会った時から、拭いきれない違和感があった。リズがエリーナに向ける眼差しは、侍女としての憧れでも敬愛でも、また友人としての親愛とも異なるものが混じっているような気がするのだ。
そしてその先を思考しようとしたところで、クリスの部屋のドアがノックされた。朝食が終わり少し経った頃だ。エリーナは勉強の時間で、時間の空いたクリスはリズと話をしようと呼び出していたのだった。
「入って」
クリスは時間切れだと、返事をする。すぐにドアが開き、完璧な礼をしてリズが入って来た。背筋をピンと伸ばしてまっすぐソファーに座るクリスを見ており、ずいぶん侍女らしくなったとクリスは感心する。手で向かいのソファーに座るように示し、リズは一瞬戸惑いを浮かべたがすぐに一礼して座った。
「突然ごめんね。落ち着いてエリーナについて訊きたくてね。アスタリアのことで何か不満を言っていない? まだプリンもロマンス小説もラルフレアの時ほど揃えられてはいないからさ」
「あ、いえ。エリーナ様は満足されていますよ。今日の朝食でもプリンを召し上がっておられましたし」
しかも二個も食べていた。王宮勤めの侍女たちが微笑ましくしており、後で厨房を覗けばプリン姫がおいしそうに食べていたという話で盛り上がっていた。
「そっか……それと、何か悩んでいることはない? 最近元気がない時があるから心配で」
ここでリズは呼び出された理由に得心がついた。リズはエリーナの悩みについて知っており、それが知りたいのだろうとあたりを付ける。だが、敬愛するエリーナのことをおいそれと明かすわけにはいかない。
「悩んではおられますけど……」
その答えにクリスは目を見開き、身を乗り出した。
「僕にできることはあるかな。エリーの悩みを取り除きたい」
クリスの表情からそれがひたむきな善意であることは伝わったが、リズは申し訳なさそうに首を横に振った。
「これはエリーナ様の問題です。クリス様は、エリーナ様がお話をされた時に静かに受け止めてくださるのが一番です」
サリーと同じことを言われ、クリスは小難しい顔になる。何かしたいのに何もできないのは、歯がゆくてしかたがない。
「リズはエリーナの悩みを知っているんだよね……」
恨みがましい視線を向けられ、リズは体をせわしなく動かす。
「あ、いえ。その、偶然にといいますか。あ、安心してください。エリーナ様はクリス様のことが大好きなので、悩まれているんです」
大好きの言葉がクリスの胸に響き、顔を上げた。気分は浮上したが、自分が抱えていることに思い至り、また急降下する。それと同時に、クリスはリズに不思議な話しやすさを覚えていた。なんだか昔から知っている雰囲気がある。
だからだろうか。つい、本心を零してしまった。
「でも、僕の隠し事を知ったら嫌いになるかもしれないよ」
口を突いて出てから、自分でも目を丸くした。言うつもりが無かった言葉が出てしまい、困惑する。
「クリス様の隠し事ですか? まぁ、人間誰しも隠し事くらいありますし、エリーナ様も寛容だとは思いますが」
リズが転生者であることを受け入れてくれたのだから、たいていのことは大丈夫のように思える。
「でも、傷つけるかもしれないし。怖がられるかもしれない」
曖昧な言い方に、リズは小首を傾げた。クリスが何を欲しているのか、今一つ掴みきれない。なので少しつっこんでみることにした。
「クリス様は何を隠されているのですか? よければお聞きしますが」
「いや、突拍子もないことだし」
クリスはリズが信じられるとは思えない。
(そもそもゲームを知らない人だし、頭がおかしいと思われるのがおちだ)
その一方で、不思議と落ち着くリズの雰囲気に話してみたくもなった。いつもニコニコしているリズなら、適当に流してくれる気もした。
(きっとエリーナはそんなリズだから話したんだろう。なら……)
信じてみようか。そう決意して口を開きかけた時、リズが「そうだ!」と明るい声を発した。重い空気を吹き飛ばすほど満面の笑みで、自信たっぷりに顔を近づける。
「クリス様が打ち明ける勇気がでないなら、私のとっておきの秘密を教えましょう! 突拍子がなさすぎて、ご自身の隠し事がどうでもよくなりますよ。あ、怪しいからって首にはしないでくださいね!」
「……え?」
魔王と称され暗躍してきたクリスをも呑むリズの圧倒的な前向きさと明るさ。クリスは呆気に取られて、返答に遅れてしまった。その一瞬の隙をリズは逃さず、爆弾を放り込む。
「実はこの世界はゲームの世界で、私は転生者なんですよ!」
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「え、なんでここがゲームの世界だって知ってるの?」
そう回転が鈍い頭で訊き返せば、驚くものと期待していたリズは腰を浮かせて、
「何でゲームを知ってるんですか!?」
と逆に驚くのだった。しばらく互いに見つめ合い、無言の時が流れる。
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