悪役令嬢の品格 ~悪役令嬢を演じてきましたが、今回は少し違うようです~

幸路ことは

文字の大きさ
184 / 194
アスタリア王国編

176 覚悟を決めます!

しおりを挟む
 そしていよいよ、リズは決戦の時を迎えていた。鏡で何度もおかしいところがないかを確認し、エリーナにも服と化粧を見てもらう。

 告白する。そう決めたからには万全の体制で臨みたい。最後の仕上げとエリーナに可愛いアメジストのネックレスをかけられ、リズは目を瞬かせてエリーナに顔を向けた。

「お守りよ。リズにあげるわ」

「え、いいんですか?」

 石は小ぶりだが、細工が凝っていて庶民が気軽に付けられるものではなさそうだ。

「えぇ。前祝よ。だから、ちゃんと捕まえてきなさいよ!」

「ひゃっ!」

 エリーナに背中を軽く叩かれ、気合を入れられた。正直すでに鼓動は早いし、手は汗ばんでいる。だが、引くつもりはない。それは、もっと絶望的な状況でもエリーナがクリスを信じ、想いを伝えたから。それを、リズは間近で見ていたからだ。

「エリーナ様。必ず仕留めて帰ってきます」

「リズ……リラックスして、狩りに行くんじゃないのだから」

「いえ、これは乙女の戦いです!」

 と自分を鼓舞し、リズは使用人たちが住む寮へと向かう。窓からは夕日が差し込んでおり、夕食に誘われたのだ。前と同じように入口のところにマルクがいて、その顔を見ただけで心臓が跳ねる。

「マルクさん、こんばんは」

「よぉ。今日も可愛いな」

「ちょっ、からかわないでください!」

 顔が赤くなったのを見られたくなくて、そっぽを向いてしまう。高鳴る心臓に重症だと思いつつ、リズはマルクの背について行くのだった。
 案内された部屋は以前のキッチン付きの小部屋ではなく、レストランのようなダイニングルームだった。小部屋ではあるが、丸テーブルの上には布がかけられ、椅子もいいものだ。花も飾られていて、使用人の寮とは思えない。
 リズが目を丸くして驚いていると、マルクが苦笑して訳を話しだした。

「ここ、侍女とかが作法の練習をする部屋なんだ。前の小部屋、全部埋まっててさ。隣に小さなキッチンもあるからって、厨房の仲間に勧められたんだ」

「へぇ、すごい」

 そう言えば、ローゼンディアナ家でも王宮でも作法を練習できる部屋があったことを思い出す。リズは椅子に腰かけ、まじまじと内装を見た。おしゃれな部屋だ。

「じゃ、すぐに持ってくるからちょっと待ってて」

「あ、はい」

 マルクが隣のキッチンへ消えると、リズはふぅと息を吐きだす。もともと緊張をしていたのが、この部屋の雰囲気がよくてさらに増してきた。リズはテーブルの上に置いてあった水を飲み、気分を落ち着かせる。

(ご飯を食べたら、告白するのよ)

 決意が鈍らないように、頭の中で何度も繰り返して言い聞かせる。
 ほどなくマルクはサラダとスープをもって来て、テーブルに並べていった。

「あの、手伝いましょうか?」

 配膳はリズの仕事だ。

「いいよ。リズちゃんはお客さんだから、座ってて」

 柔らかい微笑みを見れば、頬が熱くなる。そして一度キッチンに戻ったマルクが運んできたのは、リズが大好きなもので。

「オムライス!」

 ケチャップ色のドーム型のご飯の上に、オムレツが乗っている。ふるふると震えており、柔らかいのが見て分かる。

「すごい、割って食べるやつだ」

 家で作る薄い卵焼きがのったオムライスではない。テレビでしか見たことのない、中が半熟でとろけだしてくるオムライスだ。口を開け、目を輝かせているリズを見て、マルクは満足そうに口角を上げる。

「さっ、温かいうちに食べようぜ」

 そう促され、リズは待ちきれないと手を合わせる。二人の声がそろった。

「いただきます!」

 リズは他の物には目もくれず、スプーンでオムレツを割る。真ん中をすっと割けば、半熟の中身が左右に広がっていく。夢にまで見たオムライスの姿だ。

「か、完璧……」

 ケチャップの香りが食欲をさそい、喉が鳴る。もう待てないと、リズはご飯と卵をすくい、ぱくりと口に入れた。

「おいしい!」

 トマトの酸味とソースのうまみが合わさり、野菜と肉の歯ごたえが心地よい。卵が全てを包み込んで、一体となっていた。おいしさに笑みが零れ、幸せ過ぎて体が揺れる。家の味とはまた違う、優しさが溢れる味だった。

「マルクさん、最高です! これが食べたかったんですよ。オムライスってこんなに上品になるんですね。たまごがとろっとろで、幸せです。一生食べていられます」

「喜んでもらえれば本望だよ」

 マルクも一口食べ、満足そうに頷く。リズはオムライスを半分くらい食べてから、思い出したかのようにサラダとスープに手を付けた。どれもおいしく、頬が緩んでしかたがない。そんな最高の笑顔で食べるリズをマルクはじっと見ていた。
 リズは再びオムライスを食べ、おいしさに打ち震える。

「マルクさんの料理って、どれもおいしいですね。毎日食べたいくらいです」

 えへへと笑ってマルクに視線を向けると目が合い、甘さのある微笑みに心臓を打ち抜かれた。不意打ちであり、リズが気恥ずかしくなってもう一口とスプーンを差し入れた時、マルクの甘い声が耳に届く。

「じゃぁ、一生食べてよ」

 一瞬言葉の意味が分からず。リズは手を止めて、顔を上げた。

「その……もしよければ、俺と付き合わない?」

 マルクの顔も赤く、照れ隠しの笑みを浮かべている。

「へ?  付き合う?」

 初めて聞いた言葉のように、意味が入ってこない。無意識に言葉を繰り返せば、マルクが恥ずかしそうに頷いた。そこでようやく、告白されたことに気づく。

(え、え? なんで? 私が告白するのに、エリーナ様と約束したのに! こ、告白しないと!)

 だが頭は状況を整理できず、ぐるぐると混乱する。脳が本日の任務である告白を急かし始め、心は告白されたことを喜び始める。ちぐはくであり、リズは爆発寸前だ。

「だ、だめです!」

 口をついて出たのはそんな言葉で、マルクが傷ついた顔をしたのを見て、慌てて言葉を付けたす。

「いえ! だめじゃなくて、でもだめで! マルクさんが告白しちゃだめなんです! 私が、私が告白してゲットしないと。約束にならないんです!」

 自分でも言っている意味が分からない。言われたマルクはもっと意味が分からず、目を瞬かせてリズを見つめていた。ゆっくりと首が傾げられる。

「マルクさん!」

「ん?」

「好きです。付き合ってください!」

 リズは立ち上がり、昔見たテレビ番組のように手をさし伸ばした。マルクはポカンとしている。

「え? さっき、俺が言わなかった?」

「私から言いたいんです!」

 リズは顔を真っ赤にして目を瞑っている。この瞬間に全てをかけた。そんな顔だ。
 マルクは戸惑った表情をしていたが、真剣なリズの顔と言葉に状況を理解し、喜びがこみ上げてくる。そして立ち上がって極上の笑顔を向け、リズの手を取った。

「わかった。じゃぁ、これからよろしくな!」

 そう言って手を取られ、温かさと硬さを感じれば、リズの胸に嬉しさと感動が押し寄せてくる。緊張が解け、リズは手を離してへなへなと座り込んだ。そして服の上からかかっているネックレスに手を当てる。

(エリーナ様、ありがと。おかげで、上手くいった)

 今すぐエリーナに抱き着いて、報告をしたくなった。マルクも席に座り、照れ臭そうに笑っている。

「けどよかった。断られたらどうしようかって、ドキドキしてた」

「わ、私もですよ。なんだか、泣きそうです」

「俺は叫び出したい」

 二人は見つめ合い、どちらからともなく笑い声をあげる。一緒にいる心地よさは何倍にも膨らんでおり、胸がくすぐったい。二人は甘い空気に包まれ、ぽつぽつと話し出す。日本でのこと、今までのこと、そして未来のこと。

 そして、この結果を聞いたエリーナが抱き着いて喜び、お祝いしなきゃと夜のプリン会が開かれるまでもう少し。この日のためにマルクが同僚に頼んで、いい部屋を用意し、連日オムライスを試行錯誤して同僚をオムライス漬けにしていたことを知るのは、さらに先である。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

処理中です...