黒魔女のイデア

春華(syunka)

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第14話 復活の儀式

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冷たい空気に包まれたマデュラ子爵家地下通路をマルギットはハイノを伴い進んでいた。

コツッコツッコツッ・・・・
ポッ・・・・

コツッコツッコツッ・・・・
ポッ・・・・

通路の石壁左右に設けれている燭台のロウソクに火を灯す。

「このような所があったのだな。
城外への抜け道があるとは聞いてはいたが、
貯蔵庫までしか足を踏み入れたことがなかった」

ハイノはまるで探検でもしているかのように楽しそうにマルギットへ語りかけた。

「そなたと2人で領地を巡っていたことが思い出されるな」

ハイノは燭台を手にするマルギットへ優しい微笑みを向ける。

「・・・・」

マルギットはそんなハイノの姿がいたたまれなかった。

これからハイノを差し出す儀式を行う。自ら進んでにえになると言い出したのはハイノだった。

その為に昨夜は4人で最後の晩餐をした。
アルノーとフレデリカへマデュラ子爵家の当主と伴侶が継承する指輪も授けた。

準備は全て整えた。マルギットはここまできてまだ迷っていた。

ハイノを失うことが怖かった。己の命で済むのであれば差し出すことは容易たやすいと思っていた。

ピタリッ・・・・

マルギットは八芒星の魔法陣が敷かれた隠し部屋への歩みを止めた。

『今からでも・・・・
ハイノではなく、私がにえになることはできぬであろうか?
ハイノの中で私の中にいるマルギットが復活することはできぬのであろうか?』

マルギットは顔を上げ暗い地下通路の行く手を見つめた。

ハイノがマルギットの様子にそっと寄り添う。
マルギットが手にする燭台を自身の右手に移すと左手でマルギットを優しく抱き寄せた。

マルギットの額に口づけをする。
じっとマルギットの緋色の瞳を自身の灰色の瞳で見つめた。

「マルギット、そなたの考えは全て解っているぞ。
そなたがにえに代われはしないかと考えているのであろう?
その様な事はできぬぞ。そなたがマデュラの当主だ。
そして、そなたがマデュラの印を受け継いだのだ。
そなたはこの先のマデュラを見届けねばならぬ。
心配いたすな。私はそなたの傍にいる。
身体がなくなろうともそなたの傍にいる。安心いたせ」

左手をマルギットの頬に添えると口唇くちびるを重ねた。

「そなたが天に召されるまで傍にいる。
そして、来世もそなたと共に生きたいと強く願おう。安心致せ」

ハイノは愛おしそうに再び口唇を重ねた。

「・・・・うっ・・・・うぅ・・・・
ハイノ・・・・ごめんなさい。
私はあなたに辛い思いばかりをさせて・・・・
ごめんなさい・・・・」

マルギットはハイノの胸に額をつけて涙を流した。

ハイノは優しくマルギットの頭をなでる。

「マルギット、私はそなたと添い遂げる事ができたのだぞ。
星読みの縁で結ばれ、子を成し、共に領地を治め、
シュタイン王国のこの先の理想イデアへ向かう礎を築けたのだ」

「私は幸せであった。そなたと共に生きられてこの上なく幸せであった。
マルギット、愛している。この身が滅ぼうともそなたへの想いは変わらぬ。
されば泣かずともよい。そなたの微笑む顔で見送って欲しい。
そなたの微笑みむ顔が好きなのだ」

ハイノはマルギットの頬を伝う涙を拭い、ゆっくりと口唇を重ねた。

マルギットの涙が止まるとハイノは口唇を離す。

「さぁ、マルギット、共に領地を治めようぞ。その為の旅立ちだ。まいろう」

ハイノはマルギットの左手を取ると地下通路を並んで進んだ。


地下通路を3度を曲がった所でマルギットは足を止めた。右側の石壁に薄っすらと浮かぶ八芒星の刻印に左手を重ねる。

チリッ・・・・チリッ・・・・
チリッ・・・・チリッ・・・・

左手にチリチリと小さな痛みが走る。

バチンッ!!!
ブワンッ!!!

赤黒い靄が八芒星の刻印から湧き上がりマルギットの左手を刻印に固定させた。

ゴッ・・・・ゴッ・・・・
ゴッ・・・・ゴッ・・・・
ガコンッ!!!
八芒星の刻印が石壁の中へ凹むと大きな音を立てて止まった。

ゴッゴゴゴゴーーーー

ズンッ!!!

石壁が右側へ動き、隠し部屋が現れた。

ボッボッボッ・・・・
ボッボッボッ・・・・

石壁が開くと隠し部屋の壁面に沿って設置されている燭台に明かりが灯る。

スッ・・・・

マルギットは隠し部屋へハイノを先導するように足を踏み入れた。

「ハイノ、ここが隠し部屋です」

マルギットは隠し部屋へハイノを招き入れる。

「・・・・この様な仕掛扉のある隠し部屋があるとは・・・・
マデュラの先人の叡智えいちには驚かされる」

ハイノは隠し部屋の中を見渡しながら感心した様子で石壁の扉をくぐった。

扉の正面に石材の椅子が置かれている。
椅子の足元から伸びる八芒星の魔法陣をハイノはまじまじと視ていた。

「この椅子に腰を下せばよいのだな」

ハイノはツカツカと足音を立て、八芒星の魔法陣の外側を回ると躊躇ちゅうちょなく石材の椅子に腰を下した。

ひんやりとした石材の椅子が思いがけず座り心地がよい事に感嘆の声を上げる。

「ほう、これはなかなかに座り心地がよいぞ、マルギット。ただ、少し冷たいな・・・・」

バシッ!!
バシッ!!
バシッ!!

ハイノが椅子の感想を言い終わるか終わらないかの内に赤黒いもやがハイノの両手両足、そして首と腰、胸元を固定した。

「うっ・・・・」

ハイノは突然の事に思わずうめき声を上げた。

「ハイノっ!!」

マルギットはハイノの姿に石材の椅子に駆け寄る。

パタンッ・・・・

マルギットはハイノの前で膝まづクトハイノの身体を固定した石材の椅子から伸びる赤黒いもやのベルトを解こうと手を伸ばした。

バチンッ!!!

「痛いっ!!」

赤黒いもやのベルトは触れようとしたマルギットの手をはじいた。

「・・・・」

ハイノは椅子に固定された自身の身体が解く事はできないと認識するとマルギットへ微笑みを向けた。

「マルギット、これでよかったのだ。
もはや解く事はできぬ。さぁ、そなたも所定の位置に就くのだ。
私のマデュラの当主の伴侶としてのマルギットの夫としての最後の務めだ。
つつがなく仕えさせて欲しい」

ハイノは自身の前に膝まづき見上げているマルギットの緋色の瞳をじっと見つめた。

つっっぅぅぅ・・・・

マルギットの頬を涙が伝う。

「マルギット、そなたの涙を拭う事ができずにすまぬな。微笑んでくれぬか?」

マルギットを見下ろすハイノは目を細める。

「マルギット・・・・口づけをして欲しい。
そなたと来世も共に過ごせるよう今一度、天に願う。
口づけを・・・・」

スッ・・・・

マルギットは頬を伝う涙を拭い、立ち上がるとそっとハイノの頬へ両手を添えた。

ゆっくりと自身の口唇をハイノの口唇に重ねる。
口唇を重ねたままマルギットは呟いた。

「ハイノ、来世も共に・・・・私と共にいて下さい。
いいえ、私がハイノの傍にいさせて欲しいと願います」

ポロリッ・・・・

目頭から流れた涙が重なる口唇に落ちる。
暖かさと塩味しおみを帯びた涙をハイノは口唇ですくった。

「マルギット、来世で会おう。
私のそなたへの想いに応えてくれ感謝するぞ」

「はい・・・・ハイノ。来世で会いましょう。
この想いのまま来世でもハイノを愛します」

マルギットとハイノは緋色の瞳と灰色の瞳を合わせるとお互いを忘れぬ様にするかの様にもう一度口唇を重ねた。

スッ・・・・

マルギットはハイノから口唇と離すと上体を起こしハイノの両頬に添えた両手を名残惜しそうに離す。

カツッカツッカツッ・・・・

隠し部屋中央に描かれている八芒星の魔法陣の中へ入る。
魔法陣の中央に石材の椅子に腰かけたハイノと向かい合わせに立った。

ピィィィーーーーン
ピィィィーーーーン

金属をすり合わせた様な音が耳をつんざいた。

「うぅぅ・・・・」

マルギットは堪らず両耳を塞ぎ、その場に座り込んだ。

「マルギットっ!いかがしたっ!」

ハイノがマルギットの様子に声を荒げる。
薄っすら目を開けハイノを見る。

ハイノにはこのとてつもなく嫌な音が聞こえていない様だった。

ゾクリッ!!!
ゾクリッ!!!

マルギットの背中に寒気が走る。

「・・・・あっ・・・・これはっ・・・・」

己の中にいるマルギットが現れる時の感覚だった。

ドクンッ・・・・
ドクンッ・・・・

「ううぅ・・・・はぁはぁ・・・・」

胸が大きく波打つと激しい痛みが走り、息苦しさに身を縮めた。

「マルギットっ!!!」

ガタッガタッ!!!

ハイノが椅子に固定された自身を解こうと身体を揺らす。

ビシッ!!!
ビシッ!!!

ハイノが身体を揺らすと赤黒いもやのベルトが締まり身体に食い込んだ。

「うっ!!!マルギットっ!!!」

身体が締め付けられ薄っすらと血が滲む。
それでもハイノは魔法陣の中央でうずくまるマルギットを気づかった。

「マルギットっ!いかがしたっ!返事をっ!返事をしてくれっ!」

ブワンッワンッ!!!
ブワワワヮァ!!!!

赤黒い靄がマルギットがうずくまる魔法陣の中央から大きく湧き立った。

「マルギットっ!!!」

ハイノは石材の椅子ごと動くのではないかと思う程身体に力を込める。

ブワンッワンッ!!!
ブワワワヮァ!!!!

八芒星の魔法陣の八つの頂点から赤黒いもやが湧き立つと天井に向けて柱の様に伸びる。

グルンッ!!!!

八つの柱と中央のマルギットを包み込んだ赤黒いもやがドーム状になった天井に達すると螺旋を描いた。

ワンッワンッワンッ!!!
ワンッワンッワンッ!!!

赤黒いもやは激しく回転をする。
天井一杯に広がった螺旋が徐々に収縮を始めた。

ブワンッブワンッ!!!
ブワンッブワンッ!!!

見る見る小さくなるとマルギットの横に人形ひとがたに模した赤黒いもやかたまりが現れた。

「・・・・はぁはぁ・・・・はぁはぁ・・・・」

マルギットは苦しそうに呼吸をしながら己の横に立つ赤黒い人形ひとがたもやを見上げる。

ニヤリッ・・・・

人形ひとがたの赤黒いもやの口元がマルギットを見下しニヤリと笑った。
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