133 / 133
番外編章
【番外編】俺とコムギの、あの日の披露宴 後編
しおりを挟む
料理は完成したが、調理を始めるまで色々なものをコムギと一緒に食べたことは忘れてはならない。俺は余裕だがコムギは一般的な量しか食べられないからな。
意図せず大袈裟なイベントになってしまったけれど、もし腹がいっぱいなら無理をして食べちゃいけない。
でも一緒に食べて回ったからこそ、コムギにはまだ余裕があるということも俺は感じ取っていた。
だからここで口にするべきなのは心配の言葉ではなく、誘いの言葉だ。
「コムギ、最後にもし良かったら――これもどうかな?」
色々なものを一緒に口にした。
その末席に手料理を加えてくれないか、と問う。
俺の言葉に花の咲くような笑みを返したコムギは青い目を細めて頷いた。
「もちろん、いただきます!」
「よしきた! さあ、好きなものからどうぞ。それぞれ味の方向性が違うから、間に他のものを口にするのもオススメだぞ」
口のリセット用に色々な飲み物も用意してあるんだ、とウキウキしながら説明すると、待ってましたと言わんばかりの勢いになっていたのかコムギに微笑ましげな顔をされた。
少し恥ずかしいが快諾してもらえて嬉しかったんだから仕方ない。
コムギは嬉しそうに「了解です」と笑うと、冷める前に食べたいからと一番初めに完成したアップルトスカから手を伸ばした。
アップルトスカは前世の北欧でよく食べられていたお菓子だ。
トスカカーカっていうお菓子とアップルパイを合わせてアップルトスカ、だな。
もちろんこっちの世界に同じ国はないが、似たような国は存在しており、アップルトスカもそこが発祥だという。いつか自分の足で赴いてみたいところだ。
簡単に言うとバターケーキの上にリンゴやアーモンドがのってるんだが、味見をした時はカリカリ感とリンゴのジューシーさが良い感じのマッチ具合だった。
……味見でワンホールぺろっと平らげそうになったのは内緒だ。
なんとなく観客にはバレてた気もするが。
ざく、とアップルトスカを一口齧ったコムギは目をぱちくりとさせる。
「すごい、普段食べてるアップルパイとはまた違った食感ですね、美味しいです!」
「おっ、よかった。リンゴも甘いものを用意してもらえたからイメージしてたより更に出来が良くなったんだ」
そう言いながら俺が1ピース摘まみ上げてみせると、コムギがおずおずと口を開いてこちらを見上げた。――えっ、なにそれ可愛い。食べさせてほしいってことか?
コムギにしては珍しいが、甘えてくれるのは大歓迎だ。
そっと差し出すとコムギはアホ毛を揺らしながら齧る。
一口が小さい。可愛い。
などと思っていると周りから口笛の音がいくつも飛んできた。
神様でも俗っぽい囃し立て方をするんだな!?
少しばかり恥ずかしくなっているとコムギも頬を赤らめつつもしっかりと二口目を齧っていた。
うん、とりあえず今度やる時はうちの中でやろう。
そうして二品目は味噌汁だ。
甘いものの後なので口直しを勧めると、コムギは少し悩んでから緑茶を選んでいた。温かいしホッとできる良いチョイスだと思う。俺も一緒に飲んだ。
「じゃあ、お味噌汁もいただきますね」
コムギはいそいそとお椀を両手で持つと、まずは一口だけ啜る。
そしてハッとして俺の顔を見た。
「お父さんの味噌汁と同じ味がします……!」
「ふふふ、じつは事前に習っておいたんだ。色んな最高品質の食材を使ってオリジナルの味噌汁を作っても良かったんだが――コムギが馴染んだ味にしたくてさ」
「!」
ミールに……お義父さんに頼んだら快諾してくれた。
それどころかその瞬間に涙腺が決壊して心配したくらいだ。
まさかすぎてめちゃくちゃ戸惑ったぞ。お義父さんに食べさせるわけじゃないのにあんなに喜ばれるとは思ってなかったからさ。
でもそれだけコムギが大切に育てられてきたって証拠だな、あれは。
「最初の一品目をアップルトスカにしたのはちょっとアレンジを利かせた結果だ。ほら、コムギにはミートパイとかパイ系を頼むことがあったろ? だからアップルパイにしようかと思ったんだが、目新しいのも入れたくてさ、その……」
残りふたつがさっき言った『コムギが馴染んだ味』だから。
そう伝えるとコムギは残りの三品目に視線をやった。
三品目はサンドイッチ。ただし普通のサンドイッチとは少しだけ違う。
それはライブレッドを使ったサンドイッチだった。
ライブレッドのサンドイッチは四種類並んでいる。
胡椒をまぶしたハムとチーズを挟んだもの、マヨネーズ多めに和えたマッシュポテトを挟んだもの、潰したかぼちゃとバターを混ぜたクリームを挟んだもの、そして芽キャベツにガーリックやからしマヨネーズを使ったもの。
そう、これはコムギが行方不明になった際、王都へ向かう俺にお義父さんが持たせてくれたサンドイッチだった。
「味噌汁を習った時に教えてもらったんだ。……これ、コムギが小さい頃の好物でもあったんだな」
「は、はい、よくお父さんと――そしてお母さんと一緒にピクニックに行った時に作ってくれて。四種類ともとても好きでした」
お義父さんはコムギが見つからなくて不安な時でも娘の好物を作り、そして無事に見つかるように祈りを込めて俺に弁当として渡してくれたんだろう。
だから今日、俺からコムギに作るメニューに加えたかったんだ。
「俺もこれには元気づけられたからさ。四種類もあってちょっと大変かもしれないけど、よかったら食べ……」
「もちろん食べます! 全部食べます! 残さず食べます!」
すごい食い気味だ!
さすが好物だな……と思ったが、自意識過剰でなければそれ以外の理由も含まれていると思う。
俺はパクパクとサンドイッチを口に運ぶコムギを眺めながら満足感に浸っていた。
コムギを楽しませ、笑顔にできるだろうか。
そう心配していたが――結果は、今のこの嬉しげな顔を見れば一目瞭然である。
***
こうして食事の神によるリアルタイムクッキングショー、もとい新郎から新婦への手料理の披露は無事に終了した。
その後は少し多めに作っておいた同じ料理を神々にも配ったんだが、意外と好評でホッとした。舌の肥えた神が多いのが若干の気掛かりだったものの杞憂で済んだみたいだ。
ニッケなんて珍しくスケッチの手を止めてアップルトスカを齧っていたから、気に入ってくれたのかもしれない。
そうして深夜になる前に神々を交えた披露宴は幕を閉じた。
凄まじい長丁場だったが、まあ最高神の婚礼がこれで済んだと思えば早いほうだったかもしれない。マジで三日三晩続く祭りに発展してた可能性もあったからな。
今夜は天界に泊まり、明日になってから食事処デリシアへ帰ることになった。
俺とコムギは食通同盟の拠点に使われているコゲの神殿へと久しぶりに赴き、その一室でようやく大きく伸びをする。
「俺は疲れたりはしないけど……コムギは大丈夫か? ドレスも重かったろ?」
「ふふ、大丈夫ですよ。これで結構鍛えてるんですから!」
コムギはむんっと腕を曲げてみせる。
目立った筋肉はないものの、狩りの時に見せる頼もしさを考えると俺が思っている以上に逞しいのかもしれない。というか確実にそうだ。
俺は笑いながらコムギと一緒に窓際に並んだイスへと座る。
「俺さ、……結婚式、コムギと挙げられて本当に嬉しかったよ。コムギは?」
結婚式をしなくても家族にはなれる。
でもああやって色んな人たちに祝われながら、ふたりでひとつのことを成し遂げたのは素直に楽しかったし嬉しかった。記念日みたいに年一でやりたいくらいだ。
そう言うとコムギはくすくすと笑って「私もですよ」と頷いた。
「式だけでもあんなに嬉しかったのに、披露宴までしてもらえて、しかもシロさんに手料理まで作ってもらえたので……死ぬまでずっと嬉しくなっちゃいそうです!」
「長続きだな! あはは、でもそうだったなら俺も更に嬉しいよ。嬉しいことが連続するとそう言いたくなるよな」
ちなみに下界で行なった結婚式の最後にはラクタも駆けつけ、無事に孫が生まれたことを知らせてくれた。めでたいこと続きだ。
辞退に関しては謝ってくれたけど、家族を優先してもらわないと俺たちも気が気でないからな。
むしろ今日という日に朗報をプレゼントしてくれて感謝してるくらいだ。
ラクタはぜひ孫の名付け親になってほしいと言っていたので、あとでしっかりと考えさせてもらおう。
コムギも「色んなアイデアを出しますね!」と張り切っていた。
そんな幸せな話をしながら窓の外に視線をやると、地上で見るよりも明るい星空が地平線までいっぱいに広がっていた。
吹き抜ける少し冷たい風には地上と同じように土と草の香りが混ざっている。
ざわざわという音が耳に届き、屋根で見えない部分にも同じ空と大地が広がっているんだろうなと思わせてくれる。
いつ見ても壮大な景色だが、今夜は輪をかけてそう思った。
そっとコムギの顔を見る。
いつもはそこにない色が耳元に輝いていた。
結婚式でお互いに付けた耳飾り、つまり婚姻の証だ。
(……コムギは死ぬまで嬉しくなる、って言ってたけど)
この先、コムギがそう感じながら旅立つ瞬間が必ず訪れるだろう。
そして俺が神である限り、確実にそれを見届けることになる。
……いや、もし俺が人間だとしても自分より先にパートナーが亡くなる可能性は確実に存在しているものだ。父さんと母さんと突然別れることになったのも同じような感じだったから。
だからこそ一緒に過ごす時間を大切にしようと強く思える。
――まあ、もちろん時間制限がなくったって彼女のことは生涯大切にするけどな。
この世界で初めて俺を頼ってくれて、俺と一緒に生きると決めてくれた、大切な子なんだから。
だから死ぬまで嬉しい気持ち、楽しい気持ち、幸せな気持ちでいてもらえるように、これからも食事と真摯に向き合いながら俺らしく生きていこう。
そうすればコムギが笑ってくれることを俺は知っている。
だから、ほら。
手始めに明日の朝ごはんの話をすると――コムギは目を細め、肩を揺らして笑ってくれた。
意図せず大袈裟なイベントになってしまったけれど、もし腹がいっぱいなら無理をして食べちゃいけない。
でも一緒に食べて回ったからこそ、コムギにはまだ余裕があるということも俺は感じ取っていた。
だからここで口にするべきなのは心配の言葉ではなく、誘いの言葉だ。
「コムギ、最後にもし良かったら――これもどうかな?」
色々なものを一緒に口にした。
その末席に手料理を加えてくれないか、と問う。
俺の言葉に花の咲くような笑みを返したコムギは青い目を細めて頷いた。
「もちろん、いただきます!」
「よしきた! さあ、好きなものからどうぞ。それぞれ味の方向性が違うから、間に他のものを口にするのもオススメだぞ」
口のリセット用に色々な飲み物も用意してあるんだ、とウキウキしながら説明すると、待ってましたと言わんばかりの勢いになっていたのかコムギに微笑ましげな顔をされた。
少し恥ずかしいが快諾してもらえて嬉しかったんだから仕方ない。
コムギは嬉しそうに「了解です」と笑うと、冷める前に食べたいからと一番初めに完成したアップルトスカから手を伸ばした。
アップルトスカは前世の北欧でよく食べられていたお菓子だ。
トスカカーカっていうお菓子とアップルパイを合わせてアップルトスカ、だな。
もちろんこっちの世界に同じ国はないが、似たような国は存在しており、アップルトスカもそこが発祥だという。いつか自分の足で赴いてみたいところだ。
簡単に言うとバターケーキの上にリンゴやアーモンドがのってるんだが、味見をした時はカリカリ感とリンゴのジューシーさが良い感じのマッチ具合だった。
……味見でワンホールぺろっと平らげそうになったのは内緒だ。
なんとなく観客にはバレてた気もするが。
ざく、とアップルトスカを一口齧ったコムギは目をぱちくりとさせる。
「すごい、普段食べてるアップルパイとはまた違った食感ですね、美味しいです!」
「おっ、よかった。リンゴも甘いものを用意してもらえたからイメージしてたより更に出来が良くなったんだ」
そう言いながら俺が1ピース摘まみ上げてみせると、コムギがおずおずと口を開いてこちらを見上げた。――えっ、なにそれ可愛い。食べさせてほしいってことか?
コムギにしては珍しいが、甘えてくれるのは大歓迎だ。
そっと差し出すとコムギはアホ毛を揺らしながら齧る。
一口が小さい。可愛い。
などと思っていると周りから口笛の音がいくつも飛んできた。
神様でも俗っぽい囃し立て方をするんだな!?
少しばかり恥ずかしくなっているとコムギも頬を赤らめつつもしっかりと二口目を齧っていた。
うん、とりあえず今度やる時はうちの中でやろう。
そうして二品目は味噌汁だ。
甘いものの後なので口直しを勧めると、コムギは少し悩んでから緑茶を選んでいた。温かいしホッとできる良いチョイスだと思う。俺も一緒に飲んだ。
「じゃあ、お味噌汁もいただきますね」
コムギはいそいそとお椀を両手で持つと、まずは一口だけ啜る。
そしてハッとして俺の顔を見た。
「お父さんの味噌汁と同じ味がします……!」
「ふふふ、じつは事前に習っておいたんだ。色んな最高品質の食材を使ってオリジナルの味噌汁を作っても良かったんだが――コムギが馴染んだ味にしたくてさ」
「!」
ミールに……お義父さんに頼んだら快諾してくれた。
それどころかその瞬間に涙腺が決壊して心配したくらいだ。
まさかすぎてめちゃくちゃ戸惑ったぞ。お義父さんに食べさせるわけじゃないのにあんなに喜ばれるとは思ってなかったからさ。
でもそれだけコムギが大切に育てられてきたって証拠だな、あれは。
「最初の一品目をアップルトスカにしたのはちょっとアレンジを利かせた結果だ。ほら、コムギにはミートパイとかパイ系を頼むことがあったろ? だからアップルパイにしようかと思ったんだが、目新しいのも入れたくてさ、その……」
残りふたつがさっき言った『コムギが馴染んだ味』だから。
そう伝えるとコムギは残りの三品目に視線をやった。
三品目はサンドイッチ。ただし普通のサンドイッチとは少しだけ違う。
それはライブレッドを使ったサンドイッチだった。
ライブレッドのサンドイッチは四種類並んでいる。
胡椒をまぶしたハムとチーズを挟んだもの、マヨネーズ多めに和えたマッシュポテトを挟んだもの、潰したかぼちゃとバターを混ぜたクリームを挟んだもの、そして芽キャベツにガーリックやからしマヨネーズを使ったもの。
そう、これはコムギが行方不明になった際、王都へ向かう俺にお義父さんが持たせてくれたサンドイッチだった。
「味噌汁を習った時に教えてもらったんだ。……これ、コムギが小さい頃の好物でもあったんだな」
「は、はい、よくお父さんと――そしてお母さんと一緒にピクニックに行った時に作ってくれて。四種類ともとても好きでした」
お義父さんはコムギが見つからなくて不安な時でも娘の好物を作り、そして無事に見つかるように祈りを込めて俺に弁当として渡してくれたんだろう。
だから今日、俺からコムギに作るメニューに加えたかったんだ。
「俺もこれには元気づけられたからさ。四種類もあってちょっと大変かもしれないけど、よかったら食べ……」
「もちろん食べます! 全部食べます! 残さず食べます!」
すごい食い気味だ!
さすが好物だな……と思ったが、自意識過剰でなければそれ以外の理由も含まれていると思う。
俺はパクパクとサンドイッチを口に運ぶコムギを眺めながら満足感に浸っていた。
コムギを楽しませ、笑顔にできるだろうか。
そう心配していたが――結果は、今のこの嬉しげな顔を見れば一目瞭然である。
***
こうして食事の神によるリアルタイムクッキングショー、もとい新郎から新婦への手料理の披露は無事に終了した。
その後は少し多めに作っておいた同じ料理を神々にも配ったんだが、意外と好評でホッとした。舌の肥えた神が多いのが若干の気掛かりだったものの杞憂で済んだみたいだ。
ニッケなんて珍しくスケッチの手を止めてアップルトスカを齧っていたから、気に入ってくれたのかもしれない。
そうして深夜になる前に神々を交えた披露宴は幕を閉じた。
凄まじい長丁場だったが、まあ最高神の婚礼がこれで済んだと思えば早いほうだったかもしれない。マジで三日三晩続く祭りに発展してた可能性もあったからな。
今夜は天界に泊まり、明日になってから食事処デリシアへ帰ることになった。
俺とコムギは食通同盟の拠点に使われているコゲの神殿へと久しぶりに赴き、その一室でようやく大きく伸びをする。
「俺は疲れたりはしないけど……コムギは大丈夫か? ドレスも重かったろ?」
「ふふ、大丈夫ですよ。これで結構鍛えてるんですから!」
コムギはむんっと腕を曲げてみせる。
目立った筋肉はないものの、狩りの時に見せる頼もしさを考えると俺が思っている以上に逞しいのかもしれない。というか確実にそうだ。
俺は笑いながらコムギと一緒に窓際に並んだイスへと座る。
「俺さ、……結婚式、コムギと挙げられて本当に嬉しかったよ。コムギは?」
結婚式をしなくても家族にはなれる。
でもああやって色んな人たちに祝われながら、ふたりでひとつのことを成し遂げたのは素直に楽しかったし嬉しかった。記念日みたいに年一でやりたいくらいだ。
そう言うとコムギはくすくすと笑って「私もですよ」と頷いた。
「式だけでもあんなに嬉しかったのに、披露宴までしてもらえて、しかもシロさんに手料理まで作ってもらえたので……死ぬまでずっと嬉しくなっちゃいそうです!」
「長続きだな! あはは、でもそうだったなら俺も更に嬉しいよ。嬉しいことが連続するとそう言いたくなるよな」
ちなみに下界で行なった結婚式の最後にはラクタも駆けつけ、無事に孫が生まれたことを知らせてくれた。めでたいこと続きだ。
辞退に関しては謝ってくれたけど、家族を優先してもらわないと俺たちも気が気でないからな。
むしろ今日という日に朗報をプレゼントしてくれて感謝してるくらいだ。
ラクタはぜひ孫の名付け親になってほしいと言っていたので、あとでしっかりと考えさせてもらおう。
コムギも「色んなアイデアを出しますね!」と張り切っていた。
そんな幸せな話をしながら窓の外に視線をやると、地上で見るよりも明るい星空が地平線までいっぱいに広がっていた。
吹き抜ける少し冷たい風には地上と同じように土と草の香りが混ざっている。
ざわざわという音が耳に届き、屋根で見えない部分にも同じ空と大地が広がっているんだろうなと思わせてくれる。
いつ見ても壮大な景色だが、今夜は輪をかけてそう思った。
そっとコムギの顔を見る。
いつもはそこにない色が耳元に輝いていた。
結婚式でお互いに付けた耳飾り、つまり婚姻の証だ。
(……コムギは死ぬまで嬉しくなる、って言ってたけど)
この先、コムギがそう感じながら旅立つ瞬間が必ず訪れるだろう。
そして俺が神である限り、確実にそれを見届けることになる。
……いや、もし俺が人間だとしても自分より先にパートナーが亡くなる可能性は確実に存在しているものだ。父さんと母さんと突然別れることになったのも同じような感じだったから。
だからこそ一緒に過ごす時間を大切にしようと強く思える。
――まあ、もちろん時間制限がなくったって彼女のことは生涯大切にするけどな。
この世界で初めて俺を頼ってくれて、俺と一緒に生きると決めてくれた、大切な子なんだから。
だから死ぬまで嬉しい気持ち、楽しい気持ち、幸せな気持ちでいてもらえるように、これからも食事と真摯に向き合いながら俺らしく生きていこう。
そうすればコムギが笑ってくれることを俺は知っている。
だから、ほら。
手始めに明日の朝ごはんの話をすると――コムギは目を細め、肩を揺らして笑ってくれた。
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ
のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。
目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~
はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。
病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。
これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。
別作品も掲載してます!よかったら応援してください。
おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。
ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります
はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。
「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」
そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。
これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕!
毎日二話更新できるよう頑張ります!
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。
【あらすじ】
異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。
それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。
家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。
十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。
だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。
最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。
この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。
そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。
そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。
旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。
☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。
☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
🍄王子、最早屑としか言い様が無い。コレの家族はマトモなのが居るんでしょうか?
拉致監禁は立派な犯罪よ?王族だから裁かれないとでも言うのだろうけど…。
‥…神相手には無理だろ
蒼さん、コメントありがとうございます!
神様には敵いませんね…!
ビズタリートの事情や王族に関しては彼の兄も含めて二章中に出てくるので、今しばらくお付き合い頂けると嬉しいです🙌✨