【本編完結】白永くんはいっぱい食べたい ~転生したら食事の神だったので、すべて美味しくいただきます!~

縁代まと

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番外編章

【番外編】俺とコムギの、あの日の披露宴 後編

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 料理は完成したが、調理を始めるまで色々なものをコムギと一緒に食べたことは忘れてはならない。俺は余裕だがコムギは一般的な量しか食べられないからな。
 意図せず大袈裟なイベントになってしまったけれど、もし腹がいっぱいなら無理をして食べちゃいけない。

 でも一緒に食べて回ったからこそ、コムギにはまだ余裕があるということも俺は感じ取っていた。
 だからここで口にするべきなのは心配の言葉ではなく、誘いの言葉だ。

「コムギ、最後にもし良かったら――これもどうかな?」

 色々なものを一緒に口にした。
 その末席に手料理を加えてくれないか、と問う。
 俺の言葉に花の咲くような笑みを返したコムギは青い目を細めて頷いた。

「もちろん、いただきます!」
「よしきた! さあ、好きなものからどうぞ。それぞれ味の方向性が違うから、間に他のものを口にするのもオススメだぞ」

 口のリセット用に色々な飲み物も用意してあるんだ、とウキウキしながら説明すると、待ってましたと言わんばかりの勢いになっていたのかコムギに微笑ましげな顔をされた。
 少し恥ずかしいが快諾してもらえて嬉しかったんだから仕方ない。

 コムギは嬉しそうに「了解です」と笑うと、冷める前に食べたいからと一番初めに完成したアップルトスカから手を伸ばした。

 アップルトスカは前世の北欧でよく食べられていたお菓子だ。
 トスカカーカっていうお菓子とアップルパイを合わせてアップルトスカ、だな。

 もちろんこっちの世界に同じ国はないが、似たような国は存在しており、アップルトスカもそこが発祥だという。いつか自分の足で赴いてみたいところだ。
 簡単に言うとバターケーキの上にリンゴやアーモンドがのってるんだが、味見をした時はカリカリ感とリンゴのジューシーさが良い感じのマッチ具合だった。

 ……味見でワンホールぺろっと平らげそうになったのは内緒だ。
 なんとなく観客にはバレてた気もするが。

 ざく、とアップルトスカを一口齧ったコムギは目をぱちくりとさせる。

「すごい、普段食べてるアップルパイとはまた違った食感ですね、美味しいです!」
「おっ、よかった。リンゴも甘いものを用意してもらえたからイメージしてたより更に出来が良くなったんだ」

 そう言いながら俺が1ピース摘まみ上げてみせると、コムギがおずおずと口を開いてこちらを見上げた。――えっ、なにそれ可愛い。食べさせてほしいってことか?
 コムギにしては珍しいが、甘えてくれるのは大歓迎だ。
 そっと差し出すとコムギはアホ毛を揺らしながら齧る。
 一口が小さい。可愛い。

 などと思っていると周りから口笛の音がいくつも飛んできた。
 神様でも俗っぽい囃し立て方をするんだな!?

 少しばかり恥ずかしくなっているとコムギも頬を赤らめつつもしっかりと二口目を齧っていた。
 うん、とりあえず今度やる時はうちの中でやろう。

 そうして二品目は味噌汁だ。
 甘いものの後なので口直しを勧めると、コムギは少し悩んでから緑茶を選んでいた。温かいしホッとできる良いチョイスだと思う。俺も一緒に飲んだ。

「じゃあ、お味噌汁もいただきますね」

 コムギはいそいそとお椀を両手で持つと、まずは一口だけ啜る。
 そしてハッとして俺の顔を見た。

「お父さんの味噌汁と同じ味がします……!」
「ふふふ、じつは事前に習っておいたんだ。色んな最高品質の食材を使ってオリジナルの味噌汁を作っても良かったんだが――コムギが馴染んだ味にしたくてさ」
「!」

 ミールに……お義父さんに頼んだら快諾してくれた。

 それどころかその瞬間に涙腺が決壊して心配したくらいだ。
 まさかすぎてめちゃくちゃ戸惑ったぞ。お義父さんに食べさせるわけじゃないのにあんなに喜ばれるとは思ってなかったからさ。

 でもそれだけコムギが大切に育てられてきたって証拠だな、あれは。

「最初の一品目をアップルトスカにしたのはちょっとアレンジを利かせた結果だ。ほら、コムギにはミートパイとかパイ系を頼むことがあったろ? だからアップルパイにしようかと思ったんだが、目新しいのも入れたくてさ、その……」

 残りふたつがさっき言った『コムギが馴染んだ味』だから。
 そう伝えるとコムギは残りの三品目に視線をやった。

 三品目はサンドイッチ。ただし普通のサンドイッチとは少しだけ違う。
 それはライブレッドを使ったサンドイッチだった。

 ライブレッドのサンドイッチは四種類並んでいる。
 胡椒をまぶしたハムとチーズを挟んだもの、マヨネーズ多めに和えたマッシュポテトを挟んだもの、潰したかぼちゃとバターを混ぜたクリームを挟んだもの、そして芽キャベツにガーリックやからしマヨネーズを使ったもの。

 そう、これはコムギが行方不明になった際、王都へ向かう俺にお義父さんが持たせてくれたサンドイッチだった。

「味噌汁を習った時に教えてもらったんだ。……これ、コムギが小さい頃の好物でもあったんだな」
「は、はい、よくお父さんと――そしてお母さんと一緒にピクニックに行った時に作ってくれて。四種類ともとても好きでした」

 お義父さんはコムギが見つからなくて不安な時でも娘の好物を作り、そして無事に見つかるように祈りを込めて俺に弁当として渡してくれたんだろう。

 だから今日、俺からコムギに作るメニューに加えたかったんだ。

「俺もこれには元気づけられたからさ。四種類もあってちょっと大変かもしれないけど、よかったら食べ……」
「もちろん食べます! 全部食べます! 残さず食べます!」

 すごい食い気味だ!
 さすが好物だな……と思ったが、自意識過剰でなければそれ以外の理由も含まれていると思う。
 俺はパクパクとサンドイッチを口に運ぶコムギを眺めながら満足感に浸っていた。

 コムギを楽しませ、笑顔にできるだろうか。
 そう心配していたが――結果は、今のこの嬉しげな顔を見れば一目瞭然である。

     ***

 こうして食事の神によるリアルタイムクッキングショー、もとい新郎から新婦への手料理の披露は無事に終了した。

 その後は少し多めに作っておいた同じ料理を神々にも配ったんだが、意外と好評でホッとした。舌の肥えた神が多いのが若干の気掛かりだったものの杞憂で済んだみたいだ。
 ニッケなんて珍しくスケッチの手を止めてアップルトスカを齧っていたから、気に入ってくれたのかもしれない。

 そうして深夜になる前に神々を交えた披露宴は幕を閉じた。
 凄まじい長丁場だったが、まあ最高神の婚礼がこれで済んだと思えば早いほうだったかもしれない。マジで三日三晩続く祭りに発展してた可能性もあったからな。

 今夜は天界に泊まり、明日になってから食事処デリシアへ帰ることになった。
 俺とコムギは食通同盟の拠点に使われているコゲの神殿へと久しぶりに赴き、その一室でようやく大きく伸びをする。

「俺は疲れたりはしないけど……コムギは大丈夫か? ドレスも重かったろ?」
「ふふ、大丈夫ですよ。これで結構鍛えてるんですから!」

 コムギはむんっと腕を曲げてみせる。
 目立った筋肉はないものの、狩りの時に見せる頼もしさを考えると俺が思っている以上に逞しいのかもしれない。というか確実にそうだ。

 俺は笑いながらコムギと一緒に窓際に並んだイスへと座る。

「俺さ、……結婚式、コムギと挙げられて本当に嬉しかったよ。コムギは?」

 結婚式をしなくても家族にはなれる。
 でもああやって色んな人たちに祝われながら、ふたりでひとつのことを成し遂げたのは素直に楽しかったし嬉しかった。記念日みたいに年一でやりたいくらいだ。
 そう言うとコムギはくすくすと笑って「私もですよ」と頷いた。

「式だけでもあんなに嬉しかったのに、披露宴までしてもらえて、しかもシロさんに手料理まで作ってもらえたので……死ぬまでずっと嬉しくなっちゃいそうです!」
「長続きだな! あはは、でもそうだったなら俺も更に嬉しいよ。嬉しいことが連続するとそう言いたくなるよな」

 ちなみに下界で行なった結婚式の最後にはラクタも駆けつけ、無事に孫が生まれたことを知らせてくれた。めでたいこと続きだ。
 辞退に関しては謝ってくれたけど、家族を優先してもらわないと俺たちも気が気でないからな。
 むしろ今日という日に朗報をプレゼントしてくれて感謝してるくらいだ。

 ラクタはぜひ孫の名付け親になってほしいと言っていたので、あとでしっかりと考えさせてもらおう。
 コムギも「色んなアイデアを出しますね!」と張り切っていた。

 そんな幸せな話をしながら窓の外に視線をやると、地上で見るよりも明るい星空が地平線までいっぱいに広がっていた。
 吹き抜ける少し冷たい風には地上と同じように土と草の香りが混ざっている。
 ざわざわという音が耳に届き、屋根で見えない部分にも同じ空と大地が広がっているんだろうなと思わせてくれる。

 いつ見ても壮大な景色だが、今夜は輪をかけてそう思った。

 そっとコムギの顔を見る。
 いつもはそこにない色が耳元に輝いていた。
 結婚式でお互いに付けた耳飾り、つまり婚姻の証だ。

(……コムギは死ぬまで嬉しくなる、って言ってたけど)

 この先、コムギがそう感じながら旅立つ瞬間が必ず訪れるだろう。
 そして俺が神である限り、確実にそれを見届けることになる。

 ……いや、もし俺が人間だとしても自分より先にパートナーが亡くなる可能性は確実に存在しているものだ。父さんと母さんと突然別れることになったのも同じような感じだったから。
 だからこそ一緒に過ごす時間を大切にしようと強く思える。
 ――まあ、もちろん時間制限がなくったって彼女のことは生涯大切にするけどな。

 この世界で初めて俺を頼ってくれて、俺と一緒に生きると決めてくれた、大切な子なんだから。

 だから死ぬまで嬉しい気持ち、楽しい気持ち、幸せな気持ちでいてもらえるように、これからも食事と真摯に向き合いながら俺らしく生きていこう。
 そうすればコムギが笑ってくれることを俺は知っている。

 だから、ほら。

 手始めに明日の朝ごはんの話をすると――コムギは目を細め、肩を揺らして笑ってくれた。
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感想 1

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みんなの感想(1件)

蒼さん
2022.09.21 蒼さん

🍄王子、最早屑としか言い様が無い。コレの家族はマトモなのが居るんでしょうか?
拉致監禁は立派な犯罪よ?王族だから裁かれないとでも言うのだろうけど…。

‥…神相手には無理だろ

2022.09.21 縁代まと

蒼さん、コメントありがとうございます!
神様には敵いませんね…!

ビズタリートの事情や王族に関しては彼の兄も含めて二章中に出てくるので、今しばらくお付き合い頂けると嬉しいです🙌✨

解除

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