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第三章 母なる海には何がいる
第48話 【アスカニヒト視点】答えのわかるクイズ
――情けない。
内臓と血に立ち眩みがして戦線離脱した僕はアズサと共に貝探しに出ていた。
本当なら調理を手伝うべきだ。鹿ノ子はいつも簡単にやってのけるが、料理を作るというのは重労働だと僕は思う。それが毎日続くのなら尚更。
今日のように初めて訪れる場所に来たなら鹿ノ子も遊びたかったことだろう。
僕が手伝って時間に余裕ができれば遊ぶ余裕くらいはあったかもしれないというのに……この体たらくである。
「はあ、鹿ノ子に何かと注意するくせに僕が一番駄目ですね……」
『ニャン?』
「独り言です。――とりあえず、こうなったら貝探しで結果を出しましょうか」
アズサにそう言うとすべての触手機構を伸ばしてやる気を見せてくれた。
だがアズサは様々なことをできるとはいえ大図書館のゴーレムだ。
砂浜で貝探しなど想定されていないし、アズサ自身にも経験はない。ここはまず最初に僕が知識を活かしながら貝を見つけて学ばせなくては。
名誉挽回とまではいかないものの、少しでも役に立とうと心に決めて砂に指を挿し入れた。強化魔法をかけた指だ。これでスコップ代わりになるだろう。
……素手で油を掻き回していた鹿ノ子の姿を思い出して咳払いをする。
似てきたと言われたら癪だがアズサは言葉を喋らないので大丈夫だろう。
「いいですか、大抵の貝は砂の中にいます。こうして小麦の選別の時のように砂の中から貝を探して――」
『ニャニャン! ンニャンニャ!』
随分と楽しげな声でアズサが触手機構を駆使して周囲の砂を巻き上げた。
周りで爆発が起こって砂が巻き上げられたのかと錯覚したくらいだ。
なにせ砂柱が立っていたのだから。こんなものを見るなんて砂漠地帯でサンドワームを相手にした時以来である。
「ちょ、ア、アズサ、落ち着……」
『ニャ――――ンッ!!』
「うわっ!?」
更に激化するとは思わなかった。
こんなにもヤンチャだっただろうか、という疑問はあったが砂嵐にでも閉じ込められたかのようで気にしている隙がない。落ち着かせようと腕を伸ばすと手の平の上に何かがポンッとのせられた。
『ニャン!』
「……か、貝?」
そう、二枚貝だ。
目を瞬かせていると一気に落下した砂が散らばる音がした。巧みに僕とアズサにはかからないようにしてある。
良好になった視界でアズサを見ると鹿ノ子に持たされたカゴの中に大量の貝が入っていた。吉報を持ち帰られる……というのにさっきよりも情けない気持ちになったのはなぜだろうか。
「さ、さすがですね。大図書館でなくとも探し物は得意というわけですか」
『ンニャン!』
「……僕も頑張ります。【ケース】があるなら量はあっても困りませんからね」
もちろん絶滅させないように獲りすぎは厳禁ですよ、と言い含めておく。
とはいえこの狭い範囲でカゴにどっさりと獲れたところを見るに、貝の生息数はかなり多いと思われる。砂浜全体を掘り返すようなことをしなければ大丈夫だろう。
気を取り直して砂を踏みしめながら進み、ここぞという場所を見つけて掘り返していく――が、なぜだ。アズサは一瞬で見つけたのに僕はさっぱりである。
こ、これはいけない。
本当に名誉挽回どころではなくなる。汚名はひとつでいい。
「……はっ……いや、こういう時こそ冷静になるべきでしたね」
『ニャン?』
「僕も【サーチ】が使えるので貝探しに活かすべきでした」
あまり小さなものは対象外だが、鹿ノ子のものよりは細かく絞れる。
ただし範囲は鹿ノ子の【サーチ】のほうが桁違いだ。使っているところを見ると毎回ゾッとする。もちろん本人には言わない。
範囲は狭くとも貝探しに際してこれほど頼りになる魔法はない。
最近は鹿ノ子に任せきりだったのでうっかりしていた。
久しぶりに【サーチ】用に魔力を練り、発動させると小さな貝の存在を感じ取ることができた。よし、これで成果を出せる……と思ったところでひと際大きなものが引っ掛かって目を瞬かせてしまう。
「あっちに何かいますね。……モンスターかもしれませんが、しかし……」
鹿ノ子なら確かめたがるだろう。
なら放っておくわけにはいかないと考え、アズサと共に気配のする方角へと足を伸ばすと砂浜の終着点にある岩肌にできた穴が姿を現わした。
自然にできた岩穴のようだ。
危険極まりないが、気配は入ってそう遠くない場所からする。
「アズサ、確認のために入りますが……もし僕に何かあったらすぐに鹿ノ子を呼んできてくださいね」
『ニャン!』
彼女が来ると余計に危ない気がしないでもないが、まあ、その。
信頼していることに変わりはないのでこれ以上は深く考えないことにする。
ゆっくりと洞窟に足を踏み入れ、何度か滑りそうになり、うなじに落ちてきた水滴に驚いたりしつつも見つけたのが――シャコガイだ。
珍味として食用として売られているものはもっと小さかった気がするが、野生でしっかりと育つとこうなるんだろうか。
モンスター以外の生物には疎いのでそれ以上はわからなかった。
「……?」
どこからか視線を感じる。
洞窟内は暗く、炎で最低限の視界は確保しているが見渡せるわけではない。
ついでにそこかしこに海水が溜まっており、音も反響してわかりにくかった。
念のため調べていくか、と思ったところでシャコガイの陰に隠れていた黒いスライムが襲い掛かってくる。
色とシャコガイに重なっていたことから存在に気づくのが遅れてしまった。
……が、スライムは基本的に弱い。
腕の半分ほどの長さにした省エネ版の炎の槍で倒すとアズサが触手機構で拍手をしながら褒めてくれた。恐らくここに鹿ノ子がいたら同じことをしていただろう。
――なんだか離れてから妙に彼女を思い出してばかりな気がする。
最近はずっと共に行動していたせいだろう。
さっさと帰ろうか、と戦利品としてシャコガイをカゴに入れる。
(そういえばあの視線は、……)
スライムは目がないが敵の位置を探ることができる。
それを視線だと勘違いした可能性があった。どんな手段であれ探られればああいう感覚がするというものだ。
納得しつつ洞窟を後にし、鹿ノ子たちのもとへ戻ると僕を出迎えた鹿ノ子はここ最近で一番の笑みを浮かべながらイスを勧めた。
「さあ、アスカニヒト! 赤身か白身、どーっちだ!」
そしてそんなクイズまで出してくる。
目の前に置かれたのは魚のフライだった。久しく目にしていなかったものだ。
また手間のかかるものを、と思いつつ感謝する。……が。
「――あなたの表情で答えがわかっている気がするんですが、気のせいですかね」
少し笑いながらそう言うと、鹿ノ子の表情は「あっ」という顔に切り替わった。
ああ、まあ。
こういう百面相を見れたのだから、情けなく思いながら少しばかり頑張った甲斐があったかもしれない。
内臓と血に立ち眩みがして戦線離脱した僕はアズサと共に貝探しに出ていた。
本当なら調理を手伝うべきだ。鹿ノ子はいつも簡単にやってのけるが、料理を作るというのは重労働だと僕は思う。それが毎日続くのなら尚更。
今日のように初めて訪れる場所に来たなら鹿ノ子も遊びたかったことだろう。
僕が手伝って時間に余裕ができれば遊ぶ余裕くらいはあったかもしれないというのに……この体たらくである。
「はあ、鹿ノ子に何かと注意するくせに僕が一番駄目ですね……」
『ニャン?』
「独り言です。――とりあえず、こうなったら貝探しで結果を出しましょうか」
アズサにそう言うとすべての触手機構を伸ばしてやる気を見せてくれた。
だがアズサは様々なことをできるとはいえ大図書館のゴーレムだ。
砂浜で貝探しなど想定されていないし、アズサ自身にも経験はない。ここはまず最初に僕が知識を活かしながら貝を見つけて学ばせなくては。
名誉挽回とまではいかないものの、少しでも役に立とうと心に決めて砂に指を挿し入れた。強化魔法をかけた指だ。これでスコップ代わりになるだろう。
……素手で油を掻き回していた鹿ノ子の姿を思い出して咳払いをする。
似てきたと言われたら癪だがアズサは言葉を喋らないので大丈夫だろう。
「いいですか、大抵の貝は砂の中にいます。こうして小麦の選別の時のように砂の中から貝を探して――」
『ニャニャン! ンニャンニャ!』
随分と楽しげな声でアズサが触手機構を駆使して周囲の砂を巻き上げた。
周りで爆発が起こって砂が巻き上げられたのかと錯覚したくらいだ。
なにせ砂柱が立っていたのだから。こんなものを見るなんて砂漠地帯でサンドワームを相手にした時以来である。
「ちょ、ア、アズサ、落ち着……」
『ニャ――――ンッ!!』
「うわっ!?」
更に激化するとは思わなかった。
こんなにもヤンチャだっただろうか、という疑問はあったが砂嵐にでも閉じ込められたかのようで気にしている隙がない。落ち着かせようと腕を伸ばすと手の平の上に何かがポンッとのせられた。
『ニャン!』
「……か、貝?」
そう、二枚貝だ。
目を瞬かせていると一気に落下した砂が散らばる音がした。巧みに僕とアズサにはかからないようにしてある。
良好になった視界でアズサを見ると鹿ノ子に持たされたカゴの中に大量の貝が入っていた。吉報を持ち帰られる……というのにさっきよりも情けない気持ちになったのはなぜだろうか。
「さ、さすがですね。大図書館でなくとも探し物は得意というわけですか」
『ンニャン!』
「……僕も頑張ります。【ケース】があるなら量はあっても困りませんからね」
もちろん絶滅させないように獲りすぎは厳禁ですよ、と言い含めておく。
とはいえこの狭い範囲でカゴにどっさりと獲れたところを見るに、貝の生息数はかなり多いと思われる。砂浜全体を掘り返すようなことをしなければ大丈夫だろう。
気を取り直して砂を踏みしめながら進み、ここぞという場所を見つけて掘り返していく――が、なぜだ。アズサは一瞬で見つけたのに僕はさっぱりである。
こ、これはいけない。
本当に名誉挽回どころではなくなる。汚名はひとつでいい。
「……はっ……いや、こういう時こそ冷静になるべきでしたね」
『ニャン?』
「僕も【サーチ】が使えるので貝探しに活かすべきでした」
あまり小さなものは対象外だが、鹿ノ子のものよりは細かく絞れる。
ただし範囲は鹿ノ子の【サーチ】のほうが桁違いだ。使っているところを見ると毎回ゾッとする。もちろん本人には言わない。
範囲は狭くとも貝探しに際してこれほど頼りになる魔法はない。
最近は鹿ノ子に任せきりだったのでうっかりしていた。
久しぶりに【サーチ】用に魔力を練り、発動させると小さな貝の存在を感じ取ることができた。よし、これで成果を出せる……と思ったところでひと際大きなものが引っ掛かって目を瞬かせてしまう。
「あっちに何かいますね。……モンスターかもしれませんが、しかし……」
鹿ノ子なら確かめたがるだろう。
なら放っておくわけにはいかないと考え、アズサと共に気配のする方角へと足を伸ばすと砂浜の終着点にある岩肌にできた穴が姿を現わした。
自然にできた岩穴のようだ。
危険極まりないが、気配は入ってそう遠くない場所からする。
「アズサ、確認のために入りますが……もし僕に何かあったらすぐに鹿ノ子を呼んできてくださいね」
『ニャン!』
彼女が来ると余計に危ない気がしないでもないが、まあ、その。
信頼していることに変わりはないのでこれ以上は深く考えないことにする。
ゆっくりと洞窟に足を踏み入れ、何度か滑りそうになり、うなじに落ちてきた水滴に驚いたりしつつも見つけたのが――シャコガイだ。
珍味として食用として売られているものはもっと小さかった気がするが、野生でしっかりと育つとこうなるんだろうか。
モンスター以外の生物には疎いのでそれ以上はわからなかった。
「……?」
どこからか視線を感じる。
洞窟内は暗く、炎で最低限の視界は確保しているが見渡せるわけではない。
ついでにそこかしこに海水が溜まっており、音も反響してわかりにくかった。
念のため調べていくか、と思ったところでシャコガイの陰に隠れていた黒いスライムが襲い掛かってくる。
色とシャコガイに重なっていたことから存在に気づくのが遅れてしまった。
……が、スライムは基本的に弱い。
腕の半分ほどの長さにした省エネ版の炎の槍で倒すとアズサが触手機構で拍手をしながら褒めてくれた。恐らくここに鹿ノ子がいたら同じことをしていただろう。
――なんだか離れてから妙に彼女を思い出してばかりな気がする。
最近はずっと共に行動していたせいだろう。
さっさと帰ろうか、と戦利品としてシャコガイをカゴに入れる。
(そういえばあの視線は、……)
スライムは目がないが敵の位置を探ることができる。
それを視線だと勘違いした可能性があった。どんな手段であれ探られればああいう感覚がするというものだ。
納得しつつ洞窟を後にし、鹿ノ子たちのもとへ戻ると僕を出迎えた鹿ノ子はここ最近で一番の笑みを浮かべながらイスを勧めた。
「さあ、アスカニヒト! 赤身か白身、どーっちだ!」
そしてそんなクイズまで出してくる。
目の前に置かれたのは魚のフライだった。久しく目にしていなかったものだ。
また手間のかかるものを、と思いつつ感謝する。……が。
「――あなたの表情で答えがわかっている気がするんですが、気のせいですかね」
少し笑いながらそう言うと、鹿ノ子の表情は「あっ」という顔に切り替わった。
ああ、まあ。
こういう百面相を見れたのだから、情けなく思いながら少しばかり頑張った甲斐があったかもしれない。
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※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。