めーぷる詰め合わせ<SS&短編集>

楓乃めーぷる

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お題系ポスノベ

プロポーズの日

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 ※こちらは恋が始まる日の続きのお話になっています。
 このお話だけでも一話分としてお楽しみいただけますが、よろしければ恋が始まる日から続けてお読みくださいませ!

 +++
 

 彼からの呼び出しは上司越しに知らされ、何事かと思いながら会社でも滅多に行かない上層階の部屋へ足を踏み入れることになった。

「失礼いたします」
「はい、どうぞ。呼び出してしまってすみません。貴方の連絡先を知らなかったもので」

 彼は笑顔でそう言うと、側についていた秘書やら怖そうな人やらに出ていくようにと告げた。
 大人しく出て行ったけれど、怖そうな人が出ていく瞬間まで僕に対して無言の圧をかけていったので恐怖でしかない。

「どのようなご用件でしょうか?」
「ああ、会社だとそんな感じなのですね。お堅い雰囲気も好きですが、私はもっと貴方の笑顔が見たいな」

 彼は席を立って僕の側へ近づいてくる。
 僕と彼とでは身長差があるため、自然と彼へ見下ろされる形になってしまう。

「私にお話があるということでしたが」
「はい。この前は困らせてしまったようなので、まずはお食事にお誘いしようと思いまして」
「歓迎会的なことでしたら女性社員たちもご一緒したいと言っておりまして。お嫌じゃなければ……」

 言いかけたところで、彼の人差し指が僕の唇へ触れる。
 反射的に言葉を飲み込んでしまった。

「それも楽しそうですが、私は貴方と二人きりでお話がしたいのです。だから、今回は二人じゃダメですか?」
「は、はあ……」

 キラキラと眩しい表情で言われると、どうにも断り切れない。
 僕は勢いに押されて、誘いを受けてしまった。彼は嬉しそうに僕の手を取って両手で包み込んできた。

「良かったです。では、この携帯をお渡しするので、こちらで連絡を取り合いましょう。それなら問題ないですよね?」
「いや、問題しかないと思います。しかし、上司命令でしたら……」
「命令だなんて。お願いですよ?」

 フフっと嬉しそうに笑う彼の顔が綺麗すぎて、僕はすっかり打ちのめされてしまった。

 +++

 退社の時間を見計らったように、彼からメッセージで連絡が入った。
 例の預かってしまった携帯を覗くと、呼び出された場所と時間が書かれていた。

「なんか高そうな店だけど、今から家に戻る時間もないし。こんなスーツで入れる店なのかな……」

 身に着けているのは、洗濯しているけれど量販店で買った安物のスーツだ。
 しかも、あの美形と向かい合って食事しなければいけないなんて今までの中で一番緊張するかもしれない。
 仕事だと腹を括ってタクシーで指定の場所まで向かうと、名前を名乗るだけで店の人に席へ案内された。
 予想通りの高級レストランと言った雰囲気だが、全室個室のようで他の人に見られないのが幸いだろうか。

「ああ、良かった。来てくれないかと思いました」
「いや……あの状況で断れる人はなかなかいないのではないでしょうか……」

 恐縮しながら席へ着くと、彼が頼んでいたらしいワインがグラスへと注がれる。
 白ワインの入ったグラスを持つ姿も、また絵になる。
 ぼけっと見惚れていると乾杯を求められたので、僕もそっと手に取ってグラスを重ね合わせた。

 +++

 最初は緊張していたのだけれど、彼は話し上手で自然とペースに乗せられてしまった。
 気付けば、会社の愚痴や家族の話など取り留めない話をたくさんしてしまった気がする。

「ふふ。私が知らない世界の話はとても興味深いです。それに……そうして自然と笑っている姿に一目ぼれしたので、改めて見られて幸せです」
「幸せって……一体貴方の目には僕はどういう風に映っているんでしょうか?」

 僕が訪ねると、彼は満面の笑みを向けてくる。
 最初から思っていたけれど、彼の話にはついていけないがその話が嘘偽りないことだけは伝わってくる。
 それこそが彼の魅力なのだろうか?

「私が見かけたとき、貴方は困っていたおばあさんに寄り添って助けてあげていました。おばあさんも感謝して笑顔でしたが、貴方がおばあさんに向けていた笑顔がとても素敵で印象的でした」
「え、ああ……あの時でしたか。まさか見られているだなんて思っていませんでした」
「その時は知りませんでしたが、後から貴方を会社でお見かけして。こんな偶然はあるのだろうかと嬉しくなって慌てて花束を買いに行き、貴方を待ち伏せしていたのです」
「待ち伏せって……凄く驚きましたけど、急すぎて」

 僕が苦笑すると、彼が僕の右手をきゅっと握ってきた。
 じっと見つめられると、身体が硬直して動かなくなる。心臓の音がやけに煩い。

「会社にはたくさんの人がいます。私は貴方を他の誰にも取られたくありません。ですから、私と結婚してください」
「えぇっ!? 結婚!?」
「……ダメですか?」

 そんな、しゅんとした子犬のような目で見つめられてしまうと僕が悪いことをしているみたいだ。
 それにこの機会を逃したら、僕はこのまましがない会社員人生を終えてしまうだけだろう。
 ええい、こうなればとことん流されてやろうじゃないか!

「分かりました。貴方のことも全く分かりませんし、ついていけるか分かりませんが……これも何かの縁だと思います。どうぞよろしくお願いします」

 僕がぺこっと頭を下げると、彼はふにゃあと表情を崩して幸せそうに微笑んだ。
 どこまでも真っ直ぐで分かりやすい人みたいだ。

「はい! 私のこともたくさん好きになってくださいね」
「ええと……はい」

 +++

 難しい問題は一旦脇へ追いやり、彼のことを知るためにまずは同棲からということで今は彼と一緒に暮らしている。
 聞けば彼の方が僕より年下だし、僕の両親も健在だから問題も山積みだけれど……今は彼が僕へ向ける愛情を一心に受ける甘い生活に浸るのも悪くないなと思いはじめていた。

 <おしまい!>
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