彼の素顔は誰も知らない

めーぷる

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第五章 ギルド長からの招集命令

40.改めて思う

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 リューは僕のことなどお構いなしに、素直にシャツを脱いで上半身を僕の眼の前へと晒す。

 相変わらず均等の取れた体つきを見ていると今すぐに押し倒して愛撫したくなるが、一旦我慢する。
 気持ちを抑えてよくよく見れば腹の辺りが赤くなっている。

「もしかして、ヒビとか……」
「そこまではいっていない。打撲程度だ。だから、必要ないと言った」

 それでも気になったので腹に触れてみる。そこは普段よりも熱を持っていて、痣になりそうな予感があった。

「まず切り傷を消毒するから。そのまま動くなよ」

 リューは短く息を吐き出して動かない。
 僕は持ってきた消毒液を綿に染み込ませて無数の切り傷を丁寧に消毒していく。
 リューは顔色も変えずになされるがままだ。

「本当に顔色一つも変えないのか。切り傷はこれでいいとして、問題は打撲の方か」

 綿をゴミ箱へと捨て、今度は冷やした布を腹に当てようとするがリューは微妙な顔をする。

「その布でどうするつもりだ?」
「打撲を冷やすんだよ。でも座ったままだと面倒だから……リュー、ついでに少し寝て言ったほうがいい。疲労が回復したころに起こせばいいだろう?」

 何かを言いかけたが、疲れていたのかリューはベッドに上がって大人しく寝転んだ。

 今日のリューはやはり素直だ。
 そのまま目を瞑って身体を楽にする。

(怪我をしてなかったら完全にいただくところなのに……)

 僕は一人で納得して笑いリューの腹に布を置く。
 少しだけ身体を揺らしたが僕もそれ以上余計なことを話さずに見ていると、そのうちに静かな寝息が聞こえてきた。

 リューは普段なら油断できない場所で寝息を立てて眠ったりしない。
 ましてや身体を晒して眠ることもない。
 確かにここはギルドの中だが、襲撃だって全く無いとは言えないはずだ。

「それなのにこんなに無防備に眠ってしまうのか。それは僕がいるからと思っていいのか?」

 額に手を当てて優しく撫でてみる。それでも起きずに寝顔を惜しみなく僕に晒している。

「寝顔は気難しい顔じゃないよな。年相応で、可愛い」

 堪らずに指先を動かして撫でる。
 消毒の香りがほんのりと残っているし、顔もところどころ傷跡があるのにも関わらず見ていて飽きないし、愛おしく思う。

 (僕はそういう意味で人を好きだと思ったことなんてあったのか? ただ繋がればいいと思っていたけれど、それだけじゃ物足りないと、そう、感じ始めているのか)

 ――彼のことを知りたい、独占したい。

 こんな風に一人に思いを寄せるだなんていつぶりなのだろうか?
 リューを見ていたら改めて思い知らされてしまった。
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