彼の素顔は誰も知らない

めーぷる

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第六章 二人の距離感

42.変調の兆し

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 誰にも邪魔されずゆっくりと休んだリューは、僕より早めに目を覚ましたらしい。
 僕が目を開けた時には装備もすっかりと整っていた。

「……リュー? おはよう」
「お前の方が熟睡していたみたいだな」
「新しい装備を貰いに行って、後は家で休もうか」
「休みすぎだと言いたいところだが、武器の手入れもしたい」

 リューは自身の銃とナイフを大切にしている。
 気づけばまめに手入れしているので、ある意味趣味のようなものなのかもしれない。

 先程の戦いで傷ついているかもしれないし、装備の交換も必要だろう。

「ギルドの支給を受け取りに行って、それから戻ろう」

 リューは頷き、ベッドから降りる。
 僕も欠伸をしてゆっくりと起き上がり身支度を整えた。

 そのまま治療室を後にして、共に支給を貰いに行く。

 +++

 職員に話しかけると、すんなりと話が進んだ。
 僕の家が装備を優先的に提供しているという話も知っているとは思うが、それだけではなさそうだ。

「新しい装備ですね。ギルド長から優先して渡すようにと言われておりますのでお好きなものをお選びください」
「ありがとう。僕は特注だから大丈夫。リュー……リューライトの分をお願いします」

 ギルド長も大盤振る舞いと言うか、リューには特別に目をかけているみたいだ。
 父親代わりということを除いてもリュー自体に実力があるからな。

 仕事をこなしてくれるのならば、ギルド的にも損はないのだろう。

「リュー、ここは遠慮なく頂こう。ギルド長が良いと言っているのなら問題ないだろう?」
「……」

 リューはチラと僕に視線を寄越してから、職員が持ってきた装備一覧に目を向ける。
 暫く思案して、順に装備を指さしていく。
 それを職員が書き留めると一旦裏へと引っ込み、指定された装備を手に持って戻るとリューの前へと並べる。

 リューは無言で受け取りのサインをすると、装備を用意された袋に詰めて僕に視線で行くぞと訴える。

「はいはい。戻りますか」

 ここはおとなしく付いていく。
 歩く間も僕が話しかければ少しは返事してくれるけれど、会話が盛り上がることはない。

 元々寡黙だが家路を急いでいるというか、実は早く帰りたい理由があるのかもしれない。

「リュー? 大丈夫か?」
「……別に」
「早く帰りたいだけなら構わない。だがもし何か理由があるのなら言って欲しい」
「……家までは、大丈夫だ」

 何か意味深な言い方をしたリューが気になったが、早足で帰宅することにする。
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